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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
8章 火力積んどけば大体いける
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8章 10話

 アーキリスの大神殿まで戻ってきた。


『何をしに来た客人。『龍の心炎』が無ければ、ここに来ても何も直らんぞ』

「あんたに用はない」


 出迎えてくれたアーキリスと友好的()に挨拶をして、神殿に置いてきたラグアの御神体に畑から取ってきた『世界樹の果実』を供える。御神体が直るまでは、これで命を繋いでもらうしか無い。


「ラグア様ラグア様、今日もご機嫌麗しゅう」

『…………』


 御神体から「麗しくねーよ」って気配を感じる。気にしないことにした。


「今回はちょっとお力を借りたくて。転移石を提供していただけないでしょうか」

『…………』

「無言は肯定とみなすという言葉がありましてね。ありがたく頂戴していきます」


 転移石はラグアが生み出したものだ。所有権はラグアにあるから、持っていく前に一言断るのは最低限の礼儀だと思う。あとで怒られたときの言い訳とも言う。

 いやぁ、悪いねラグア。恨むなら止める力の無いその身を恨んでくれ。

 それじゃあの、と神殿を後にする。用事はこれだけだ。あばよーとっつぁーん。


 というわけでラインフォートレスまで転移石を担いで帰ってきた。頂戴してきたのはあまり人が立ち寄らないMAPの転移石だ。

 アトリエの工作台にどんと設置して、加工を施していく。


(大容量の転送って条件は既に満たしている。好きなところに転移させるのは――)


 転移石を転送地点として、ロザリオを応用したテレポーテーション装置で転送する。基本的な原理はそれだけだ。

 技術的な問題はクリアしている。後は作るだけ……。


(……こういう技術肌なの、柄じゃないんだけどなぁ)


 眠くなってくるけど、他の誰かがやってくれるでもなし。自動クラフトで作れるものじゃないんだから手動で調整していくしかない。

 漏れそうになるあくびを噛み殺し、少しずつ開発を進めていった。



 *****



 飽きた。


「海だ海。銀太、海海海」

「知能指数が下がってる」

「うみー!」


 というわけで海に戻ってきた。海は広い。

 水中戦は楽しいなぁ。もうほんと好き。一生戦ってたい。戦って戦って戦い続けて、大いなる戦いの末壮絶に果てたい。海になりたい。


「ひゃっはー! くっらえー! 【リバイアサンウェイブ】!」

「その技は以前破った! 【メイルシュトローム】!」


 私が作った激流を、銀太が渦へと変えていく。激しい水流の中で剣を抜いた。

 この渦潮の中では中途半端な水の流れは飲み込まれてしまう。新たに水流を作ることはできず、移動エネルギーは常にマックス。条件は互角の、技と技のぶつけ合いだ。

 どんどんぱちぱち打ち合って、目まぐるしく攻防を積み重ねた末にお互いの【アクアスラッシュ】をぶつけあってダブルKO。激しくふっとばされて海上から砂浜へと打ち上がった。


「ふぃー。水中戦は楽しいなー。気が楽でいいや」

「地上戦ほど読み合いじゃないもんなぁ。なんつーか、大技のぶつけ合いみたいな?」

「お互いやりたいことやれるからねー。PvPって極めるとどうしてもメタゲームになっちゃうし」


 お祭りPvPは楽しいもんだ。地上戦の息抜きにちょうどいい。

 その時、すんと血の匂いが香った気がした。飛んできた矢を歯で噛み止める。鏃には『フラッシュストレートフルーツ』がついていた。いただきます。


「PvPと聞いて」

「戦の匂いを嗅ぎつけてきたかジミコ……。ってか、攻略は?」

「飽きた」


 飽きたて。適当だなぁ。

 気がつけばぞろぞろとヨミサカパーティがやってきた。


「おっさん、どうしたのよ」

「いや、こいつらが飽きた飽きたってうるさくてな……」


 おっさんは心の底から呆れ果てた顔で、はぁとため息を付いた。


「あの世界つまんないです。太陽の登らない灰色の砂漠を、目のない怪物に奇襲されながら延々と歩き続けるとかやってらんねーですよ。ファンタジーテイストのゲームを急にダークファンタジーにするのはクソゲーのやることです」

「シャーリーってそういうの好きそうだけど。ゾンビフィリアだし」

「失敬な……! なんでもいいってわけじゃねーです! ゾンビはキモカワですけどあいつらはただキモいだけです!」

「ゾンビフィリアは否定しないんだ」

「食いちぎるですよ!」


 がうがう威嚇するシャーリーをどうどうと抑える。この子もこの子で怒らせたら怖い。

 でもまぁ、探索に飽きるってのはわからんでもない。背面界はそれ自体が1つの広大なMAPだからなぁ。その中にぽつぽつとある滅んだ世界の残滓を、一個一個調べていくのはなかなかしんどいものだ。

