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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
7章 行くぞお前ら祭りの時間だ
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7章 9話

 『ロイヤル・リリー』の最期は壮絶だった。

 船体の各地に空いた穴から水が流れ込み、めしめしと音を立てて真っ二つに割れた『ロイヤル・リリー』は、私たちが見守る中で轟音と共に海底へ沈んでいった。


「リリーちゃん! リリーちゃん! うおおおおおおおおおおん!」

「部長っ! 泣かないでください部長っ! うあああああああああっ!」

「リリーちゃああああああああああああん!!」


 帆船バカ共がとても暑苦しい。気持ちは分かるけど。

 沈みゆく船の最期に、黙祷を捧げる。

 おやすみ、『ロイヤル・リリー』。


 そうして文化祭は終わり、プレイヤーたちは後夜祭と名付けた祝勝祭を開いている。

 なんというか、カオスな祭りだった。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎに、各部活が実戦投入しなかった試作兵器を引っ張りだしての展覧会。結局最後まで出番がなかった投石器を使った遠投コンテストが開かれたり、急ごしらえのチャリオットで競馬したり、ヨミサカパーティ4人VS中堅層軍団の突発PvP大会を山田さんが実況したり。ラインフォートレス中どこもかしこも大騒ぎだ。


「店長は何か参加しないのか?」

「んー、私はやめとくよ。この後用事あるし」

「そうか」


 そういう銀太も祭りに参加しないようだ。露店で買ってきたクレープを片手に、銀太とふたりでベンチに座る。


「で、銀太。さっきの話なんだけど」

「何の話だ?」

「ExSkillだよ! なんであんなもん持ってんのさ!」

「店長も言ってたじゃねぇか。ちょっと修行しにソロで背面界まで渡ってきたんだよ。そしたらなんか神殿見つけて、ついでに拝んだら手に入れた」

「だーっ! この一週間姿見せないと思ったらそれか!」

「ほれ見ろよ、レベルもカンストさせたんだぜ。すげーだろ!」

「やかましいわ!」


 ドヤ顔でステータスを見せつける銀太にデコピンをぶちこむ。


「店長? なんで怒ってんだ?」

「銀太が1人で背面界に渡るなんて危ないことしたから怒ってんの!」

「お? お? それってひょっとして心配してくれてんのか?」

「なんでちょっと嬉しそうなんだ沈めるぞ」

「すいません」


 口では謝りつつも、銀太の顔はゆるゆるにゆるんでた。ほっぺつまんで顔ぐにぐにの刑に処す。


「大体さ、店長だって危ないこと好きじゃん。おあいこだっておあいこ」

「それを言われると辛いんだけど……。でもせめて一言声かけてくれればいいのに」

「それじゃあ意味無いじゃん?」

「なんで?」

「なんでもだ」


 よくわからん。


「まーな、俺だって色々あるんだ。これくらいの無茶は鼻歌交じりでこなせないと、どこかで置いて行かれちまう」

「何だそりゃ。攻略組にでもなるつもり?」

「それよりもっとタチが悪い」

「よくわかんないけど、なんか嬉しそうだね」

「かもな」

「なにそれ」


 まあなんでもいいや。本人が嬉しいならそれでいいだんろう、きっと。


「それより店長、俺も聞きたいことがある」


 そう切り出した銀太は、珍しく真面目な顔をしていた。


「んー、何を聞きたいかは大体見当がつくよ」


 散々はぐらかしてきたからなぁ。そろそろ話すべき時か。


「でも、ちょっと先にやることがあるから。また後でね」

「なにしに行くんだ?」

「秘密」


 ひらひらと手を振って銀太と別れ、お祭り騒ぎの街中を抜けて大神殿へ向かった。



 *****



 大神殿の中は相変わらず人気がなく、街中とは打って変わって静寂に包まれていた。大ラグア神像の裏手にあるスイッチを押し、ラグアの聖域への仕掛けを作動させる。現れた隠し階段の奥で、誘うように闇がゆらめく。

