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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
6章 MMOと書いてPay to Winと読む
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6章 3話

 白に染まった視界が色彩を取り戻し、目を開くとそこは世界樹の森。転移が完了するやいなや3つの殺気を感じた。

 遥か彼方から飛んできた6本の矢を最小の動きで回避し、真後ろにいる暗殺者を蹴り飛ばす。即座に双の剣を抜いて、正面から振り下ろされた巨剣を逸らした。


「3人がかりとは卑怯な」

「来たか、ラストワン」

「……また避けられた」


 文句を言ってみた。効果は無いようだ。

 まあいいけどさ。


ヨミサカとジミコバカセットはともかく、なんでおっさんまで斬りかかってきてんの」

「パフォーマンスだよパフォーマンス。お前は気にすんな」

「苦労人め」

「言わんどくれ」


 おっさんがちょいちょいと指差すほうには、私と面識の無い攻略組の人たちがこっちを見ていた。

 まあうん、いきなりレベル1が攻略組に交じるには、これくらいのパフォーマンスも必要なんかな。別に文句言われたって気にしないけど。


「おっさん、そいつ誰です?」


 ちょっと離れたところで私をじろじろと観察するプレイヤーが1人。

 懐かしい顔だ。布装備のローブを風になびかせ、髑髏のついた杖を大事に抱えている。


「ああ、こいつはラストワン。俺たちのパーティの最後の1人だ」

「今日限定が抜けてるよ、おっさん」

「……だ、そうだ。今日限定パーティメンバーのラストワンだ。これでいいか?」

「おっさん。そいつ、強いんです?」

「試したらどうだ?」


 おっさんが促すと、彼女は間髪入れずに殺気を放ってきた。殺気には殺気で返事をする。

 殺気には慣れてるんだけど、とりわけ彼女の殺気は異質だ。『どうやったらこの人は死ぬか』を脳内で何度もシミュレートされてるような、背筋に冷水を流し込まれる感覚がする。

 居心地悪い視線を真正面から見据えつつ、殺気の応酬をすること数秒。


「シャーリーです。よろしくです」

「うん、よろしく」


 お互い殺気を引っ込めて、普通に挨拶した。

 この子はシャーリー。死軍のシャーリー。世界征服をたくらむ悪のネクロマンサー(自称)だ。一周目の時はヨミサカパーティ総出での協力の下、実際に世界征服を達成した。その後フライトハイト率いる【帰宅部】がキレて世界征服は終わった。

 ヨミサカパーティの中では唯一バトルジャンキーでは無いが、行動のぶっ飛びっぷりは他のメンバーに引けをとらない。シミュレーションゲームで鍛えた物量戦法を駆使して、無数のゾンビを召喚してMAPまるごと押しつぶすのが趣味な人。


「足引っ張らないならシャーリーは文句無いです。迷惑かけるなら殺すです」

「足の引っ張り方を教えてもらえたら善処できるかもよ」

「そんだけ言える口があるなら上等です。死んでもシャーリーのゾンビに加えてやるから安心するです」


 安心できない。なんだそのヤンデレみたいなの。

 苦笑いで返しとくと、おっさんが割って入った。


「挨拶は済んだみたいだな。開戦までまだ時間がある。5人パーティの連携を確認しとかないか?」

「確認など必要ない。各自好きにやれ、どうにかしてやる」

「……別に。興味ない」

「シャーリーはゾンビ出すだけです。連携なんて知ったこっちゃないです。お前らが私に合わせろです」

「あ、私は特殊な立ち回りになるから。連携が必要な時はこっちで合わせるから、気にしなくていいよ」

「お前らなぁ……。まあいい、やれるってならしっかりやれよ?」


 相変わらず統制の無いやつらだ。私含めてだけど。

 頑張れおっさん。負けるなおっさん。


 その後はヨミサカ・ジミコ・私の3人で模擬戦しつつ時間を潰す。レベル差を考慮して一撃決着ワンショットルールにしてもらったのに、勝率はやや悪い。

 実戦経験なら私のほうが長いはずなのに。腕のサビつきが大分キてる。ちっくしょー……。


 ヨミサカ相手に切り結び、【斬空裂波斬】二刀打ちをモーションキャンセルして【グランドインパクト】空中発動に繋げる。ヨミサカの巨剣による【大薙一閃】の威力を相殺することには成功したが、続く拳銃の抜き打ちを無理矢理かわしたせいで大きく隙が出来てしまった。

 そこに手刀を刺し込まれる。そのままやられるのも癪だから、伸びるヨミサカの手に噛みついた。


「……これ、どっちの勝ち?」

「微妙なとこだな。致命傷をいれられるのはヨミサカだが、先に噛みついたのはラストワンだ。そもそも噛みつきって攻撃に数えていいのか?」

「超高速戦闘の決まり手が噛みつきなんてダサすぎです。シャーリーはドローを具申します」


 外野の判断によりドローになった。惜しい、ここで勝ってれば勝率50%に戻せたのに。

 ぱち、ぱち、ぱちと拍手が聞こえる。目を向けてみると、フライトハイトがにこやかに笑いながら手を叩いていた。


「やあやあ、そこまでにしてもらえるかな。あんまり君らの曲芸を見せられると士気が下がるんだ」

「曲芸とはご挨拶じゃん。何しに来たのさフライトハイト」

「うちのギルドメンバーからの報告があってね。なんでも攻略組にレベル1の生産職が混じってるそうじゃないか。それこそ何しに来たんだよって感じだよね」

「まったくもって同感だから帰っていい?」

「……そう来るとは思わなかったな」


 フライトハイトは困ったように考えるそぶりをみせる。よし、先制点ゲット。


「ヨミサカが君を連れてきたって言うなら、僕から言うことは無いね。今は、だけどね」

「言いたいことがあるなら素直に言いなよ。あんたは恋する男子中学生か」

「……戦場に立つからには、それ相応の働きをしてもらおう。できないってなら今すぐ帰れ」

「上等。そういう分かりやすいのは嫌いじゃないんだ」


 私は好戦的に、フライトハイトは挑発的に笑った。そして一瞬だけ距離を詰め、私にだけ聞こえる声量でささやく。


「って言うのが攻略組の大多数の意見。僕個人は君に期待してるからね。ようやく重い腰を上げて前線に出てきたからには、当然MVPくらいは取れるんだろう?」

「……やっぱお前嫌い」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 舌打ちを返すと、フライトハイトは笑みを深めて去っていく。

 そろそろ集合時間だ。フライトハイトの指揮の下攻略組が集まり、ブリーフィングが始まる。

 ブリーフィングなんて一周目の時に聞いたし、適当に聴き逃しながら荷物を整理する。忘れ物はない。準備はできている。

 それじゃあ、ボス戦をはじめよう。

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