2話 遭遇
俺は爆音のした方向に振り向いた。
今までの平穏な街が一変、恐怖に包まれている。
「はあ...強敵登場イベント...こりゃまた...」
「ね、ねえ、どうしよ...?」
リーラが足を震わせながら肩にしがみついてくる。
「何びびってるのさ」
「いや、私乙女だし?戦えないし?」
女神じゃなかったのか。天罰やらでスパパパッとやってくれないかね。
「じゃあ、とりあえず見に行こうぜ。話し合いくらいは出来るかもよ?」
言い終わらないうちに、俺は歩き出していく。
「え、ちょ、ちょっと!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ЛЖДОБ♦ЖБИ」
「何言ってんだこいつ」
俺の前に立つのは、気持ち悪い...及び禍々しい見た目をした怪物。
「ИДЛДЖДДДЖ♦!?」
なんか訴えかけてるのは分かるが、伝わらん。うーむ、日本語が分からない外国人はこういう気持ちだったのか。
とりあえず、ふと思いつきで、『意識掌握』で話しかけてみる。
”もしもし、聞こえますかー”
”!?貴様、我の言葉が分かるのか...?”
”んあ、テレパシー中だけかもだが、まあ伝わる。”
成程、テレパシー中は意識を直接読み取るから、会話が成立するのか。
”...誠に無礼ながら、お主に一つ頼みがある。”
頼み?まあ、聞くだけ聞こうかな
”なんだ?”
”我、闇を司りし精霊なり。しかし、悪しき者どもの策略により、我の精神は蝕まれてしまった。現在、我が体に残るのは、強い破壊衝動と多少の意識のみ。だから頼む。名も知らぬ人よ。我の依代となってほしい。”
闇を司りし精霊?依代?ようわからんがつまり...
”このままだと暴走するから、その前に乗り移らせろと?”
”左様。無理強いはしない。だが、我は人類を愛している。傷つけたくは、無い。”
成程。まあ、悪い話かの区別はつかないが、悪い奴じゃなさそうだ。多分。...きっと。
”いいよ。引き受けた。...けど、どうすればいい?”
”ふむ、お主、『意思干渉系異能力』を持っているだろう?それを使い、魔力廻線を無理矢理こじつけるのだ。”
こじつけるのだ、て...また強引だな。...まあ、やるだけやってみよう。
”まず、魔力を全身に張り巡らせるのだ、出来るか?”
魔力を全身に...俺は、全身に血が流れる様なイメージをしてみた。すると、上手くいったのか、身体中が微かに痺れるような感覚に陥る。成程、コレが魔力か。
...ん?よくよく見ると、闇の精霊さんに幾つか紫の光のようなものが付いている。操り人形に付ける糸のような...
”見えた様だな。それが魔力廻線だ。我の魔力廻線を、自分の物に繋げるように意識してみろ。”
言われるがまま、そう意識した。紫の糸と、自分の白い糸が繋がった。
...刹那。
「う、ぐ、おおぉぉぉ...」
思わず嗚咽が漏れてしまうほどに強い衝撃が身体を襲う。なんというか、超巨大扇風機に最大出力で吹かれているかのような感覚に。
”一発で成功しよるか。やはり、我が目に狂いはなかったと捉える。後は託したぞ。名も知らぬ者よ。”
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「...っぐ、はぁ、はぁ......」
脱力し、堪らず地面に体を放り出す。
「速いわよ貴方...って、あれ、どうしたの?」
「なんだ、遅いぞリーラ...もう、全部終わった。」
「は?終わったって...っ!?」
突如としてリーラが息を呑む。
「あなた、何よその魔力...?」
「は?」
聞くと、闇だか光だか分からないぐちゃぐちゃの魔力が、俺の体を包んでいたという。成程、闇の精霊を取り込んだから、魔力も混ざった訳だ。
「いわば混沌ね...」
ぶつぶつと呟いたリーラだが、やがてその顔を上げ。途轍もない現実を俺に突き付けるのだった。
「貴方、学校は?」