序章 慈悲
「嗚呼、可哀想な子。まさか交通事故に巻き込まれて死ぬなんて・・・」
そうオーバーに語るのは、机を挟んで向こう側、紫色の座布団に座る、(自称)女神さん。どうやら俺は、交通事故に巻き込まれてしまったらしい。六畳一間、どことなくレトロな雰囲気を感じさせるこの部屋・・・いや、部屋ではないか。壁無いし。小さくもない和室(?)を囲むのは、とても美しい雲海。まあ、踏み外したら落ちるんだろうが。
「その喋り方、イライラするんで地じゃないならやめてもらえませんか?」
ただでさえ非常に痛い見た目をした(自称)女神。何もしなければ金髪超美少女なんだが・・・
「意外とストレートに来るのね・・・喋らなければ可愛いのに・・・コホン、嗚呼、哀れなあなたに、私が手を差し伸べてあげましょう・・・!」
うっわあうぜえ・・・・できればそんな手など即刻切り落としたいところだが、それこそ雲海に紐なしバンジーになりかねないのでご遠慮させていっただこう。
「・・・それで、女神(笑)様は、いったいどんな手を差し伸べてくれるんです?」
「女神に何か含みを感じたのだけれど・・・まあいいわ、あなたには一つ、異能力を与えましょう!」
ほう、異能力とな。ゴム〇ムの実とか、そういう?
「・・・どんなです?」
「それをあなたに決めてもらうの。可哀想な死に様だったから、せめてもの、ね?」
「・・・はあ」
できれば平凡に生きさせて欲しかったのだが、異能力となると話は別。やはり中二心が擽られるというものか。高二だけど。
「そうだなあ・・・特に要望はないんだけど・・・」
「あら、チート能力万歳よ?ゴ〇ゴムの実でも、ワン・フォ〇・オールとかでもOKよ!」
なんでジャ〇プ推しなんですかね。それに、僕は血の気が多い方じゃない。転生したら真っ先に家建てて引きこもってもいい、というかできることならそうしたい。・・・が。
「質問いいですか」
人生一度の中二祭り、すこしだけ楽しませてもらいたい。
「なにかしら?」
「異能力を持っている人って、ほかにいるんですか?」
「あら、そんなのたくさんいるわ。あなたが今から転生する世界では、そう珍しいものじゃないわ。」
ふむ、そんなに珍しいものじゃないのか。可哀想とか哀れとか言っといて、あんまし気遣ってくれているわけじゃなさそうだな。
「決まりました。異能力は・・・『見た異能力をコピーする』能力でお願いします。」
一通り便利なものを取り込んだら世界の端っこで家建てて優雅に独り暮らしでもしよう・・・
「またどえらいのを・・・まあいいわ。じゃあ、転生させるから、そこから飛び降りて頂戴」
「は?」
「いやだから、そこから飛び降りて・・・」
「いやいや、死ぬから!」
「いや、もう死んでる・・・」
あ、それもそうか。じゃねえよ!ならねえからな!くっそ神様助けてヘルプミー!あ、強いてるのも神様だ!神は死んだ!
「ほら、さっさと行ってきなさい」
(自称)女神(笑)の麗しい足に蹴られ、俺は雲海に吸い込まれていくのだった・・・