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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
8章 火力積んどけば大体いける
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8章 9話

 海から帰ってきたころには銀太はへろへろになっていた。今日はもう寝るらしい。あんだけ海中で暴れまわってたらそりゃ疲れるよなぁ。

 そんな特訓の甲斐もあって、銀太は水流の扱いをだいたい身につけていた。最後の方には私が放った、左右前後上下から一点に向けて水流が殺到する大技【リヴァイアサンウェイブ】を器用にいなし、自分の周りの爆流を連環させることで巨大な渦潮を生み出す大技【メイルシュトローム】を返してきたのには思わず笑ってしまった。

 その後はもう、ふたりとも渦潮の流れに乗りながら技と技のぶつけ合いだ。やりたい放題だった。


「楽しかったなぁ」


 ふんふんと鼻歌を歌いながらラインフォートレスを歩く。私も疲れたから寝たいところだけど、今日はもう一仕事しなきゃいない。


「へーいリースぅ」

「あら、ラストワンさん。なんだかご機嫌ですね」

「銀太と海で遊んできてさー」


 めっちゃ楽しかったーって笑うと、なぜかリースは微妙な顔をしていた。


「……あの、ラストワンさん。赤龍は?」

「うん? 赤龍がどうしたって?」

「赤龍を倒すのは諦めたんですか?」

「うんにゃ、諦めてないけど」

「ああ……、うん。そうですね、息抜きは大事ですもんね。ラストワンさんも一応人間ですもんね」

「?」


 よくわかんないけど、すっごく馬鹿にされてる気がした。くるっと回ってかめはめ波の構えを取る。

 やっぱ地上じゃ出ないかー、かめはめ波。


「何をしてるんですか?」

「今日の特訓の成果」

「…………」


 こほん。


「それでリース、頼みがあるんだ」

「はいはい。今日はなんですか」

「えーっとね。とりあえず新しい剣が欲しくて。ごめん、一本壊しちゃった」

「あらそれは大変ですね。残った方の剣を見せてもらえますか?」


 残った方のショートソードを手渡すと、リースはしばらく剣を眺める。やがて納得したのかいくつかの鉱物を金床に並べて、ズガガガゴンゴンと火花を生み出した。

 作られたのは、裏が見えるほど透き通る片刃の剣だ。薄く固く、何より軽い剣。


「『クリスタルブレード』です。軽さを求めて作ってみましたが、どうでしょう」

「うーん……。私としては火力があるほうが好みなんだけど」

「火力、無いじゃないですか」

「それもそっかー」


 どうせレベルが足りなくて火力が出せないんだから、いっそ火力を捨てて速度に特化したほうが使い勝手がいいのかな。

 握った感触が今までにないほど軽く、その軽さに驚いた。剣が体の動きを阻害せず、まるで手の一部となったかのような軽さだ。


「いいね、これ」

「気に入っていただけたのなら何よりです。剣に残ったクセから見て、速いほうがあっているのかなと」

「今まではDPSだけ見て武器を選んでたけど、戦闘スタイルに合わせたほうがいいんかな」

「普通戦闘スタイルから入りませんか?」

「好きな武器と強い武器は別物なんだよ……」


 剣だって別に好きだから使ってるわけじゃなくて、このゲームだと優遇されているから使ってるだけだ。二刀流にしてるのは手数の問題。

 最初は純粋火力が高い大斧と迷ったけど、クリティカルヒットを狙いやすい速度型だと対応力のある剣のほうがDPSが出るからこっちにした。


「リース、リース、これもう一本ほしい」

「はいはい。今作りますよ」


 リースが作ってくれた二本目の『クリスタルブレード』を受け取って両手に構えた。ちょっと距離を取って、集中。

 今なら行ける気がする……!


「ゼルスト七王技――」


 一瞬の集中、すっと自然に息を吸って、体が動き出す。


「【千剣万華】ーっ!」


 踊り狂うように剣閃が舞い散り、裂かれた空気が風を生む。

 今までにないほど軽く、そして速い。風が風を生むほどに剣速は上がり、乱れた剣筋を風が整えてくれた。

 それでも……! まだ足りないっ!


