12章 6話
生産ドームを訪れた瞬間、襲撃にあった。
「*****さぁぁああん! 生きてたぁああ! 生きてたよぉぉおおお!」
「ええい泣くな泣くな抱きつくな。逃げないから」
リースちゃんがガチ泣きしてらっしゃっていた。これこれ、これを聞くために帰ってきたんだ。
嘘です冗談ですそんな目で見ないでください。リースさんなんでそんなに勘鋭いんですか。
「ぃぐっ、ひぐっ……。攻略組の方々は生きていると言ってましたが、何度個人チャットで呼びかけても返事しないし……。もう本当心配したんですからね!」
「ごめんね。チャット使えなくって、返事できなかったんだ」
「生きてるならいいですぅぅぅ……」
死んでたらどうなってたんだろう。あの世まで殺しに来るんだろうか。こわい。
「リース、頼みがあるんだ。フライトハイトの奴にも頼んだことなんだけど」
「頼み……? *****さんの、頼み……?」
「なんでちょっと嫌そうなんですかリースさん」
「あなたの頼みはいつも大仕事になるので……。き、聞きますよ」
そんな無茶な頼みしたかなぁ……。
飛び入りで装備一式作ってもらったり、基金作ってもらったり、赤龍討伐の協力仰いだくらいじゃないですか。
……ちょっと迷惑かけすぎかもしれない。それでも聞いてくれるリースさんには足を向けて寝られないな。いつか恩返ししないと。
こほんと一息ついて、楽園で攻略組したのと同じ話をする。
ついでに私が二度死んで三度目の生を得たことも。一周目の記憶を持っていることについてリースは「今更ですか。そんなところだと思ってましたよ」としか反応しなかった。私のとっておきの秘密も安くなったもんだ。
「――だから、私は神々に協力することにしたの。そこでリースにもプレイヤーたちに不要な殺生を控えるよう呼びかけてほしいんだけど……」
「なるほど……。構いませんよ。というより、もう既にやっています」
「え、やってるの?」
「同じことをフライトハイトさんに頼まれまして。理由は攻略のためとしか聞きませんでしたが、ここで詳しい話を聞けて良かったです」
あの野郎、それだけの説明で職連を使おうとしただと……?
「詳しいことはあなたに聞けとも言っていましたね。なんでも、証拠がなければ説明したとしても信じられないと」
「なるほど。よくわかりました」
「それに」
リースは声を潜めて、そっと忠告する。
「生身になっただなんてあまり言いふらさないほうがいいでしょう。あなたがシステム的に保護されていないと言うのなら尚更です。善人ばかりではないのですから」
その言葉を聞いて、ぞくりと体が震える。
……そうだ。その可能性は考えていなかった。でも、今となってはたしかにあり得ることだ。
「そうだね……。気づいてなかったや。今の私はPKされるんだ」
「え……、あ、はい。そうです。まあプレイヤーの中にあなたを殺したいって人がいれば、ですけど」
「気をつけるよ。忠告ありがとう」
PKされないよう気をつけるのはもちろん、対人戦とかもできなくなってしまった。
そりゃ対人戦は好きだけど命をかけてまでやりたいとは思わない。戦闘狂はゲームの中だけにしておこう。
「銀太さんも大変ですね……。いや、逆に銀太さんにとってはチャンスなんでしょうか?」
「何の話?」
「もうちょっと警戒心を持つべきという話です」
「ちゃんと気をつけるってば。不用意に戦いの中に飛び込んだりしないよ」
「……あなたはもう、それでいいのかもしれませんね」
…………?
まあいいや。わからない話はわからないの心で行こう。なんか朝日ちゃんがやきもきしているけど、なんでだろう。
それよりも。私の話はまだ終わっていない。
「さてリース、実はここからが本題なんだ。これは誰にも聞かせていない、リースにしか頼めないことなんだ」
「どうしたんですか、やけに深刻ですね」
「そう。事はとても深刻なの。念のために言うけど他言無用でお願い。誰に聞かれても私がこれを頼んだことは黙っていて欲しい」
「……聞きましょう。そこまでのことであれば、それがどんな内容であっても私が力になります。そして約束しましょう、あなたの秘密は墓まで持っていくと」
それを聞いてしかと頷く。持つべきものはやはり友だ。
周りに話を聞いている人がいないことを念入りに確認してから、リースの耳元でそっと伝えた。
「……………………生理用品って、作れる?」
*****
リースからのお土産一式を詰め込んだリュックを背負う。このリュックも作ってもらっちゃった。
私が糸で編んだ簡易的なカバンにはそれこそポーションと試料ボトルくらいしか入らないから不便していたんだ。やっぱり文明って素晴らしい。
「ありがとう、本当に助かったよ」
「…………。まあ、その、そうですよね。理解はできるんです。ただちょっと、認めたくなくて」
「なにが?」
「ファンタジーゲームで友人の生理用品を作らされた事実が……」
すいません……。
でも確かに助かりました。事が起こってからじゃ手遅れになっていたかもしれない。
それにしても朝日ちゃんはどうしていたんだろう。あのメモにはそういったものの解決策は書いてなかったけど……。
え、数年に一度薬品を飲めばそもそも起こらないの?
そもそも出生制限がある? 出生数は厳密に管理されていて、薬品を飲むのが義務? それに人口の大部分は施設で生まれるから、そういう行為は主に娯楽としてしか残っていない?
はぇー……。朝日ちゃんの時代には便利なものがあったんだなぁ。そういう行為が何かはわかんないけど、羨ましい限りだ。
「それじゃ、神様が心配するからもう行くね」
「はい、気をつけて。たまにはこちらにも顔を出してくださいね」
リースと握手する。お世話になりました。また来るよ。
「なぁ、本当に行くのか? こっちで暮らしたらどうだ?」
そして銀太はちょっと引きずっていた。
「いやー、そうしたいのはやまやまなんだけど。向こうでやらなきゃいけないことがあるから」
「なら、俺も一緒に行く」
「ウルマティアと喧嘩しない?」
「……する」
「素直でよろしい」
銀太もカンストプレイヤーだからね。こればっかりはしょうがない。
「また戻ってくるから。ちょっとだけ待っててよ」
「ああ……。わかった。また、な」
「うん。またね」
しょんぼりしている銀太の背をぽんぽんと叩く。ごめん銀太、許せ。
銀龍の背にまたがって、見送りのリースと銀太に手を振る。
ばさりと龍が翼を広げて空に舞う。短い滞在だったけど、顔が見られてよかった。
遠くなるラインフォートレスを眼下に見納め、私は浮遊島へと帰った。