7章 8話
本日は7章8話のみの更新です
王と委員会の戦いは熾烈を極めた。
歩くごとに地を揺らす王に苦戦を強いられ、主なダメージソースは遠距離攻撃に限られる。っていうのは序盤だけで、徐々に状況に適応していった前衛は、王の巨大な足に踏まれないよう気をつけながらもざくざくと切り結んでいた。
ヨミサカとおっさんは相変わらずの変態的な動きで王の右足をズタボロにしていた。ジミコはジミコで延々と王の眼球に矢を刺すことにご執心だ。時々キレた王が咆哮をあげようとするが、その度にジミコが喉に向けてゼルスト七王技【シューティングスター】をぶっ込んで止める。
シャーリーはゾンビを作っては王に踏み潰されることを繰り返し、すっかりいじけてしまっていた。死軍は敵との相性次第で性能が天と地ほどにも変わってしまう。地震を起こしながら移動する王は、ゾンビで囲んで殴るには向かない敵のようだ。
絶え間なく妨害を受けたことで王の歩みは重くなったが、止めるにはいたらない。王はゆっくりと歩を進め、ついには防壁の前までたどり着く。
防壁の目前まで迫った王は上体を起こし、豪腕を大きく振りかぶった。グォングォンと腕を唸らせ、憤怒の形相を浮かべた王は大地を割らんばかりに足を踏みしめる。
「マズイね。諸君、あれを止めるよ」
「任せろ」
フライトハイトが指示を出し、ヨミサカが王の体を駆け上る。頭の上まで登ったヨミサカは巨剣を高々と振り上げ、ゼルスト七王技【ギガブレイク】を脳天に叩き込んだ。激しい衝撃が王の体を揺らし、怯んだ王は攻撃モーションを中断した。
「止まったか!?」
「いや――、まだだ!」
怯みモーションが終わった後、王は再び豪腕を大きく振りかぶる。
「おいおい、またかよ!」
「くそっ! 次は俺が止める!」
おっさんの姿が影のように消えたかと思うと、次の瞬間4人のおっさんが王の首後ろに現れた。
そして4人のおっさんによる合体攻撃、【死祀血祭】が王の首筋を大きく切り裂く。激しく血が吹き出し、王は苦痛に顔を歪めた。
それで一度は攻撃を止めたものの、王は何度でも腕を振り上げる。
「くっそ……! ふっざけんなよ! まだ止まんねーのかよこいつ!」
「だったら何度でも止めるだけさ!」
フライトハイトは大鎌による【ソウルリーバー】で王の足首を刈り取る。クリティカルを示す赤い閃光が瞬き、王の体勢を崩すことに成功した。
しかし、王は膝立ちのまま腕を振り上げた。
「防壁壊すまで……絶対に止まらないって言うのかよ……!」
「誰か他に止められる奴はいないのか!」
「駄目だ、全員一旦離れろ! 巻き込まれるぞ!」
轟音と激震。凄まじい衝撃がここまで伝わってきて、ビリビリと世界が揺れる。
衝撃が去ってから、石材が崩れる音が聞こえる。王の拳が直撃した防壁は、跡形もなく消え去っていた。
「なんちゅう……威力だよ……」
「まじかよ……たった一撃で防壁が……」
「おいおいおい……、どうすんだこいつ……」
王は防壁をただの一撃で打ち砕く。この力を前に一周目の私たちは敗れた。
だからこそ、私たちは準備をしてきたんだ。
「怯むな! 防壁は後2枚ある! 砕かれたのはマリアだ! まだローゼとシーナがある!」
「おい待てその名前はやめとけ。普通に第一・第二・第三って呼べ」
「あのバケモノ、どことなく巨人っぽいよなぁ。体長も50mくらいあるし」
「だからやめとけってマジで!」
ウォール・マリ――じゃなくて、第一防壁は粉砕された。だが王の行く手には後2枚の壁がある。防壁部の皆さんが防壁を掘って増産した防壁だ。防壁は防壁から作られる、VRMMOならね。