「っ……、はぁ。くっそ、くっそー」


 剣速が落ちてきたところで剣を止めた。

 作れた剣閃の数はおおよそ800弱といったところか。今朝の練習だと調子が良くて700くらいだったから、剣を変えただけで大きく前進したと言える。

 それでもまだ足りない。あと一歩、完全再現にはあと一歩。その一歩がどうしようもなく遠い。


「相変わらず凄まじい技ですね……」

「まだだよ。まだ、未完成だ。本物の【千剣万華】はもっと速い」

「二刀流の王技スキルでしたか。スキルアシスト無しでその領域に行き着くのは……。いえ、これを見せられては不可能とは言えませんね」


 【千剣万華】は切り札だった。たとえ正規の手段で習得できなくたって、手動再現できるようにはしたい。

 あの技をアレンジできるんだったら、きっとそれが大きな武器になる。レベルを上げることは縛っていても戦うことを諦めたわけじゃない。


「まだまだ練習が必要だな……」


 剣を収めて、ちょっと一息。


「何しに来たんだっけ」

「剣を作りに来たんじゃないんですか?」

「それもあるけど……、後何か用事があったような」

「疲れてますね」

「うん」


 めっちゃ海で遊んでもう疲れたよ。ええと、何するんだっけか……。


「そう! 思い出した! 赤龍だ!」

「やっぱり忘れてたんですね」

「忘れたって思い出せばいいの!」

「前向きだ……」


 気にしない気にしない。人は前に進むんだよ。


「えーっとね、赤龍を倒すために作りたいものがあるんだ。手を貸してほしい」

「やっとその話ですか、まったくもう。それで、何作るんですか?」

「んっと……」


 必要なものは色々ある。けれど、今回の作戦の肝になってるのは――。


「テレポーテーション装置、かな」



 *****



 行き詰まっていた。


「だーもー……」


 生産ドームで工作台と格闘しながら、白熱した頭を一度休める。『フラッシュストレートジュース』が美味しい。

 テレポーテーション装置の開発に着手することを決めたものの、何をどうすれば作れるのかは手探りだ。


「原理としては『帰還のロザリオ』でしょ。もっと大容量の転送を可能にして、転送先を自由に決定できたらいいだけで……」


 大容量の転送自体は単純で、『サファイア』の量を増やせばいい。だけど転送先の変更がとても難しかった。

 デフォルトの転送先は大神殿だ。それを変えられたら解決するんだけど……。

 ……わからない。誰か助けて。


「みんなー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど誰か相談にのってー」

『!? サブマスが喋った!?』

『店長さんがギルドチャットに参加するなんて文化祭以来じゃない!?』

『おいおいおいおいやめてくれよマジで。この人の手に負えない事態とか一般人の俺たちにどうしろって言うんだよ』

『いやだー! 滅びるのはいやだー! まだ死にたくないー!』


 阿鼻叫喚だった。ギルドチャットを切る。そうして私は一人で生きていく。


『あなたたちがそういうこと言うからラストワンさんが来づらくなるんですよー、分かってますかー』

『はーい』

『反省してまーす』

『でもどうせまた変なことすんだろ?』

『なんか風のうわさでドラゴン倒すとか聞いたんだけど』

『マジかよやっぱ邪神様やべぇわ』

『頭おかしいよね』

『でもそこが好きなの』


 私はあなたたちを嫌いになりそうです。くそう、好き放題言いやがって。


「その、紅炎の赤龍戦のために作りたいものがあるんだけど……。どなたか相談に乗ってくれる方は居ますか」

『赤龍ぶっ殺すって何作るんだ?』

『爆弾ぶち込めば殺せるってヤツじゃないでしょ。核クラスの爆弾作れるなら別だけど』

『この前の文化祭で作った大砲じゃダメかな』

『赤龍は飛び回るからなぁ。大砲じゃ当てられないし、それに狙われて壊されるのが落ちだろ』

『プロハンターの俺としてはやはりバリスタじゃないかと思う』

『あー、フックショットを射出して地上に引きずり落とすのか。王道だよね』

『結局当てるのが難しくないか?』

『そこはほら、邪神様なら行けるでしょ』


 ほったらかしにしてやいのやいのと騒ぎ出す。楽しそうだなぁこいつら。


『いやどうせ当てるっていうプロセスが必要なら、当てた瞬間倒すくらいの勢いで行こうぜ』

『ほう。どうやら俺のレールガンの出番のようだな』

『その『雷の小槍ショート・ライトニング』しまえよ』

『文化祭のときも一人で作ってたけど、結局完成してなかったよね』

『そもそもあれはゲーム内で作れるものなのか?』

『おいおい職連唯一の規則を忘れたか? 「俺たちに不可能はない」。そうだろ?』

『そんな頭の悪い規則を作った覚えはありません!』

『ギルマスー、堅いこと言うなってー』

『可愛い顔が台無しだゾ☆』

『追放しますよ』


 ……収拾、つくのかなぁ、これ。


「えーっと、その……。作りたいのはテレポーテーション装置なんだけど……」

『やっぱ邪神様やべぇわ』

『俺たちですら冗談でしか言ってないのに。ガチでSF兵器をファンタジーに持ち込もうとしてやがる』

『おい俺は本気だぞ』

『はいはいレールガンさんは秘密基地に帰りましょうねー』

『なんで秘密基地があること知ってるんだ?』

『えっ』

『えっ』


 頑張れ、めげるな私。これくらいの脱線で心を折られるんじゃない。


「『帰還のロザリオ』の原理を応用して、より大容量の物を指定した場所に転送したいんです。お願いします。どなたか何か知ってませんか」

『すごく物流がよくなりそうな発明だ』

『いいねー、前線から素材の供給が早くなりそう。ぜひとも作りたいね』

『前線の素材の供給だけなら、今まででも十分速いだろ。ワープできるんだし』

『……うん? あれ、ひょっとしてそれって』

『テレポーテーション装置って、転移石でいいんじゃね?』


 ……あっ。


「転移石か……。ありがとう、突破口になりそうだ。助かったよ」

『え、ちょっと待って!? こんなんでいいの!?』

『俺ら雑談してただけじゃん!』

『なんかもうすんません』

『何質問されても応えられるようレールガン48の活用法を用意していた俺に出番はないのか』

『もとからあんたに出番はない』


 今度こそ本当にギルドチャットを切る。こいつら一生喋り続けてるし、話を聞いてると頭がおかしくなりそうだ。

 一周目の時は外部の人間だったから、【職連】は生産職のプロ集団といったイメージしか無かったのに。知りたくない現実もあるもんだ。

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