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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
9章 頭脳の前衛、ぶっぱの後衛
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9章 3話

(久々の)説明回

 朝目が覚めて、剣を抜いて、【千剣万華】を起動する。

 剣閃の数は850程度。完成には後一手足りないが、実用に耐えうるくらいの性能は出せるようになってきた。アレンジの余地も少しくらいはある。


「ま、こんなもんでしょ」


 ひゅんひゅんと剣を回してからしまって、空を見上げた。

 Myrlaの空は今日もいい天気だ。たまには雨も振るけれど、このあたりの気候はいつも穏やかだ。

 何にせよいい天気。天気が良いに越したことはない。今日も一日良い日がはじまる。


 ふと目について、湖の中央にあるリグリの祠の方に向かって拝んでおく。浅い付き合いでも無いのにあの祠を拝んだのは初めてだった。一応私の主神のはずなんだけど。

 リグリちゃんはあんまり人間にキャーキャー言われるのも嫌だろうし、これくらいの距離感でちょうどいいのかもしれない。できるならもっと距離を取りたいところだけど、それはもう諦めた。


「今から会いに行くんで、待っててくださいね」


 リグリからの返事はなかった。

 そう言えばと、畑に咲いていたアセビの花を思い出す。確か神殿を訪れるならお気に入りの花を持って来いと言っていた気がする。


(……ふむ)


 持っていくことにした。


 アトリエに戻って、簡易ベッドで眠る銀太を叩き起こす。宿屋に戻るのがめんどいとかなんとか言って、銀太はすっかりアトリエの居候となっていた。理由の半分は私の勧めだ。だって銀竜に会いたかったし。

 銀竜は二週間で幼竜から子竜にまで成長した。まだ人を載せて飛べるほどの大きさではないが、荷物くらいなら任せられる。今回の作戦でもリグリの神殿までラグアの十字架を運搬する予定だ。


 寝起きに一戦斬り合って、朝食とって、また斬り合って。


「時間だ。そろそろ行こっか」

「おう」


 決戦の地へと向かう。

 今日はとても良い日だった。



 *****



 背面界最奥部にある巨大なクレーター。その中心に空いた小さな穴は、背面界の地下に広がる広大な大空洞への唯一の侵入口だ。

 そのクレーターの底に、攻略組は集っていた。

 転移石から飛んできた私たちを見て、フライトハイトはとても嫌そうな顔をする。


「君たち……。来るとは聞いていたけれど、こうもあっさり来られると中々腹が立つね。僕らはこの場所を見つけるまでたっぷり一ヶ月はこの世界を歩き回ったというのに」

「その苦労は前の時したからね。最短ルートだと半日もかかんないでしょ、ここ」


 フライトハイトたちが当てもない探索をしている間に、最寄りの転移石は事前に開通しておいた。

 この巨大クレーターはMAP上にロケーションとして表示されないため、一見ただの地形のように見える。広大な背面界に思わせぶりな地形は腐るほどあることもあり、正面から探索するんじゃここに何かがあるとわかるまでかなりの時間を要することになるだろう。

 ちゃんと各地に散らばった文献を追っていけば、ここが終わりの地ということは一応分かるんだけれど。攻略組の奴らは揃いも揃ってムービースキップ連打するような奴らだからなぁ。


「ラストワン。準備はできてるか」

「もう万全」

「そうか」


 ヨミサカと短く言葉をかわす。今更作戦の確認だとか、そういう必要はなかった。

 る? と剣に目線をやってみたけど、ヨミサカはどうもそういう気分でもないらしい。呆れたように首を振り、「風を浴びてくる」とクレーターの上に歩き去っていった。


 30分も待つと人は揃う。攻略組34人、カンストプレイヤー15人、レベル1の生産職1人。合計レベル2451のフルレイドだ。

 ……そういや今回は、私がいることに文句みたいなの言われなかったな。あまりに普通に受け入れられているもんだから逆に違和感。


「行くぞ」

「行こうか」


 ヨミサカとフライトハイトが先陣を切って穴の中に入っていく。それに続いて、50人の大所帯はぞろぞろと戦場へ向かっていった。



 *****



 かつて人類は科学技術の徒であった。

 日進月歩の技術進歩により、地表の全てを少しずつ侵略していった人類は、やがて未知なる世界の存在を知るに至った。それから数百年の時が過ぎ、人類は未知なる世界へと繋がる門を生み出す。

