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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
8章 火力積んどけば大体いける
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8章 2話

 生産ドームでアーキリスの祠を拝む。今から会いに行きますんで、ぬるめのお茶とお菓子を用意してお待ち下さい。


「店長も神頼みするんだな」

「実際にご利益あるからね。拝んどいて損はないよ」

「実利主義者の神頼みってか。皮肉が効いてんな」

「アーキリスは物質主義だからね。喜ぶんじゃない?」


 そういう銀太もなんだかんだで拝んでいた。現金な奴め。


「つくづく救えね―世界だな」

「そりゃまあ、救えなかった世界だし」

「今度は救うんだろ?」

「銀太がそういうこと言うの、なんか違和感」

「そうか?」


 銀太に事情を話しても、私たちは何も変わらなかった。強いて言うなら皮肉のレパートリーが増えただけだ。


「それにね、今回の私は裏方だから。私が世界を救うってのはまたちょっと違うかなぁ」

「その裏方様はこれから何しに行くんだ?」

「神様に会う旅に出る」

「どう見ても主人公の所業」


 そりゃ私だって主人公プレイヤーの1人だし。これくらいはやらなきゃ。

 さて、神様にも祈ったしそろそろ出かけよう。

 背中に背負ったラグアの十字架をもう一度縛り直す。これ、私の物じゃないからアイテムインベントリに入らないんだよね。アーキリスの神殿まで担いで持って行かなきゃいけないのがなんとも。

 出かける前にリースに声をかけると、すごーく微妙な顔で送り出された。


「何その顔」

「危ないことしにいく人たちをしぶしぶ見送る時の顔です」

「出迎える時の顔は?」

「それはまた今度で」


 リースちゃんは心配性だなぁ。ちょっと出かけるだけじゃないの。


「安心しろよギルマス。なんかあっても俺がいるから」

「あなたがいるからこの人余計な無茶するんですよ……」

「って言ってるけど、どうなんだ店長?」

「所有戦力は最大限に活かしてなんぼですよ」

「拡充戦力は無茶の幅を広げるんじゃなくて、安全の確保に充てて欲しいんですが」

「安牌なんてつまんないよ。リスク&リターンが楽しいんじゃん」

「店長はギャンブラーだなぁ」

「銀太さん、あなたも同類ですよ」


 やーい同類。お仲間お仲間ー。

 旅は道連れ世は情けー。同じ穴のムジナの釜飯兄弟ー!

 渋るリースとハグして別れ、銀太を連れて出かける。旅の準備はとっくに終わってるんだ。

 それじゃあ、神様に会いに行こう。



 *****



「つまんない」

「と、言われてもなぁ」


 アーキリスの神殿がある23レベルMAP、赤砂砂漠についた。

 それも、かなーりあっさり。私も銀太も一度も死にかけなかった。


「スリルが足りないよ。せっかく奇襲されても銀太があっさり倒すじゃん」

「だからって敵の群れのど真ん中を突っ切らないでくれよ。対処すんのも大変なんだぞ」

「……すっかり強くなっちゃって」


 背面界でソロ修行してきたって言うけど、前の銀太とはつくづくレベルが違う。

 カンストしたってのもそうだけど、足運びにためらいがない。前に出るべき場面で躊躇なく前に出るようになったし、敵の軍勢を前に踊り出ても死なずに捌ききるだけのスキルも備えている。

 戦場での立ち位置で言うなら攻略組だった時の私と同じ場所に立っている。かつての私が敵陣に突っ込んで殲滅する役割だったとすると、銀太は敵陣のど真ん中で敵を捌ききる役割だ。

 惜しむらくは、今の私は戦えないこと。彼と同じ戦場に立てたならきっと、私たちは素晴らしいペアになれただろう。


「私も戦いたいなぁ。最近真っ向から戦ってないから、たまに体がうずくんだよね」

「こんだけスリルを浴びといてまだ物足りないのかよ……」

「やっぱり敵を切り裂くあの感触には代えられなくて」

「変態っぽい」

「失礼な」


 アイテム乱舞も大砲どかーんもいいけど、二刀流近接のDPSに物を言わせたハイリスク・ハイリターン戦法はクセになる。私もまた最高火力という幻想に魅せられたゲーマー(馬鹿野郎)の1人なのだ。


「俺で良ければ相手になろうか?」


 銀太がそう言った言葉の意味を考える前に、体は既に動いていた。

 超速で抜剣した勢いもそのまま、銀太の手に持つ盾に一撃を入れて軽くノックバック。すぐさま追撃を入れようとして――、そこで思考が追いついた。

 必死に理性のブレーキをかけて、振り抜きかけていたショートソードを止める。剣は、銀太の喉元を切り裂く寸前で止まっていた。


「っと――。ごめん銀太、大丈夫!?」

「あ、ああ……。急に来るかよ、びっくりするじゃねぇか」

「本当ごめん……。いつものクセで、つい」

「どういうクセだよ」

「目と目があったら即バトル、みたいな」


 やりあうという意思を示したら、次の瞬間には斬り合ってるヨミサカパーティでついたクセです。

 喧嘩っ早いというなかれ。私たちにとっては挨拶みたいなもんなんだ。暇なら日がな一日、雑談混じりにPvPしてるような人種だったんだ。


「まあ、びっくりしたけどよ。やるのはやぶさかじゃねえぜ?」

「っ――。だからそういうこと言わないの。そんなに誘われちゃうと、私だって我慢できないんだから」

「構わない」


 すっと目線が交差し、即座にお互い距離を取る。交戦距離は15m、丁度いい間合いだ。


「俺は、強くなった。でもまだ足りない。まだまだ強くなりたいんだ。頼む店長、胸を貸してくれ」

「やーやー、しょうがないなーまったくもー。ルールは転倒戦シャットダウンでいい?」

一撃決着ワンショットじゃないのか?」

「言うじゃん」


 そう言った銀太に向けて、回避できないよう時間差をつけてナイフを2本投げる。銀太の構えた盾に防がれるのは予想済み、銀太の視界が盾で塞がれた一瞬に、後ろに回り込んでがら空きの背中をていっと蹴っ飛ばした。


 一撃でも入ったら仕切り直しの一撃決着ワンショットは、私みたいなスピードタイプにとって有利なルールだ。ヨミサカたちとやった時はレベル差を考慮して私有利の一撃決着ワンショットにしてもらったけど、そうじゃないなら転倒するか指定エリア外にはじき出されたら負けの転倒戦シャットダウンのほうがスタンダード。

 ちなみにこの転倒戦シャットダウン、またの名を相撲とも言う。


「……分かった。転倒戦シャットダウンにしよう」

「うん。そうしよっか」

「でも大丈夫か? レベル1とレベル50でステータス差はあるんだ。その、もし直撃したら店長ふっ飛ばされないか?」


 そりゃふっ飛ばされますよ。レベル50のステータスでぶん殴られようものなら、レベル1なんて星の彼方までふっ飛ぶでしょうよ。

 実際にヨミサカたちとPvPした時は、何度か良いのを防ぎきれずにふっ飛ばされてたし。

 ただ、その、ね。


「その心配は私がするから、銀太は気にしなくていいよ。手加減なんていらないから全力でおいで」

「そうだったな。分かった、本気で行かせてもらう」


 直撃させられるもんなら、やってみろっての。

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