そして第二防壁の上には、砲撃部とバリスタ部が急ピッチで作成した防衛兵器が並んでいた。
『砲撃部とバリスタ部の皆さんのアンコールです! ラストダンスもいよいよ佳境、各部活の皆さんは心臓を捧げてください!』
「だからやめろっつってんだろ!?」
『一匹残らず駆逐しちゃってください!』
「おいだれか山田さんを取り押さえろ!」
王に向けて砲撃が放たれ、委員会が攻撃を再開する。爆炎と爆音が王を焼き、全身を絶え間なく切り裂かれて王は膝をついた。
地に手を付いて王はその場で動きを止める。いや、違う。あれは力を貯めているんだ。
これくらいでは王は止まらない。あいつは死ぬまで決して止まらない。
無尽蔵のスタミナに物を言わせ、砲火に全身を晒されながらも進み続ける。その目にあるのは憤怒。人類への途方も無い憎悪が王を狂わせ、溢れんばかりの殺気が身を焦がす。王の怒りは止まらない。
『こちらラストワン。砲撃部、バリスタ部へ。すぐに防壁から退避して』
「なぜだ? ダウンを奪ったんだぞ! 今こそ畳み掛け――」
『いいからさっさとそこから逃げろっ! 来るよっ!』
獣のように王が走り、第二防壁に激突。そのまま防壁に組み付いて、力任せにべりべりと防壁を引きちぎっていく。
べりべり、べりべりと。防壁がまるでダンボールのように引き裂かれていき、最後に足で蹴り破る。さっきまでそこにあった第二防壁は、あまりにあっさりと瓦礫の山へと変わった。
残るは最後の、第三防壁のみ。
「くそ、追い込まれたか」
「ここまでやっても止まらないなんて、つくづくバケモノだねぇ」
「これほど楽しめる相手は久々だ。フライトハイト、次は止めるぞ」
「言われるまでもないよ、ヨミサカ」
火炎地雷も、チャリオットも、飛行従魔も、大砲も、バリスタも、防壁も。全て王を止めるには至らなかった。今や王を阻むのは採集委員会のみ。
数多の瓦礫を踏みしめて、傷だらけの体を引きずり、王は最後の防壁へと歩む。
委員会の猛攻に晒されながらも、王は歩み続ける。王の体から流れる血の軌跡が、まるで玉座へと至るレッドカーペットのように見えた。
血塗れの道を踏破し、王はついに最後の防壁の前に辿り着く。そして王は天に向けて、己の勝利を祝うように猛々しく吠えた。
その様子を確認して、ずっと覗き込んでいた望遠鏡をしまう。
ここまでは想定通りだ。
「総員に通達。待たせて悪かったね。斉射の用意を」
「ああ、待ちくたびれたぜ。ようやくリリーちゃんの出番だな」
限界ギリギリまで粘ったせいで、帆船部の皆さんを随分待たせてしまった。でもようやく、私たちのステージを始められる。
指示を出すと『ロイヤル・リリー』船内に緊張した空気が走る。準備なんて最初から完了していた、後は撃つだけだ。
王が豪腕を振りかぶったその瞬間を狙い、手を振り下ろす。
「ぶっ放せーッ!」
『ロイヤル・リリー』に積まれた、両舷160門のカノンロイヤルの斉射。王の咆哮に匹敵する轟音が鳴り響き、鉛の暴風が戦場を蹂躙する。68ポンドの砲弾が一斉に王の横腹に突き刺さると、その巨体が浮き上がって横転した。
「はあっ!?」
「なんだ今の砲撃は! どこからだ!?」
「一瞬とは言え王が浮いたぞ!? とんでもねぇ破壊力だ!」
「大怪獣VS最終兵器か、まるで映画のようだな」
「――チャンスだ! 全員、総攻撃をかけろ!」
フライトハイトが号令を出し、砲撃に気を取られていた委員会が倒れ伏した王に一斉攻撃をしかけた。それを確認し、船内へと目を向ける。
「部長さん、船内のダメージは?」
「平均損傷度60%ってとこだな。大破箇所多数、全壊した部位は無い」
