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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
6章 MMOと書いてPay to Winと読む
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6章 5話

「あの中に飛び込めるのは、さすがに君たち以外だと僕しか居ないかなぁ」


 フライトハイトが苦笑いしながら、大鎌を引きずって近寄ってくる。しょうがないからスコップを出してあげると、「邪魔するよ」と言ってスコップの上に乗ってきた。


「お客さん、どちらまで?」

「地獄の底までお願いするよ」

「後で運賃請求する、から、ねっ!」


 【大薙一閃】でフライトハイトを射出する。ちょっと強めにぶっ放したのに、フライトハイトは空中で綺麗に体勢を整えて大鎌を振るう。【クリーブ】、【ブラッドダンス】、【ソウルリーバー】とコンボを決めながら着地。ご丁寧に全てクリティカルを発生させるあたり、実力だけは確かだ。

 大自然のクリスタルはヨミサカ・おっさん・フライトハイトの3人と、無数のゾンビたちに集られて、もう姿も見えない。ジミコがゾンビの間を縫って【スナイプショット】を当てているが、その無表情からは(ゾンビ邪魔)って感情がひしひしと伝わってきていた。


 しばらくボコボコにされていた大自然のクリスタルだが、やがてダウンから復帰してゾンビたちを振り払いながら高空へと舞い上がる。そしてすぐさまその場で回転をする。

 色は――白。聖属性。


「っ! まずい、退いてっ!」


 一周目の時より聖属性魔法を出してくるのが早い。

 大自然のクリスタルは更に回転速度を上げ、周囲から白い光が集約していく。妨害のためにジミコが矢を放つが、ダメだ、弱点の闇属性攻撃じゃないと止められない。

 そして――、光が放たれる。


「――っ」


 おおよそ10秒間。天空から照射されたレーザーが広場を覆う。

 攻撃範囲はエリア全域。無敵時間で抜けることもできない。防御無視の貫通攻撃だ、これを耐えるなら体力を上げなきゃいけない。

 私の体力だと2秒も耐えられない。発動した時点で死が決まる。


「――っ、おいお前ら! 無事か!」

「大丈夫だ。こっちは問題ない」

「シャーリーの! シャーリーの死軍が! ゾンビたちがっ!」

「……痛かった」


 みんなは無事のようだ。ついでに邪魔なゾンビもいなくなった。良かった良かった。


「サモン――」


 レーザーをやり過ごすために召喚した肉盾を手元に呼び戻す。

 全長1.8m。メタリックなボディから真っすぐ伸びる、2本の角がイカしたアイツ。

 工芸と錬金術の粋を注ぎ込んだ虫型ロボット。搭乗するのは神々の祝福を受けた北方の英雄。

 何度も死線をくぐり、数多の試練を乗り越えて、それでも必ず蘇る。私の最強の下僕にしてアトリエの守護神。

 その名は――。


「昆虫兵器『ヘラクレス』ッ!」


 ヘラクレスオオカブトムシです。

 工芸で作ったヘラクレス型ロボットを、錬金術で生み出したホムンクルスに操作させる試作兵器だ。ホムンクルスには自己判断能力は無いが、そこはヘラクレスオオカブトムシをコックピットに載せたことで補ってくれるだろう。多分。


「なぁ……。アイツ、本当に俺たちと同じゲームやってんだよな?」

「ファンタジー系MMOだと思ってたらロボット兵器が出てきてもうわけわかめ」

「あの生産職が色々持っていきすぎてて攻略組やめたい」

「おい落ちつけ気を確かに持て。あれを生産職だと思うな、あれは邪神だ」

「崇めたい」


 っていうか遊んでる場合じゃないんだ。白になった大自然のクリスタルは本気でヤバイ。

 白く輝く大自然のクリスタルは、動きを止めてその場で回転し続ける。その回転速度は次第に上がっていき、そして天空から光が見えた。


「第二射、来るぞ!」


 誰かが叫ぶやいなや、レーザーが降り注いだ。

 この先大自然のクリスタルは延々と全域回避不可のレーザーを放ち続ける。おまけに発動間隔は徐々に短くなっていき、最終的には絶え間なくレーザーが振り続けることになる。

 私たちが削り切られるのが先か、あいつを倒すのが先か。ここが死線だ。


 『暗黒のスタチュー』を設置し、闇属性のエンチャントをばらまく。すぐに無数の遠距離攻撃が大自然のクリスタルに殺到して、高度はじわじわ下がっていった。

 それでも――、第三射の方が早い。

 第三射も『ヘラクレス』でやり過ごすが、『ヘラクレス』からビキリと嫌な音が聞こえた。突貫で作ったのが祟ったか、長くは持ちそうにない。


「ラストワン! あそこまで打ち上げられるか!」

「私のステータスじゃあの高度までは上げられない! せめてもう少し高度が下がれば――」

「そうか。だったら――」


 すっとヨミサカが巨剣を寝かせ、おっさんがその上に私をセットする。

 …………へ?