 情報をきちんと集めていけばなぜあの世界が滅んだのかに至るバックストーリーを知れるんだけど、残念ながらそういうものに興味があるのは私くらいしかいなかった。結構面白いんだけどなぁ、自然界と背面界の繋がり。


「おいラストワン。お前なにか知らないか」

「何かって?」

「背面界のことだ。どこを調べればいい」

「あのねヨミサカ、私が知ってるわけないじゃん」


 本当は知ってんだけどね。

 銀太がじとーっとした視線を向けてくるのは知らんぷり。

 シラを切っては見たけど、ヨミサカはとても胡散臭そうな顔をしていた。あっはっは、なんでこんなに疑われるんだろう。


「ラストワン、知ってるんだろ? そう言え」

「いやいやヨミサカ待って待って、その剣を置いて。落ち着いて話し合おう」

「これ以上時間を浪費しないためならなんでもやる。お前さえ大人しく吐けば、この手を血に染める必要も無いんだ。わかるな?」

「だーかーらっ! 知らないっていってんでしょ! ずっと自然界に引きこもってた私がどうやったら攻略組ですら知らない秘密を知れるのさ!」

「知りまくってるじゃないか。吐け、前科百犯」


 ヨミサカは巨剣を構えてジリジリとにじりよる。降参降参、誰か助けて。

 助けを求めて目線を彷徨わせるものの、ジミコとシャーリーも同じく目が座っている。おっさんも止める気はなさそうだ。銀太は明後日の方向を向いていた。あとでしばく。


「あー、うー」


 万事休す。

 心の底から絞り出すように、小さな小さな声で呟いた。


「知ってます……」


 ああ、言っちゃった……。


「ふむ。やはりか」

「不思議。すごく不思議」

「この人はそういうやつですよ。シャーリーは納得です」

「あー、すまんなうちのやつが。言い辛かったろ」


 おっさんだけが慰めてくれた。でも知ってんだぞ、止める気まったく無かったの。


「……でもっ!」


 これだけは大事だから言っとく。


「知ってるけど言わないよ! 何が何でも!」

「……おい。痛めつけられてから吐きたいって言うんだったら最初からそう言え」

「なんて脅されたって言わないったら言わないの!」


 ヨミサカがキレた音がした。頭の数センチ横を銃弾が通り過ぎ、銃声が聞こえて、それからヨミサカが拳銃を抜いていたのに気がつく。

 ……わああああ。まずいまずい、完全に怒らせた。


「待って待って、話を聞いて話を!」

「あの世で聞いてやる」


 剣を抜いて飛んでくる銃弾を弾き返す。剣を振った隙にいれてくる音速の手刀を体捌きで無理やりかわすと、体が伸び切った瞬間に巨剣が降ってきた。動きにキレがありすぎて避けきれないっていうかカンストプレイヤーの火力特化巨剣とかモロに受けたら地の果てまで吹っ飛ぶっていうかヤバイもう当たるああああああああああああああ


「ヨミサカさん、話を聞いてやれよ」


 銀太が割り込んで、ヨミサカの巨剣を盾で弾き返した。

 さんきゅー銀太! あとでしばくのはやめておいてやろう!


「お前は……、銀太だったか」

「名前を覚えられてるとは光栄だな。店長はとんでもなく悪いヤツだけど無駄なことは絶対しない効率厨だ。それは俺が保証する」


 銀太あとでしばく。


「理由があると?」

「さあな。それは店長に聞いてくれ」

「そう! 理由! 理由があるの!」


 釈明のターンが回ってきた! この機会は絶対逃さない!


「だってヨミサカたち、行き先教えたら絶対そこに直行するでしょ!」

「ああ。当たり前だ」

「それじゃダメなの! もっと色々時間かけて探索してくれないと、私が困る!」

「なぜだ」

「なぜって――」


 だって、このままだと次のイベントで。

 死人が出るから。


「その……、まだ準備が終わってなくって、えっと」

「準備? なんの準備だ?」

「ええっと……、イベントを突破するための準備で……」


 ヨミサカたちは顔を見合わせる。そして、真面目な顔でこう言った。


「ラストワン。お前は何を見てきた?」


 ……うーん。これは前々から思ってたことなんだけども。

 隠し事ってさ。

 どうも向いてないみたいだ。

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