 門の先にあったのは広大な原野だった。開発し尽された人類の世界と異なり、手付かずの自然がどこまでも広大に広がる世界。そこでは遺伝子的に管理されていない動植物が数多く暮らし、そして彼らを守護する6柱の神々がいた。

 それからはSFのお約束があって。より具体的に言うなら原住民と征服者の苛烈な闘争があって。


「この辺が特に大スペクタクルなんだけど、一言で纏めちゃうね。結果として科学はファンタジーに敗北したの」


 神々はその持てる権能を用いて人類の侵攻を跳ね返し、それでもなお怒りが収まらなかった神々は門をくぐって逆侵攻をしかけた。

 かくして神の力は地表の全てを荒廃させ、かつて栄華を誇った文明はこの滅んだ灰色の砂漠の下へと埋もれてしまいましたとさ。

 以上が背面界の成り立ちになる。


「この世界の人類は一度滅んだのか? でもおかしいぞ、ラインフォートレスにも人間はいる」

「あ、それモデルケースとして残されたの。より正確に言うなら、種を残すための動物園みたいな」


 絶滅していく人類に憐れみを覚えたラグアが、種を絶やすのはいかがなものかとリグリに持ちかける形で保護したのがラインフォートレスだ。彼らは自由に生きているように見えて、その実神々に逐一監視されている。

 過度な科学技術は制限され、数世代前の文明の暮らしを強いられて、少しでも神々への反抗の兆候あれば粛清されてしまう。そうして牙を抜かれたまま数百年が過ぎると、人類は神々への反抗を諦めて忠誠を誓うようになった。

 それがNPC。かつて世界を統べた種族の成れの果て。


「うわぁ……。なんだよこの世界、ファンタジーに見えてくっそブラックじゃねぇか」

「まだまだこんなもんじゃない。救いなんてどこにも無いさ」


 そして問題は、私たち冒険者プレイヤーの位置付けだ。

 私たち冒険者プレイヤーは神々に逆らった。殺生の禁を破り、科学技術を生み出して、再び世界を人類の手に取り戻そうと動いている。

 ゆえにこの世界は私たちに味方しない。ラインフォートレスを一歩離れれば敵に襲われ、大結界が無ければ身を休められる場所も無い。


 それでもラグアは人間に慈愛を与え、人を殺さんと欲するウルマティアの反感を招いた。このラグアVSウルマティアの構図に、他の神々の思惑が絡んでくる。

 アーキリスは人間の生み出した科学技術に魅せられてしまったため、前大戦の時とは違い消極的な立ち位置だ。ゼルストは前大戦では鬼神のごとく人類を薙ぎ払ったが、現在は「弱者に振るう剣は無い」と静観している。

 そしてリグリは、一周目の時こそ人類滅殺のスタンスを取っていたが、今では親人間派。丸くなってくれたおかげで随分とやりやすくさせてもらっている。

 カームコールは……、正直何を考えているか読めない。神界のパワーバランスのため味方しないと言っていたが、それもどこまで本当なのか。


「ま、だいたいこんな感じ。それでこの場所、大空洞は、かつての人間たちが最後に逃げ込んだ巨大シェルターだったものなの」

「巨大シェルター……。全然そんなふうには見えないけどな」


 見上げた天井ははるか遠く、むき出しの洞窟がどこまでも続く。よくよく見れば岩肌だけではなくところどころ金属製の床や壁、そしてなんらかの機械の残骸が散見された。

 シェルターと言うには荒廃しすぎていて、洞窟と言うには文明の残滓が多すぎる。そこかしこに転がっている日誌や文献、歴史書や碑文や啓示や信託やモノリスやオーパーツやアカシックレコードから、ここにあった文明がどういうものだったのかは十分すぎるほど知ることができる。ただしそれらをいちいち調べている時間は無い。


 色々ある大空洞だけど、お世辞にもいい景色とは言えない。目的地に向かってまっすぐ歩く私たちは、自然会話を求めるようになっていた。

 つまるところ、暇だった。

 だんだん話すことも無くなってきて、言葉少なくまっすぐ歩く。銀竜だけが機嫌良く、ラグアの十字架を背負ったまま機嫌よくぴぃぴぃ飛び回っていた。

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