「行って来いっ!」


 ヨミサカが【大薙一閃】のスキルを発動し、私を打ち上げた。


「うっそおおおおおっ!?」

「やれっ! やってこいっ!」

「~~~~~っ! わかったっ! 撃ち落とすから下で待ってて!」


 ものすごい勢いですっ飛ばされ、真っ直ぐに高い空へと上がっていく。地上は一瞬で遠ざかり大自然のクリスタルまであと少しのところまで来たが、まだ足りない。


「――『ヘラクレス』っ!」


 『ヘラクレス』を呼び背に掴ませる。羽を広げた『ヘラクレス』が私を持ち上げて空へ舞い、大自然のクリスタルへと肉薄する。

 ただ止まって回転し続けるなんて隙だらけだ。インベントリからありったけの『爆撃おりがみ』を取り出し、全てクラフトウィンドウに突っ込んで自動クラフト。


「MMOと書いて――」


 出来上がった大量の『爆撃おりがみ・鶴』が宙を舞う。落下する折り鶴は敵に触れると爆発し、無数の爆炎がクリスタルを包む。

 闇属性追加ダメージを乗せた固定ダメージの乱舞だ。物理防御なんて関係ない。

 総額2.5mの攻撃だ。全部持ってけ、結晶野郎。


「Pay to Winと読むんだよっ!」


 爆炎の中、ツルハシを取り出して大自然のクリスタルに突き立てる。ガツッと音がしてクリスタルが砕け、次の瞬間クリスタルが激しい光を放って爆発した。

 ――っ。


 至近距離で光の直撃を受け、息が詰まるような衝撃を受ける。光の中目がくらみ、『魂呼の花飾』が砕ける音がした。

 くっそ、油断した。鉱物相手に固定ダメージを通せるからってツルハシを使ったのが裏目に出た。チャージ中にツルハシで掘ると爆発するとか知らないよ……!

 視界が無い中ふっ飛ばされ、真っ逆さまに落ちていく。


「『ヘラクレス』! まだ飛べる!?」


 声をかけてみると、私の背中にしがみついた『ヘラクレス』が気合で飛んでくれた。たださすがに限界だったのか、足の一本がボキッと壊れる音がして、その間から私の体がすり抜けた。


「んなっ」


 高空から真っ逆さまに落ちていく。どうにかできないかとアイテムインベントリを開くけど、盲目の状態異常のせいで何も見えない。

 あ、これあかんやつだ。


(『魂呼の花飾』の1分間無敵は、落下ダメージに効果あるのか……!? いや、落下ダメージってのは普通のダメージと処理が違うから無敵は通用しなかったはず。ヤバイこれひょっとして詰んだ!?)


 せめて盲目が切れれば――、いや、『魂呼の花飾』の副作用で全ての回復は無効化されている。自動回復も乗らないんじゃどうしようもない。

 くっそ……。


「詰めが甘いぜ、店長」


 さすがに死んだかとか思ってたら、誰かが落下する私を受け止めた。そのままぐるんと回転して勢いを逃し、草地に綺麗に着地させてくれる。


「――っ、ありがとう。誰だかわかんないけど助かったよ」


 盲目のせいで顔は見えないけどお礼を言っておく。返事は無かった。

 とりあえず音で戦闘地域を割り出し、そこから離れるように移動する。


「ラストワン。こっち」

「その声はジミコ? 戦況は?」

「クリスタルは落下。今ボコってる」

「なるほど、そっか……。上手く行ったか」


 草地に座り込んで『ヘラクレス』を呼び、インベントリの中にしまう。よしよし、お前も頑張ってくれたね。


「あーもー。死ぬかと思った」

「まだ終わってない」

「2回目の落下だし、もうすぐ終わらない?」

「? ……あ、終わった」


 遠くから結晶が砕ける音が聞こえた。どうやら誰かが止めを刺したようだ。

 決着のシーンが盲目で見えないって、実況解説としてどうなんですかね。放送事故ですかね。

 なんだか締まらないけど、まぁいいや。こんな感じで終わりです。以上、実況解説のラストワンでした。

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