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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
8章 火力積んどけば大体いける
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8章 3話

「あったた……」


 むくりと体を起こし、体についた赤砂をぱらぱらと落とす。

 うーむ、負けたかー。いい感じだと思ったんだけど、さすがに強かった。

 勝者の銀太は剣と盾を砂地にぶっ刺し、肩で荒く息をついている。


「やー、とうとう負けちゃった。GG」

「お、おう……。俺は、ついに、勝てた、のか……?」

「うん。最後の【ブラストバッシュ】は良い手だったよ。私の【桜花双刃】に対して完璧なカウンターだった」

「そ、そうか……。ええと、これで、戦績はどうなったんだ?」

「銀太の1勝38敗2分。勝率で言うと2.4%くらいだね」

「そう言われると、なんか勝った気がしねぇ……」


 最初の10戦くらいはとくに見どころもなく私が勝ってたんだけど、もう10戦もすると銀太も順応してきたのかなかなか試合らしくなっていた。最後の方はダブルKOの引き分けに持ち込まれたり、さっきの試合だとついにふっ飛ばされてリングアウトしてしまった。

 そりゃ全体で言うと私が勝ってるけど、それでも一勝は一勝だ。


「さて、もっかいやろっか」

「頼む、頼む、今日はここまでにしとこうぜ……。もう色々限界だ」

「またまたそんなこと言っちゃってー。調子良い時に練習するのが一番良いんだよ?」

「いやこれは調子良いとかじゃなくて、色々なものを振り絞った末の一勝で……」

「んー、じゃあ、銀太がもう一勝したらご褒美あげる」

「乗った」


 乗り気になってくれたみたいで何よりだ。何かを掴んだ直後にやめるのは良くない。掴んだ物が定着するまで練習しないと、せっかく掴んだ物もすぐに忘れてしまう。

 銀太ってばやればやるほど強くなるもんだから、なかなか背筋がゾクゾクさせられる。銀太がどこまで強くなるのか、見てみたくなった。


『あー、あー、客人よ。すまんが今日はそこまでにしてもらおうか』


 私たちが静かに戦闘態勢に入った時、無視できないほど巨大な気配が感じられた。足元の砂がさらさらと落ちていき、砂漠のど真ん中に穴が広がっていく。

 向こうから出てくるとは思わなかった。ずっとバタバタ暴れてたからシビレを切らしたようだ。ごめんごめん。


「店長、どうする」

「どうするも何も、お呼ばれされちゃったから行くしか」


 砂漠に開いた穴に飛び込むと、砂の流れに身を任せる。べたっと落ちた終着点は、そこは砂漠の地下に広がる隠された神殿。

 金槌と算盤の神アーキリスの御座所だ。

 私の後に落ちてきた銀太に、ちょっとここで待っててと合図だけしておく。神様との交渉は任せて欲しい。


『来たか客人。吾輩の神殿を目前にしておいて長々と暴れまわりおって。そういう遊びはゼルストの奴にでも見せろ』

「あ、怒った? そんな怒んなって」

『ふざけているのか?』

「うん」


 よいせっと剣を抜いて、神殿の中にずかずかと入っていく。神殿の中に飾られる彫像の1つを、無造作に蹴っ飛ばした。

 さぞかし価値のあるだろう彫像は首がへし折れ、見るも無惨な姿に早変わりする。


『貴様……。吾輩を何者と心得るか。我が名は金槌と算盤の神アーキリス、物質界の主なるぞ』

「うん。知ってるよ。生産でいつもお世話になってるね」

『なれば貴様の態度はそうではないだろう。今すぐ頭を垂れ、臣下の礼を取るのだ』

「そーかい」


 【エアスラッシュ】をぴっと飛ばして、壁に飾られている絵画を切り飛ばす。あーあー、これもきっと価値ある美術品だったろうにね。


『やめろと言っている! 最早これ以上の無礼は許されぬぞ!』

「許されなかったらどーすんの?」


 棚から取り出したきらびやかな宝飾品を床にぶちまけ、ぐちゃぐちゃに踏み壊す。バキバキに壊され、価値あるものはあっという間にその価値を失う。

 どうせこの神には何もできやしない。


『わかった、分かったから! もうやめろ!』

「やめろ? 今やめろって言った?」

『やめてください! お願いします!』

「え、なんて? ごめんごめん、あんまり大きい声だと聞き取れなくって」


 『爆撃おりがみ』を紙飛行機にし、本棚にぽいっと放り投げた。ずどんと爆炎があがって、本棚もろとも中の稀覯書がめらめらと燃える。

 きっと高く売れたろうに。実に残念だ。


『頼む……、頼む……。どうか、どうかやめてくれ……。許してくれ……』

「やだ」


 高そうなツボとか、アンティークの時計とか、目についたものを片っ端から壊す。神殿内には絶え間なく破砕音が響き渡り、ぐしゃぐしゃの破片があちこちに散乱した。

 神殿の外で見ていた銀太が顔面蒼白になっていたけど気にしない。アーキリスにいたってはさめざめと泣いている。

 ちょっと楽しくなってきたところだけど、そろそろトドメを刺そうか。

 神殿のど真ん中にそびえ立つは、右手に金槌を、左手に算盤を携えた巨大な美丈夫の像。そのアーキリス像を見て、にぃと邪悪な笑みを浮かべた。

 もちろんこのアーキリス像こそ、アーキリスの御神体。これを破壊されるとアーキリスは死ぬ。


『おい、おい、お前様、一体何をなさるおつもりか。その像は、それだけはどうかおやめくださいお願いします!』

「えー? どーしよっかなー?」

『なんでも……、なんでもしますから、どうか、それだけは……』


 そんなこと言っても、見逃してなんてあげないんだからねっ。

 よいしょっと剣を上段に構え、狙いを定める。


「いっくよー、覚悟してね」

『よせっ、やめろ! 嫌だ! 消えたくない! やめろおおおおおお!!』


 【エアスラッシュ】を放ち、アーキリス像の持つ算盤を切り飛ばした。

 算盤だけが粉々に弾けると、周りの景色ががらりと変わっていく。粉々にされた高価な品々の残骸が消え去って、現れたのは大量の武具と鎧だ。

 華美な装飾など一切無い、純粋な武器として作り込まれた剣。装備者の負担を極限まで抑えるための、見た目は不格好な鎧。ただ一目見るだけで何のために作られたのか、ありありと伝わるほどに研ぎすまされた装備たち。

 よく見ればそれら全てに、使い込まれた細かな傷がついているのがわかる。全てが実用品であり、使うために作られた道具だ。


「おはようアーキリス。目が覚めた?」

『……ふん。これならまだ飲まれていたままのほうがマシだ』

「そう言わないでよ。わざわざ解放してあげたんだから」


 顕現した彼こそが金槌の神アーキリス。さっきまでここに居た算盤の神アーキリスと同一人物だけど、善神の一面。

 私たち職連が崇める、生産の神様だ。

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