1話 墜落
「いつつ...無茶しやがる、あの女神...」
そんな愚痴を零す。ここは...街か?
そう考えながら俺は身体を持ち上げようとする...が。
うまく身体が持ち上がらない。というか、なにか重い物がのしかかって、身体が動かない。
「誰が重いよ、誰が!」
ん?この頭に来る声質は...
「まだ、付いてくるんですか。(自称)女神さん。痛いだけじゃ無くて、ストーカーの癖まで付ける気ですか?キャラ濃すぎません?」
「違っうわぁ!」
耳に劈く程大きな声で、(自称)女神は叫ぶ。
「貴方を蹴った時、バランスを崩しちゃったのよ!悪かったわね阿呆で!」
あらぁ、ドジっ娘要素まで注ぎ込んできた...もう手ぇ付けられんぞ...
「うぐぐ...」
「と、言うかですね。僕重いなんて思っただけで口には出していないんですが。」
「思ったんかい!...はぁ、それは、『意思介入』の効果よ。この異能力は、他人の考えを読んだり、介入してテレパシーしたり出来るわ。」
「へぇ、そりゃまた便利だ。それ、僕にも使えたりします?」
テレパシーとか、シンプルだが純粋に使ってみたい。
「さあ、どうかしら。貴方の能力は発動条件が『見る』ことだから、分からないわ。」
うーむ、自分で自分の能力に枷をかけてたのか。言葉の綾も悩みものだな。
「じゃあちょっと使ってみてくれます?」
軽く言ってみたが、(自称)女神さんは「え、良いけど?」と軽く了承してくれた。
「じゃあ、行くわよ...」
そう声を掛けた。(自称)女神の事をまじまじと見る。
「...ん?」
一瞬、ほんの僅かだが、(自称)女神の体にノイズが走ったような気がした。
”どう、なんか見れた?”
頭に多少聞き慣れた声が響く。なるほど。
”さあ、一瞬(自称)女神さんの体にノイズが走ったような... ”
”その女神さんっての止めない?私の名前はリーラ。今度からリーラって呼んで頂戴。...にしてもおかしいわね。ノイズが走るのは、大気の魔力廻線に無理矢理接続して、相手に繋げるから、一瞬接続が切れることが原因なんだけど、私は女神だからそんなこ...と...”
”ん?どうしました?”
”ああああああああぁぁぁ!!!”
スピーカーの音量を間違えた時みたいなキーンという音が頭に響く。
”うっわびっくりした!やめて下さい、急に大きな声出すの...それで、どうしたんですか?”
”はぁ、一回地上に堕ちたから、天界との接続が切れて、顕現しちゃったんだわ。”
”と、なると?”
”今の私は、女神じゃないわ。魔力保有量が桁違いに多いだけの、あなたの言う通り『ただの痛い人』よ。”
あら、あれフラグだったか。連呼したから山並みに立ってただろうが。
”ふむ、それはお疲れ様でした。それで、あのノイズは、能力発動の証、という事でいいんですね?”
”随分と軽いのね...えぇ、そう言って貰っていいわ。”
よし、それなら...
俺の能力────『異能複製』と言うらしい──を、使う。
その刹那。俺の頭に膨大な量の情報が流れ込んでくる。
”能力所有者の情報を捜索...発見。保有者一名。固有名【リーラ=クリスタ】。”
”保有者から情報を複製します。10%...21%...38%...49%...62%...71%...85%...完了。”
”能力に対し魔力の不足を感知。大気魔力の純正化...完了。体内魔力と併合...同じく完了。”
”能力『意思介入』...魔力の品質に対し能力の欠如を発見。修正及び改変...完了。能力『意思介入』は『意識掌握』に進化しました。”
その内容はさっぱりだが、『意識掌握』というスキルが手に入った様だ。
”『意識掌握』の獲得を秘匿しますか?”
え?あ、お願いします。秘匿ってなんだ?隠さなきゃ行けないことでもあるのか?
「ねぇ、貴方何したの?」
リーラがUMAでも見たかのような怪訝な顔で俺を見る。
「いや、何って言われても...異能複製?」
「なんで疑問系なのよ...じゃなくて!今、異能力の獲得を確認出来なかったわ。それまでは把握出来てたのに!」
あー、成程。秘匿ってそういう事か。
「あー、なんか秘匿しますか。って聞かれたから、ハイって答えちゃったよ。多分それじゃないかな。」
「『摂理秘匿』...?それ、女神級の異能力なんじゃ...あ、まさか...」
リーラは何か思い当たる節がある様だ。心無しか顔が少し青ざめているような気がする
「あなた、複製対象、ちゃんと選択しなかったわね...?」
選択...だ、と...?
「まあ、半分の原因は私にあるのだけれど...私に使える異能力は『意思介入』と『摂理秘匿』。多分、ノイズが走った時、そのまま間接的に『摂理秘匿』も読み取ったんだと思うわ。まさか『見た』ものだけじゃなくてそこから逆探知出来るだなんて...」
なにかぶつぶつ言っているが、要するに異能力的には俺もリーラと並んだって事か。あ、『意思介入』は『意識掌握』に進化したから、ちょっと上なのか?
「て事は、俺は女神って名乗れるんだな!」
「そう...って、あんた男じゃないのよっ!」
おっとうっかり。
なんて他愛のない───傍から見れば物騒かもしれんが───話をしていると。
ゴォォォォォ!
先のリーラと引けを取らぬほど耳を劈く音が街中に響いた。