2章 4話
農地がまっさらになったのはそれから1時間後。その間に『草薙剣』は合計4本収穫された。
「いらない……。本気でいらない……」
「よ、良かったじゃないかお嬢ちゃん。それだけリグリに愛されてるってことじゃろう……」
あの神様めちゃんこ人間嫌いだから、それは無いと思う……。
何はともあれ、アイテムインベントリに大量の植物がずらりと並ぶ。謎の種から出現する植物は大体出尽くしたようだ。
謎の種からはある一定までのレア度の植物は全て出る。『世界樹の葉』だとか『銀霊樹の聖雫』だとかいうユニークレベルのアイテムは採れないけど、終盤マップの道端に生えてる草なんかは普通に採れる。
目当ての物はこれ、『救命草』。『薬草』の上位アイテムの『傷病草』の更に上位アイテムだ。薬草系列で最高の回復力を誇る一品となっております。正規ルートで取得できるのは中盤以降だ。現段階でこれを手に入れているのは相当なアドバンテージとなる。
謎の種からは4本しか採れなかったけど、元になるアイテムさえあれば株分けで増やせる。量産すればもうウハウハですよ。
ただ問題がひとつあって、株分けのやり方とか知らないんですよね。
「じいさんじいさん。株分けってどうやるの」
「ほうっ!? お嬢ちゃん!? 今ワシに株分けのやり方を聞いたかの!?」
「え、聞いたけど?」
「とりあえず強引にちぎって植えるでもなく!? 肥料があれば増えるだろ的な根性論も唱えず!? 年長者の知恵を頼ったとな!?」
「その手があったか。さんきゅー、じいさん」
救命草をぶちっと半分に千切ってみた。アイテム耐久度の無くなった救命草は私の手の中で砕けて消えた。
「……おい、クソジジイ」
「それをワシのせいにするか!?」
「畑に植えられたくなければ大人しく株分けのやり方を教えるんだな」
「そんなことしなくても教えると言っておろう! 草薙剣を構えるでない!」
ちっと舌打ちをして、じいさんの首に添えていた『草薙剣』をインベントリにしまう。
「お嬢ちゃんはどんどんワシの扱いが雑になっていくのう……」
そんなこと無いです。
「それで、株分けじゃったか。株分けはクラフトでできるぞい。クラフトウィンドウで植物をクラフトすると、植物1つあたり苗が4つ手に入るのじゃ」
「マジくっそつまんねぇこと言うなこのジジイ」
「理不尽を感じるぞい!?」
なんだよ、クラフトすりゃいいだけじゃんか。これならじいさんの手を借りるまでもなかった。
救命草をぽんぽんクラフトして、苗を作る。
植える。水やる。肥料を適量。後は8時間放置でおしまい。
「お、お嬢ちゃん……。ワシにはお嬢ちゃんがまるで普通の農業をしているように見えたが……?」
「いいかじいさん、神剣魔界農法だけが農業じゃないんだ。なんとこの農地では、普通に種を植えて普通に水と肥料をやると、普通に作物を栽培できるというスペシャルコンテンツが隠されてるんだよ!」
「じゃからそれが普通だと言っておろうが!」
普通ってなんだろう。誰かの決めた普通なんかに縛られたくない。スペシャルな自分でいたい。盗んだバイクで走りだせ。
余った農地には適当に薬草を植えておく。水と肥料も適当にざばー。
「あーまじ、放置ゲーとか今日日流行んないんですよ。8時間も待たされるとかコンテンツとして死んでるよねもう。農業じゃ脳汁出ませんわー。じいさんもういいや、農業飽きたわ。釣り行こうよ釣り」
「お嬢ちゃん、滅茶苦茶言うのう……」
暴言吐いたら案の定足元にぼこっと落とし穴が開いた。エアジャンプで回避する。覚えとけリグリ、私に同じ手は通じない。
とか思ってたら、着地点にも落とし穴があった。這い上がって穴の底に爆撃草(魔界で採れた)を投げつける。穴は爆散した。くたばれリグリ。