3章 1話
釣りしたり、寝釣りしたり、また釣れたイッカクで室伏ごっこしたり、マジギレしたカームコールが嵐を起こしたり、嵐の中で輝いたりして8時間経った。
畑に戻る。『救命草』を収穫。採れた本数は31本。内25本を株分けして苗を1スタック入手。苗を植えて水やって肥料やっておしまい。
「また8時間放置するゲーム楽しいなぁ」
付き合ってられないわ。スローさを強制してくるスローライフなんて嫌いだ。
効率プレイ大好きな人種だっているんですよここに。最高効率でガンガン進められるアクション農業ゲームとか作られないかな。対人要素とかあるとなお良し。
「んで、カカシを設置すればいいんだっけか」
謎の種から出現したマンドラゴラに懲りて、どうにかできないかと農協のお姉さんに聞いたところ呆れ顔でカカシのことを教えてもらった。
なんでも農地の守り神をお供えしないと、どこからともなく魔物がやってきて作物を荒らすらしい。ラインフォートレス内部にまで侵入する魔物ってすごいな。MPKできそう。やらないけど。
んで農地の守り神ことカカシ様なんだけど、それっぽい感じにそれっぽいものを作ればカカシになるらしい。そういえば一周目の時も、プレイヤーの農地に個性あふれるカカシが乱立していたのを覚えている。くいだおれ人形とか。ガンダムとか。貞子とか。
「それっぽいもの、ねぇ」
アイテムインベントリを開き、なにかないかとあさってみる。ヘラクレスオオカブトでも農地に突き刺せばいいのかなって思ったけど、インベントリから出てきたヘラクレスは力なくぴくぴくしていた。さっきのマンドラゴラ戦の傷が癒えていないらしい。
しょうがないからヘラクレスをインベントリの中にしまって、蒼海龍の釣り竿のせいで用済みになってしまった世界樹の釣り竿を取り出してみる。
「ふむ」
この釣り竿、カカシにするか。
世界樹の釣り竿を半分に折り、十字に組み合わせる。更に謎の種から収穫した『ジャック・O・ランタン』を先端にぶっ刺す。そこそこカカシっぽくなってきたけど、まだひと味足りない。
服があればそれっぽくなるんだけど、残念ながら予備の服なんて持ってない。
「んー…………」
無いなら作ろうの心で行くことにした。
縫製クラフトウィンドウを開き、『世界樹の若葉』を突っ込んでクラフト。縫製スキルは全く育ててないけど、葉っぱの服なら初期からでも作れる。なお性能はお察し。
『世界樹の葉の服』をさっき作った未完成のカカシとクラフトし、『世界樹のカカシ(カボチャ頭)』が完成した。
畑に設置してみる。
「…………」
なんていうか……。これはこれで植物モンスターっぽい。
カカシというには雑すぎるし、カボチャのお化けというには迫力が足りない。ハロウィンの仮装失敗って感じだ。
まあなんでもいいや。使えるならいいんですよ。柏手を打って拝んでおく。魔物を追っ払ってくれますように。
「さて、と」
よし、これで農地はオーケーだ。釣りもいい加減飽きたし、そろそろ釣りと農業以外のことをやろう。
*****
農業地区を出て、市街地区を通り、港地区に隣接した職人地区へと行く。
職人地区。ラインフォートレスで最も活気にあふれた地区、加工生産の総本山だ。開放感あふれる作りの鍛冶場からは鍛造の音が鳴り響き、路地には鉄くずや壊れた剣が転がっている。主要な通りは露店で埋め尽くされ、職人たちが自作の武器や鎧や怪しい薬品を売りさばいてる。
この地区ではキョロキョロ周りを見ながら歩いてたらいけない。あれよあれよとNPCに取り囲まれて、延々と製品自慢を聞かされることになるだろう。
周りを見ながら歩くのは初心者。目的地に向かってまっすぐ歩けば中級者。わざと周りを見ながら歩いて、集まってきた職人から情報収集するようになれば上級者。そしてNPCと一緒になって製品自慢をするようになれば免許皆伝だ。
