7章 7話
あいつの正式名称はカイザーキングエンペラー。直訳すると皇帝王帝王。何かしらの王であることが暴力的なまでに伝わってくるネーミングだけど、あいつ自身がどういう生き物なのかはよくわからない。2本の角とぶっといしっぽがある巨人のような獣のような何か、としか言いようが無い不思議なやつだ。
ふざけた名前だけどその力は確かだ。なんせ一周目の私たちはあいつを倒せなかったのだから。
「なんだよ……! なんなんだよあのバケモノは!」
「いくらなんでもデカすぎる! あれを倒せっていうのか!?」
「無理だこんなの! くそっ、俺は逃げるぞ!」
「逃げ場なんて無ぇよアホ! ちくしょう! やるしかねえんだよ!」
防壁部隊の皆さんは阿鼻叫喚してらっしゃった。わりとガチな方の阿鼻叫喚だ。
これはちょっとどうにかしないとなって思ってたら、ワールドチャットが流れる。
『えー、当学園の文化祭に大物ゲストがいらっしゃいました。それではこれより飛行部及び戦車部合同、歓迎パレードを開始します。砲撃部とバリスタ部の皆様は引き続き作戦を継続してくださいねー』
大物ゲストて。そりゃ確かにでかいけどさ。
城門が開き中からチャリオット部隊が再び出てくる。しかし今回はそれだけではなく、防壁を飛び越えて飛行従魔隊が続々と出撃した。
戦場の空を飛行従魔たちがまっすぐに舞う。敵の飛行能力持ちはストームシューターたちが殲滅済みだ。既にこの空は私たちの手の中にある。
王の上空に集まった飛行従魔は一斉に『爆撃おりがみ・鶴』を投下。『爆撃おりがみ』は空軍が持つほぼ唯一の攻撃手段なんだけど、1つ1つは大きなダメージを与えられない。
だから、量で補った。
「なんだあれ……。白いカーテン……?」
「まさか、あの白い奴全てが『爆撃おりがみ』だってのか!?」
「『爆撃おりがみ』って確か、最安値でも1スタック250kだったよな。まるで空から金が降っているようだ……」
値段を考えちゃダメです。お金で勝利を買えるなら安いもんなんですから。
空を埋め尽くすほどの『爆撃おりがみ』は王へと着弾すると、小さな炎を絶え間なく上げ続ける。防御を無視する固定ダメージの嵐は王の表皮を焼き削り、苦痛に顔を歪めた王は歩みを止めた。
足が止まったってことは、地震が収まったってことだ。様子見をしていたチャリオット部隊がここぞとばかりに接近し、アークメイジが大魔法を放つ。今度は『爆撃おりがみ』とは比較にならない規模の爆炎が上がった。
空からは白いカーテンが降り注ぎ、陸からはカラフルな大魔法が突き刺さる。歩くことすらできない王は、ゆっくりと膝をついた。
「あいつ、膝をついたぞ! 効いてる!」
「いけっ! このまま削りきれ!」
「勝てる! 勝てるぞ! あいつさえ倒せば勝てるんだ!」
「お前ら見てないで砲を動かせ! 周りにはまだ雑魚がいるんだよ!」
ただですね、そろそろだと思うんですよ。
『爆撃おりがみ』はガーネットを素材とするがゆえにですね、あまり数が作れないんです。王相手だからやむなしとはいえ、手加減無しで投下し続ければどうなるかと言いますとですね。
ある瞬間に、ピタッと白いカーテンが消えた。
「……は?」
「おい、おい! なんで爆撃をやめんだよ! あのまま押し切れば勝てんだろ!」
「ひょっとしてあいつら、弾切れか?」
そうなるよね。
空からの爆撃が無くなったことで王は再び動き出す。両手を地につけ、四脚で大地を踏みしめたその姿は獣のようだ。そして王は大きく息を吸って――。
『――やば。みんな、今すぐ耳を塞いで!』
吠えた。
凄まじい轟音が王から放たれる。質量を持った暴力が世界を揺らし、ラインフォートレス全域がビシビシときしむ。撒き散らされるのは破壊の力。世界を滅ぼす、激しき力。