 階段を降りた先はラグアの聖域。その中心にはラグアが宿る十字架が安置されていて、その十字架に黒い闇が腰掛けていた。


『へえ、まさか人が来るとは思わなかったな』


 その黒い闇はニヤニヤと笑い、年若い少年のような声で話す。


「ラグアの聖域を踏み荒らす不届き者の面を見に来たんだよ」

『それはまたご足労様。僕はすぐに帰るから好きなだけ見ていけばいい』

「あんたのことだよ」


 剣を抜いてそいつに向けてつきつける。そいつは、ニヤニヤ笑いをより一層深めた。


『たかが人間風情が、この僕に刃向かうつもりか?』


 そいつは――死滅と再生の神ウルマティアは、ゆらりと闇をにじませる。

 聖域にはウルマティアからにじみ出る闇が満ち、暗闇の中に奴の姿だけが浮き出ていた。


「はっ。封印されてる分際でよく言うよ」

『封印も半分は解けたさ。他ならぬ君たちの手によってね』

「さっさと完全に復活してよ。実体を持った瞬間殺してやるから」

『おお、怖い怖い』


 会話をしながらも、槍のように伸びてくる闇を切り落とす。

 こんなの遊びのようなもんだ。奴にとっても、私にとっても。


『まあいいさ。僕は今とても気分が良いんだ、君は殺さないでおいてあげよう』

「殺せないの間違いでしょう。私も気分が良いんだ、ラグアを置いて出ていけば見逃してやる」

『なんのことだ?』


 一周目の話をしよう。

 私たちが防衛戦に失敗して最後の防壁を王に破壊された時、顕現したラグアが背面界の彼方まで王を吹き飛ばした。

 しかしそのためにラグアは力を使い果たし、ラインフォートレスを守る大結界が消失。その隙にラインフォートレス内部へと侵入したウルマティアがラグアの宿った十字架を持ち去った。


 その未来を見てきた私は知っている。

 この戦争は、ラグアを奪うためだけの壮大な陽動であったことを。


「その十字架から離れろ。今すぐにだ」

『人間風情に指図される筋合いは無いね』

「強がらないでよ。大結界をかいくぐるために相当の力を置いてきたはずだ。そんな状態でやりあうつもり?」

『……チッ。ったく、お前のせいで台無しだよ。せっかくここまで上手く行ってたのにさあ!』


 知るかよ。ざまーみろ。


『人間風情がぁ! 神を侮るなよ!』


 癇癪を起こした子供のように、ウルマティアは闇を振り回す。でもこんなもの、本当にただの子供だましだ。レベル1の攻撃力ですら切り裂けるんだから間違いない。

 スパスパと闇を切り裂きながらウルマティアに近づいていく。近づくほどに闇の攻撃は熾烈になるけど、質量のない攻撃なんかじゃ私には届かない。

 最後に一刀、切り伏せておしまい。


『呪って、やる……』


 ――とっくに呪われてるよ。

 最後にそう吐き捨てて、ウルマティアは揺らいで消えていく。やがて聖域を覆っていた闇は消え失せ、残されたラグアの十字架には深い亀裂が走っていた。


「ラグア、生きてる?」


 返事はない。十字架を持ち去られることこそ無かったが、ラグアの受けたダメージは甚大のようだ。

 神格が怪我した時ってどうすればいいんだろう。お客様の中に神々のお医者様はいらっしゃいませんか。

 とりあえず見舞い代わりに『世界樹の果実』を十字架に供えておく。生きろよ、ラグア。


 大神殿を出ると街中の異変が肌で感じられる。プレイヤーたちは相変わらずのどんちゃん騒ぎだけど、NPCたちが悲嘆にくれていた。

 心当たりはある。ラグアが力を失い、大結界が消失したんだ。


「どうにかしなきゃ、まずいよなぁ」


 私疲れてるんだけどって言い訳を飲み込んで、大神殿前にそびえ立つ世界樹の若木をぺちぺちと叩いた。

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