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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
7章 行くぞお前ら祭りの時間だ
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7章 5話

 日の出と共に目が覚める。

 自分の寝室から一歩出ると、アトリエ内は死屍累々としていた。あの後そのまま雑魚寝と洒落こんだらしい。室内で寝ているならともかく、畑や牧場で寝ている奴らはどういうガッツしてるんだ。


 朝ごはんにあんパンジャムパンクリームパンをまとめて焼いていると、匂いに釣られたのか人がだんだん起き始めた。

 とりあえず人数分のパンを焼いて並べておく。セルフサービスだ、勝手に食ってけ。牛乳もあるよ。


「リース、おはよ」

「おはようございます。いよいよですね」


 リースは(私緊張してます)って顔をしていた。その顔をぐにぐにとまげる。


「やめてください」

「もーちょっと」

「怒りますよ」


 きゃっきゃきゃっきゃ。


「もう……。これから作戦の最終確認をしますので、生産ドームの方まで来てくださいね」

「はーい」


 そう言ってリースは困り顔で去っていった。緊張した顔よりはマシかな。


「店長、おはよう」

「おはよう銀太。よく寝れた?」

「ああ……。染みるほど寝た」

「なんだそりゃ」


 銀太はまだ眠そうな顔をしていた。その顔をぐにぐにとまげる。


「やめろよ」

「やめる」

「やめるのかよ」


 やめます。


「銀太は緊張してなさそうだね」

「ああ、俺がやることは何時も通りだしな。それより店長……、そのだな」

「ん?」

「そろそろ着替えたほうがいいんじゃないか」


 おっと。そういや寝間着のままだった。

 作業用エプロンとアーマードレスで迷って、アーマードレスの方に着替えた。今日は戦いだからね。


「えっへへー、似合うー?」

「クレオパトラと見間違えたわ」

「言うじゃん」


 お前はクレオパトラを見たことがあるのかと小一時間。

 それはさておき、いまだテーブルのど真ん中を占拠して爆睡するヨミサカを叩き起こす。


「起きろヨミサカー、朝だよー」

「……後2年」

「餓死しちまえ」

「無駄ですラストワン。こうなったヨミサカはゾンビで取り囲んでも起きないです」


 ヨミサカの鼻先にジャムパンをぶら下げる。ヨミサカは人間とは思えない挙動でジャムパンに食らいつき、眠りながら咀嚼した。


「とりあえず餓死の心配はなさそうだね」

「おいおい、そういう問題じゃないだろ」

「殺気で、叩き起こす」

「それしか無いかぁ。フライトハイト、手伝って」

「なんで僕が……」


 私、ジミコ、おっさん、シャーリー、フライトハイトの5人でヨミサカを取り囲む。5人のゲーマーによる殺意のエネルギーを受け、ヨミサカはスーパーでゴッドな感じに覚醒した。


「おはよ」

「……もう少し起こし方というものを考えろ」

「起きないほうが悪い」


 ヨミサカは(腹減った)って顔をしていた。こいつ昨夜あんだけ食っといてまだ食う気か。


「んじゃフライトハイト。生産ドームで作戦の最終確認するから、後でヨミサカ連れて来てね」

「だからなんで僕が……」

「パン食べたよね」

「それで餌付けしたつもりかい? そんなもので使われるほど安い僕じゃないけど、パンは美味しいからね」


 しっかり餌付けされていた。物分りのいい子は好きだよ。

 アトリエを抜けて生産ドームへ。あんまりリースを待たせるのもよくないから、先に行ってよう。



 *****



 作戦の最終確認も終わり、作戦開始時刻はまもなくだ。


『我が娘たちよ。いよいよ決戦の日が来ました。奈落の底より湧き出る、邪なる者どもからこの街を護るのです』


 朗々としたラグアの演説が頭の中に響き渡る。

 本当なら決戦前に女神から激励を受ける熱いシーンなんだろうけど、誰かが「ゲームの中でも校長演説って長いんだな……」って呟いたせいで色々台無しだった。


 色々と持って行かれてしまった大神殿のおっぱい姉ちゃんが帰ると、今度はリースが壇上へと引きずり出される。何か一言求められているようだけど、あからさまに困っていた。

 しばらく困った後、リースは意を決したようにメガホンを取り出す。

 そして大きく息を吸って、


『行くぞお前らーっ!』

「「「祭りの時間だっ!!」」」


 あちこちから歓声が上がり、街中が沸き上がる。不安そうな顔をするNPCたちに対して、プレイヤーのテンションは最高潮に達していた。

 プレイヤーたちがそれぞれの持場へと散っていくと、それに呼応したように地平線から異形たちが姿を見せる。ぽつぽつと湧いた黒い点はやがて地平を埋め尽くし、黒い波となって地表を蹂躙した。


「お客さんがおいでなすったぜ」

「出迎えならもう出しているさ」


 じわりじわりと這いよる黒い波が近づいた時、突然波の最前線から炎が上がった。

 燃え盛る炎は黒い波の最前線を包み込み、お客さんを迎え火で歓迎する。炎は密集した敵から敵へと燃え移り、敵の最前線は綺麗な炎に包まれた。

 トラップ部お手製火炎地雷原。開幕の狼煙が景気よく上がる。


「やったか!?」

「やってない」


 やってません。

 燃え盛る炎は次から次へと敵を焼いていくが、しばらくすると炎の中からピンピンした敵が飛び出してくる。ダメージはあるだろうがこれだけじゃ決め手にならない。怪物の表皮を焦がしただけだ。


「敵が地雷原を突破したぞ!」

「じゃあ次は歓迎のパレードだな。そろそろ始まるんじゃないか?」

『ただいまより、戦車部によるパレードを行います。戦車部の皆様はくれぐれも気をつけて、事故の無いようデモンストレーション走行を行ってくださーい』


 放送部の山田さんが合図をすると、城門が開け放たれて中からチャリオットが続々と出撃した。2体の従魔に牽かれる鉄輪の戦車は草原を駆け抜け、黒い波にある程度近づいたところで止まる。

 チャリオットに乗っているのはアークメイジの皆さんだ。事前に詠唱していた大魔法が放たれると、怪物たちは派手にぶっ飛んだ。


「さすがのアークメイジだな。ガラスの大砲の名は伊達じゃない」

「連中確かに火力は凄まじいんだが、詠唱時間の長さと耐久の薄さがネックなんだよなぁ」


 それを補うためのチャリオットなんですよ。

 大魔法を受けた怪物は死んだものの、その後ろには怪物たちがピンピンしている。チャリオットに向かって怪物が殺到し、反転したチャリオットが逃げ出す。チェイスだ。

 怪物との距離を保ちながらチャリオットが走り、その上でアークメイジが詠唱する。詠唱が終わり次第放たれた大魔法がどかーんばごーんと敵を吹っ飛ばす。


「古代兵器チャリオットによる魔法野戦戦法……。自分で言っててわけがわからん」

「チャリオットって正直ただのロマンだと思ったけど、すげーなこれ」


 火力に機動力をかけるとヤバイね。

 戦車部によるパレードは多くの敵を屠ったが、敵の数はそれこそ膨大だ。黒い波は途切れること無くどこまでも続く。


『以上を持ちまして歓迎パレードを終了いたします。戦車部の皆さんは速やかに帰還してくださーい』


 放送部の山田さんが野戦終了の合図を出すと、戦車部の皆さんが帰還を始めた。途中で一台のチャリオットの車輪が石に挟まって破損するというハプニングがあったけど、全長2メートルのネコ型従魔が投げ出されたプレイヤーを引きずって城門まで帰ってきた。問題なし。

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