「オーケー。手の開いている人は損耗の激しい部位を優先的に修理して! すぐに次弾を装填する!」
「「「おうっ!」」」
船員の皆さんが急いで修理を始める。たった一回の斉射で船が半壊するのは、残念ながら仕様だ。
大変頭の痛いことに、帆船部のアホ共が限界を越えてカノンロイヤルを積んだ結果、片舷斉射すると反動で船が転覆する愉快な船になった。それを防ぐためにやむなく両舷斉射で反動を殺す必要があるんだけど、そうすると砲の反動が全て船の中に跳ね返って暴れまわる、とっても愉快な船になった。
結果として出来上がったのが、敵も己も破壊し尽くすスーパー戦列艦『ロイヤル・リリー』。できるなら最後まで使いたくなかった、私たちの最終兵器。
『こちら『ロイヤル・リリー』船長ラストワン。戦いながら聞いて! 『ロイヤル・リリー』はポンコツだ! アホほど火力を積んだせいで斉射一回で船が半壊する!』
『こちらフライトハイト、言いたいことは一つだけ。君らバカじゃないの?』
『生徒会です。アホですかあなたたちは』
『放送部よりお知らせです。火力バカが伝染るので、防壁内の皆さんは港地区に近づかないようお気をつけ下さい』
『ええいうっさい! ともかく支援砲撃ができるのは持ってあと2回、それまでにケリをつけて!』
散々な言い分である。私のせいじゃないもん。帆船部のせいだもん。
「とにかく火力積めって言ったのは船長じゃないか」
「ここまでやれなんて言ってないよ! っていうかなんで私が船長なの!? 部長さんがやるのが筋でしょう!」
「この手で帆船を動かすのが夢だったんだ。操舵手だけは死んでも譲れねぇ」
「あぁ、うん……。良かったね……」
これだから帆船バカは……。
そうこうしている間に、倒れ伏していた王がゆっくりと立ち上がる。これまでのダメージが積み重なったのか、王は激しく血を吐いた。
それでも地を踏みしめて立ち上がり、空を呪って天に吠える。その意気やよし。
「何度だって打ち砕くさ。部長さん、船の状況は?」
「損傷度40%ってとこだ。大破した箇所はあらかた埋めたが、砲を撃つには厳しいな」
「不可能じゃないならそれで十分。再装填、行くよ!」
船員がホムンクルスに命令を出し、砲弾が自動で再装填されていく。数十秒ほどで160門の砲のリロードが完了する。
射撃のタイミングは王がもっとも力を込める瞬間だ。体の中にみなぎるパワーに穴を開け、体力の消耗を狙う。
立ち上がった王が防壁に組み付き、ぎりぎりと力を込め始めた。もう少し、もう少し――。
「撃てッ!」
轟砲斉射。
再び放たれた鉛の嵐が王にぶっ刺さり、王は血を撒き散らしながらふっ飛んだ。王の巨躯が大地に投げ出され、ラインフォートレスが大きく揺れる。
「船のダメージは?」
「損傷度80%オーバー! 船体後部が縦に裂けた!」
「それって大丈夫なの!?」
「大丈夫なわけないだろ! この船はもう持たない、沈むぞ!」
「まだ沈むわけにはいかないの! 総員、総力を上げて船の修理を! 一分一秒でも長く船を持たせて!」
「これ以上は無理です! 予備の木材がもうありません!」
「この際鉄でもなんでもいい! それも無いなら流木を釣って!」
私も持ち場を離れて修理を手伝いに行こうとすると、その肩を部長さんが掴んだ。
「船長は戦況を見てろ。修理は俺たちでやる」
「そんなこと言ってられる場合じゃないってば。グズグズしてると船が沈むよ!」
「沈ませるかよ。それに修理ができる奴はわんさと居るが、戦況を読めるのは船長だけだ。あんたがこの船の目であり、頭脳だ。いいな」
「…………」
部長さんがなんで船長の座から引いたのか、わかった気がする。
