13章 4話
『…………。いいでしょう。なぜ、気が付いたのですか?』
「薬物と概念と言霊の力で」
『頭大丈夫ですか?』
「言わないで。否定できないから……」
お薬キメて見ちゃいけないもの見てここに来ました。事実です。
「友情パワーとでも思っておいて。朝日ちゃんとジミコのおかげ」
『友人は選ぶべきですね』
「まったくだ」
私とラグアはにこにこ笑う。朝日ちゃんからは抗議の思念が届いて、ジミコが潜伏してると思わしき場所から静かな殺気が漂ってきた。
冗談だってば。本気にしないでよ。待って弓を引き絞るのをやめて今当たったら普通に怪我するっていうかジミコのステータスだと一撃で死ぬまであるからやめてほんとごめんなさい。
殺気が消える。許された。ジミコをからかうのはやめよう。
「それでラグア。ログアウト、解放して欲しいんだ。わかるよね」
『断ります。あれはまだ封印しておかねばなりません』
「それで戦争が起こったとしても?」
『戦争? 始まるのが戦争だと? いいえ、違いますね』
ラグアは笑う。私の見たことない顔で。
『これから起こるのは変革です。この世界は変わるのです。弱き者は朽ち、強きものが這い上がる。そんな世界へと変わらねばなりません』
「……は?」
『聞きなさい、神子よ。仮初の融和は永久の平和を約束しません。世界の安定は闘争の果てにこそあるのです』
ラグアがそう言うと、朝日ちゃんから大きな反応が伝わってきた。
平和を騙った闘争。それは朝日ちゃんの逆鱗だ。触れてはならないものに、ラグアは触れた。
『かつて世界は滅亡の危機に瀕しました。異世界からの侵略者の前に、この世界の生命は為す術もなく絶えていきました。事実私たち神々の干渉が無ければこの世界は侵略されていたでしょう。しかし、それはあるべき姿では無いのです。神々の干渉は世界を歪めます。侵略が再び起これば? 三度起これば? その度に神が干渉し、世界を歪めろと?』
「歪める……?」
朝日ちゃんから思念が飛んでくる。神が力を振るう度、世界には概念が撒き散らされる。偏って撒き散らされた概念は、本来異なる概念を持つものを変えてしまうことすらあるらしい。
『異界と繋がったことで私はこの世界の生命がいかに軟弱たるかを知りました。神に管理された豊かな世界でのうのうと生きる生命が、神無き世界で争いながら這い上がってきた餓狼に食われるのは自然の理です。この世界は神々が無くとも身を守れるよう強くあらねばならない。そうでなくては生き残れない。いかに私どもが神であろうと、すべてを守ることはできないのですから』
「守るために殺し合わせると? 矛盾してる」
『矛盾などしていません。私が真に守るべきはこの世界。そのために多少の痛みは伴いますが、それは些細な犠牲です』
多少の痛み?
些細な犠牲?
何を言っているんだお前は。
『この世界を神々の管理から解放します。すべての生命に自由を与えるのです。そして起こる生存競争の果てに、この世界は自らの身を守れるだけの力を得るでしょう。それが愛すべき世界へと贈る私の加護です』
「それが愛だと。それが加護だと。笑わせてくれる。私に言わせればそれは呪いだ」
『……そうですか。いつかあなたも分かる日が来るでしょう。今は分からずとも、我が言葉に従いなさい』
ラグア、それは違うよ。
自由を与えれば生存競争が起き、切磋琢磨の末に世界全体が強くなると?
そんな夢物語を本気で考えているのか。
『すべての生命に自由と闘争を。あなたたち冒険者は自由のための戦士です。さあ、神を討ちなさい。全ての神を討ったその日、私はあなたたちをこの世界から解放しましょう』
「なるほどね。全ての神を殺せばログアウトさせてくれるんだ」
『ええ。あなたたちが異界の住人と言うのなら、元の世界へ帰るというのも仕方ないことです。ですがその前に、この世界の明日のため協力していただけませんか?』
ストレートで良い要求だ。そういう分かりやすいのは嫌いじゃない。
なんてったって迷わなくていい。
「ラグア。お前の言っていることはひとつの解決策なのかもしれない。でもね、根本的なところで決定的に間違っているの」
『私が間違っていると?』
「殺し合いを机上で語るな。命を持たず死しても滅びない存在に、生きるための戦いが分かるって言うの?」
『……あなたも神々に牙を抜かれた犬となりましたか。残念ですね、あなたには期待していたと言うのに』
上等。
それならお前は私の敵だ。
「頭の中がお花畑のおっぱい様に、殺し合いがどういうものか教えてあげる」
『いいでしょう。これもまた生存競争。私とあなた、正しい方が生き残るというものです』
止めないで朝日ちゃん。やっぱり私、口で説得するより殴って分からせるほうが性に合う。
え、違う? そうじゃなくって?
『あなたは確かに神を追い詰めました。しかし、枷をつけられ力を失った今のあなたに同じことができますか?』
……あ。やっべ。
何も準備してないや。どうやってラグア倒そう。