ぐらぐらと揺れる視界を噛み殺し、歯を食いしばって立ち上がる。音が消えた今でも、電子の体には無いはずの心臓が嫌な音を立てる錯覚がした。
状況は一変していた。
防壁の上にある防衛兵器は軒並み破壊しつくされ、瓦礫の山が築かれている。防壁自体はまだそこにあるものの、あちこちにひびが入って今にも砕けそうだ。
そして王の立っている場所には巨大なクレーターができていた。その近くにはチャリオットの残骸が散乱し、飛行部と戦車部のプレヤーたちが倒れ伏す。
残り少なくなっていた怪物たちが王を残して全滅していたのは僥倖と言えるだろう。だけど、良いことなんてそれだけだ。
「なにが……、起こったんだ……?」
「お前ら、無事か!? まだ動ける者はいるか!」
「瓦礫の下に埋まって動けない。頼む、助けてくれ!」
防壁の上で瓦礫に埋まった奴らはまだいい。問題は戦車部と飛行部だ。
王に一番近い場所で轟音が直撃した彼らは、重度のスタンを受けてピクリとも動かない。死んではいないはずだ。いくら王とは言え、咆哮ひとつで命を散らすほどの力は無いと、そう信じたい。
だが、力なく倒れ伏したまま動かない彼らの姿は、最悪の想像をするにはあまりあった。
『――こちら生徒会っ! 戦車部、飛行部! 聞こえますか! 今すぐ起きて『帰還のロザリオ』を使用してください! 王が歩き始めます!』
リースの叫び声に気付かされる。
王が歩く。その先には、倒れ伏したプレイヤーたち。
『聞こえますか! 今すぐ退避を! そこは危険です、早くっ!』
リースが必死で叫ぶ。四脚のままゆっくりと王は歩を進め、地響きが鳴りわたる。彼らは動けず倒れ伏したままだ。
――いや、動いている人もいた。その数は4人。
「危険だからこそ楽しめる。ここが死線だ、踊るぞ」
「うるさい奴、殺す」
「リースさんよ。時間稼げってことでいいんだろ?」
「シャーリーのゾンビをまとめてふっ飛ばした借り、1000倍で返すですよ」
王の進路を阻むように、ヨミサカパーティは並び立つ。
『僕らも出るよ。切り札を切るにはいい頃合いだろう』
フライトハイトがそう宣言し、【帰宅部】が城門から出撃した。
彼らこそが私たちプレイヤーの最大戦力。最初の伏せ札にして最強の切り札。強大な敵を倒すことだけに特化した、人を越えたバケモノの集い。
攻略組が、王を阻む。
『――指令を出します。防衛部隊の方たちは、瓦礫に埋もれたプレイヤーの救助を最優先に。外に出られるプレイヤーがいましたら、『帰還のロザリオ』を持って飛行部と戦車部の皆さんを起こしに行ってください。攻略組の方は王の足止めをお願いします!』
『待って待ってリースさん、ここまで来てそれはあんまりじゃないかい? 攻略組じゃなくて採集委員会って呼んでおくれよ。ようやく僕らのステージが始まるのに、仲間はずれは御免こうむるね』
フライトハイトはニヤリと笑う。あいつもたまには良いこと言うじゃん。
勝負の世界は平常心を崩した方が大体負ける。私たちは戦争をしてるんじゃなくて、文化祭をしてるんだ。最後の最後まで楽しまなくちゃ。
『あーあー。申し訳ありません、機材の故障が発生しておりました。ダメですよー、生徒会長。これは僕の仕事なんですから。会長はドンと構えててもらわないと』
放送部の山田さんはいつもと変わらない声でアナウンスする。機材の故障て、山田さん気絶かなんかしてたのかな。大丈夫だろうか。
『それではただいまより文化祭のメインイベントを開始します! これがラストダンスです、フィナーレまで持ちこたえてください!』
山田さんがそう叫ぶと、攻略組――じゃなくて採集委員会は王に斬りかかった。