この人は根っからの生産職だけど、私の根っこは攻略組だ。私たちと彼らとでは、立つ戦場も戦う相手も違う。
だからこそ彼らは、生産職の魂がこもったこの船を私に預けたんだ。戦うために生まれてきた『ロイヤル・リリー』の本懐を遂げさせるために。
「――部長さん、『ロイヤル・リリー』は最高の船だ」
「当たり前だろ。俺たちの最高傑作だ。こんなに良い女は世界のどこにもいやしねぇよ」
生産職の魂、私が預かった。
望遠鏡で戦況を見る。『ロイヤル・リリー』渾身の一撃を2回も受け、王の体はボロボロだ。だが、奴はまだ動いている。
もはや立ち上がる余力も無く、王は愚者のように頭を垂れて肩を怒らせる。それでもその体からはいまだ戦意は失われてはいない。
灼熱の怒りに燃えるその目と望遠鏡越し目が合ったような、そんな気がした。
次の瞬間、あれだけ執拗に防壁を狙っていた王が方向転換する。その視線の向かう先は『ロイヤル・リリー』だ。
「王が、こっちを向いた……?」
四脚のまま王は『ロイヤル・リリー』を見据え、口を大きく開く。そして口元に巨大な火球を生み出した。
――なるほどこっちに喧嘩を売ろうってか。上等だよ。
その憤怒に満ちた瞳に、真正面からありったけの殺意を叩きつけて宣戦布告の受理とする。
本気で殺しに来い。本気で殺してやるから。
「部長さん、こっちに攻撃が飛んでくる。船員を連れてすぐに船から降りて」
「船長はどうするつもりだ?」
「あのデカブツに生産職の魂ってやつを教えてやる」
「なら、俺達も付き合わねぇとな」
部長さんがそう言うと、帆船部の人たちはニヤリと笑った。誰ひとりとして降りる気は無いようだ。
ったく、これだから帆船バカは。
それなら私は彼らに応えなきゃいけない。息を吸って、私も覚悟を決める。
「船体の修理はもういいよ。再装填を。第三射の準備をして」
――『ロイヤル・リリー』の命と引き換えにしてでも、王を倒す覚悟を。
それは軽々しく出してはいけない命令だった。だけどこの命令を出せるのは私しかいないから。これは私が背負うべき十字架だ。
「嫌な役押し付けちまってすまねぇな。そればっかりは俺たちにはどうしても出来ないんだ」
「気にしないで。この船に乗れたことを心の底から誇りに思うよ」
傾く船の中、砲弾の再装填が進められていく。
王がチャージしている火球は、『ロイヤル・リリー』と同等かそれ以上の大きさになっていた。あれを受ければ私たちは皆死ぬだろう。
――良い、死線だ。
「再装填、急いで! いつ放たれてもおかしくない!」
「ダメだ、半分の砲身がひん曲がっちまってる! 修理からやらねぇといけねぇ!」
帆船部だけでも逃がすか、って考えが一瞬だけ浮かんで、否定した。きっと彼らは最後までこの船と共にいたいだろうから。
だったら、最高のフィナーレに全力を捧げよう。
「反対側から無事な砲台を持ってきて! 第三射は片舷斉射で行う!」
「了解! お前ら聞いたな、急げ!」
急ピッチで突貫工事が行われ、砲門が次々と入れ替えられていく。王もボロボロだけど、『ロイヤル・リリー』だってボロボロだ。それだけボロボロになっても最後まで戦う意思には、やはり気品が感じられた。
「工事完了だ! これより再装填に入る!」
部長さんがそう叫び、砲弾が次々と装填されていく。かつてない速度で砲弾の装填が進むのを確認しながら、王を見据える。
王の火球は天を焼き焦がすほどの大きさとなっていた。もう逃げ場なんて無い。この期に及んで逃げる気なんて、さらさら無かった。
さあ、終わりにしよう。
「終幕だっ! 消し飛ばせえええええええええっ!!」
『ロイヤル・リリー』最後の一撃と、王の火球が放たれたのは同時だった。