(今日の私は中級者ー♪)
目的地めがけてまっすぐ歩く。目指すのは職人地区のど真ん中にある、巨大なドームだ。中には一通りの生産設備が整っていて、中心部では金槌と算盤の神アーキリスを祀っている。
このドームがプレイヤーたちの生産拠点だ。教官NPCに素材販売カウンター、仮眠台まである至れり尽くせりっぷりだ。ある程度準備しておけば数日間は篭もれる。
ちなみに一周目の時は、ドーム内での食料品販売はプレイヤーにより禁止されていた。理由は1つ。職人が外部との交流を絶って引きこもるから。
(んー。さすがにまだ活気は無いかな)
とは言っても、まだまだゲームは始まったばかり。生産職には地道な下積みが必要になる。現時点から大量の素材を持って生産無双するような人なんて、まだそんなにはいない。
全く居ないわけじゃないのが不思議なところだ。廃ゲーマーは何も攻略組にしか居ないわけじゃない。ガチで生産やる気勢は現時点でも頭角をにょきにょき顕す。
複数ある錬金釜の1つに陣取って、クラフトウィンドウを開けた。
「ほほう、お嬢ちゃん。今回は錬金かの」
「出たなじいさん。なんとなく来る気はしてた」
「ほう、ワシを錬金の名人と見ぬきおったか。なかなかやりおるな」
「いや、メタ読みだけど」
当然のようにあらわれ、当然のように話しかけてきたじいさんは社交辞令のようにクエストを発注した。
『錬金名人の指導・その1』を受注しますか? Yes/No
Noを押す。じいさんは特に何も言わなかった。っていうか見ぬきとか言い出すから事案かと思った。
「悪いけど今回は面白いものは見れないよ」
「ふむ、どういうことじゃ?」
「錬金とかのクラフト系生産システムには仕様の穴らしき穴は無いの。真正面から地道に熟練度を上げていくしか無いんですよ」
「それは重畳じゃ。いいかお嬢ちゃん。確かな技術というものは不断の努力と積み重ねた経験に裏打ちされるものじゃぞ」
「まあ仕様の穴が無いだけで、効率プレイはできるんだけどね」
「お嬢ちゃんは苦労の味を知ったほうがいい」
失敬な。それなりに苦労もしてるよ。RPG一人旅縛りとか、アクションゲーム防具縛りとか、縦シューボム縛りとか。
まあいいや。さっき山ほど取ってきた薬草を加工台にどばーっとぶちまける。
「ええかお嬢ちゃん。錬金術は素材の下処理が命じゃ。まずは薬草の葉から丁寧に葉脈を取り除くのじゃ。悪くなった部分はハサミで切り取ることも忘れずにな。この下処理を丁寧にするほど、質の良いポーションができるのじゃぞ」
「へー、そうなんだ」
じいさんのうんちくを聞き流して、自動クラフトボタンをポチリ。クラフトウィンドウが薬草の束をがっこんがっこん加工して、粉末になった薬草ができあがった。
「……お嬢ちゃん? VRMMOにて自動クラフトは厳禁という鉄則を知らんのかの?」
「いやいや手動とかめんどいっしょ。この数の薬草を一個一個下処理なんてやってらんないよ」
「言いおった! 言いおったぞこやつ! タブーを堂々と犯しおったぞ! 祟りじゃ! 祟りが起こるぞ!」
「大げさだなぁ。まあちょっと荒れるかもだけど、気にしないで行こう。ウチはウチだ」
それじゃあいくらなんでもアレだから、効率の話をしよう。
下処理をした『効果の高いポーション』と、下処理をしていない『効果の低いポーション』。同じ値段で売られていたら効果の高いポーションのほうが売れるのは間違いない。
ただしそれは、マーケットに『効果の高いポーション』と『効果の低いポーション』が十分な数流通しているのが前提だ。そもそも生産ポーション自体が流通していない現状なら、わざわざ時間と手間暇かけて作るよりも手早く数を作ったほうが効率が良い。
時間ってのはそれ自体が貴重なリソースなんだ。時間を金銭に変換できる釣りという手段を持っている以上、資源の無駄使いは避けるべき。