68ポンドの鉛の暴風と、全てを焼きつくす破壊の業火が交差する。『ロイヤル・リリー』目掛けて真っすぐ飛んでくる巨大な火球が、やけにゆっくりに見えた。
残念ながらあの火球を止める術を私たちは持っていない。今更回避も不可能だ。決着を見届けることができそうにないのが、少しだけ惜しかった。
あー、まじか。ここまでか。
帆船部のみんな、巻き込んでごめん。
『ロイヤル・リリー』、散々無理させてごめん。
ヨミサカ、フライトハイト。後は任せたよ。
リースが纏めた今の職連と攻略組が協力していけば、私抜きでもこのゲームは越えられるはずだ。
だから私は、今度こそこのデスゲームをぶち破るために。
少しでも多くの希望を未来に繋ぐために。
こいつは私が連れて行く。
「ったく。詰めが甘いって言ったろ、店長」
ふと聞こえた声に、目を見開いた。
銀髪のプレイヤーが私の前に割り込み、巨大な火球と相対する。彼は躊躇なく船の縁に足をかけて飛び上がり、その手に持つ盾を高く掲げた。
「ExSkill――《ロイヤルガード》ッ!!」
銀太が構える盾から白く輝く巨大な盾が顕現し、巨大な火球を受け止める。爆裂した火球が業火の柱となり、周囲の海をまたたく間に蒸発させても、《ロイヤルガード》は揺るがずそこにそびえ立っていた。
フォートレスのExSkill、《ロイヤルガード》。自身のHPと引き換えに無敵の大盾を顕現させる、9つのExSkillの1つ。
爆炎がかき消えてクリアになった視界で、王の姿が見えた。
全身を真っ赤に焼けた砲弾で貫かれ、バラバラに砕けていく王の姿が。
「勝っ、た……?」
「ついに……、ついに終わったのか……?」
「やった……! やったぞ! 勝った! 勝ったんだ!」
砕けた王の体は光とともに空へと昇っていき、紫色の空はもとの青さを取り戻す。
勝ったんだ。そう思った瞬間、『ロイヤル・リリー』が大波に揺られて私は海の中に投げ出された。
海の中で銀太を探す。銀太、先に海の中に飛び込んでいったけどどこにいったんだろう。
探してみると、銀太は海の底でイッカクに絡まれていた。なにやってんだあいつ。
『蒼海龍の釣り竿』のルアーを投げて銀太の鎧に引っ掛け、リールを巻き上げて引き上げる。ハンドサインで(泳げる?)って聞いてみると、銀太は無言で目をそらした。こいつ……。
しょうがないから手を引いて泳ぎ、港まで引き上げる。
「……すまん、助かった」
「銀太ちゃんってば泳げないんだー。へーぇ? へーぇ?」
「うっせうっせ。俺だって鎧着てなかったら泳げらい」
はーっと息を吐き出して、銀太と2人で波止場に寝っ転がる。見上げた空は青かった。うんうん、やっぱり空はこの色じゃなきゃ。
「ExSkill、ねぇ。銀太ってば面白いスキルもってんじゃん」
「おう。最近手に入れたスキルだ」
「あれってさ、大門を越えた先の背面界にあるゼルストの神殿まで行かないと入手できないスキルだよね。そこまでの道中って滅茶苦茶厳しかったはずなんだけど」
「お、おう……。まあ、ちょっとな」
なんでそんなとこまで行ってんだ馬鹿野郎とか、下手すりゃ死ぬんだぞいい加減にしろとか、言いたいことはあるけどやめといた。
「……助かったよ。今度こそ死ぬかと思った」
「店長は死なねーよ。俺が守る」
「なにカッコつけてんだ」
「うっせー、ちょっとはカッコつけさせろ。俺だって頑張ったんだよ」
「さんきゅ」
「おう」
拳と拳をコツンとぶつける。
ワールドチャットで放送部の山田さんが文化祭の終わりをつげ、ラインフォートレスにはいつまでも歓声が響き渡っていた。




