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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
6章 MMOと書いてPay to Winと読む
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6章 1話

 ふんふんと鼻歌を歌いながら今日もクラフトに勤しむ。

 最近は工芸のスキル上げも兼ねて、色々と細かいアイテムを作るのが趣味だ。工芸で作れるアイテムは幅広い。大体どれも宝石を要求してくるのが玉に瑕だけど。


「というわけで色々作ってみました。サモンじいさん」

「わしを召喚するでない。なんなんじゃもう」

「アイテム解説係っていったらじいさんじゃん? お約束じゃん?」

「お嬢ちゃん、実はただ話し相手が欲しいだけじゃろう」


 そこに気づくとはなかなかやるな。いいじゃんいいじゃん。1人で作ったアイテム並べて悦に浸っても楽しくないもん。


「まずはこの品、『退魔のトーテム』。これは設置すればトーテムから発せられる退魔の力により、周囲一帯に敵が寄り付かなくなるアイテムだよ」

「うむ。半径8メートルに擬似的なセーフティゾーンを作り出すアイテムじゃな」

「なんでわざわざフレーバーよりの解説してるのに、そういうメタっぽいこと言うかなぁ。じいさん本当にNPC?」

「そんなこと言われてもわしじいさんじゃし」


 ジジイがボケた。まあいいや、次行こう。


「じゃあ次これ、『束縛スイッチ』。これは自由と束縛の神ラグアの力をちょっと借りた品だよ。じいさん、押してみ」

「ほ? それじゃあ押すぞい」


 スイッチを押したじいさんは、全身を強力な電撃に貫かれてスタンした。

 よしよし、無事に動作するようだ。動作テスト合格っと。


「というわけで、スイッチを押した相手をスタンさせるアイテムだよ。スイッチがあるとついつい押したくなる心理を巧妙に利用したトラップアイテムだね」

「わしで……試すでない……」

「まあまあ、電流マッサージみたいなもんだって。肩こりとか治ったっしょ?」

「いやむしろ全身に痺れが残ってるんじゃが」

「続きましてー」

「無視しおったぞこやつ」


 次のアイテムはお気に入りだ。ぺらりと紙を一枚取り出す。


「これこれ、『爆撃おりがみ』。100枚1セットだよ」

「もう名前からしてやばい感じしかしないんじゃが」

「お、爺さん勘いいねぇ。これはさすがにじいさんで試すわけにも行かないから、ちょっと待ってて」


 おりがみをペリペリ折って、紙飛行機を作る。

 「行くよー」と声をかけて、シュッと投げる。そこそこのスピードで世界樹にヒュカッと突き刺さった紙飛行機は、ぼふんと小さな爆発を起こした。


「って感じで、爆発するおりがみだよ。爆発条件は折り方で指定できるのも便利だね」

「ふむ。紙飛行機は何かにぶつかれば爆発するようじゃが、たとえば折り鶴なんかじゃとどうなるんじゃ?」

「ふんわり投げて、地面に着地した時に爆発する。兜みたいに平べったいタイプは地雷だね」

「なるほど。で、威力の方はどうなんじゃ?」

「だいぶ物足りない」

「まあ紙じゃからな」


 しょうがないね。でも貴重な攻撃アイテムなんだぞ。使い勝手も良いし。


「それじゃあ最後にこれ、『ポータブル太陽』。持ち運びできる小型太陽だよ!」

「それでは何もわからんじゃろう。『ポータブル太陽』は決して消えない照明じゃの。水に沈めようが酸素が無かろうが、たゆまぬ光を放ち続けるアイテムじゃ」

「このゲーム、ダンジョンクロールに照明が必要とかそういう要素無いから、本当にただの明るい玉なんだよね。でもそれじゃあ面白く無いからちょっと改造しました」

「ほほう、どうしたんじゃ?」


 『ポータブル太陽』にノミをぶっさし、小さな穴を作る。すると『ポータブル太陽』の中から激しく輝く光が漏れだし、数秒後に私の掌で爆発して猛烈なフラッシュがバンした。

 もちろん私はサングラス着用済み。オーケー。


「っていう感じです。敵味方問わず視界を奪う楽しいアイテムだよ」

「目があああ! わしの目があああああ!」

「大げさだなぁじいさんは。ほい『アムリタ』」

「ふぅ……。老人をあまりいたぶらないでくれ、お嬢ちゃん」


 盲目も状態異常だから『アムリタ』飲めば治る。相変わらず『アムリタ』の体力回復&リジェネ&状態異常回復は便利だ。やばかったらこれ飲んどけばなんとかなる。


「ところでお嬢ちゃん、ここまで紹介してきたアイテムなんじゃが、値段はいくらになるんじゃ?」

「『退魔のトーテム』が150k、『束縛スイッチ』が500kだね。『爆撃おりがみ』は100枚1組で250k、『ポータブル太陽』は350kかな。出血大サービスに職連割引もつけてなんとこのお値段!」


 そこまで言うと、ちらほらとついていたギャラリーがさーっと居なくなっていった。

 ……そうだよね。高いよね。消耗品にこの値段はかけられないよね。最近は『アムリタ』一本300ゴールドで買えちゃう時代だもんね。


「高いの」

「これでも業界最安値なんだけどなぁ。どれも宝石を使うから、高くなっちゃうのはしょうがない」


 一応工芸製品を陳列棚の片隅に並べておく。デモンストレーション効果でちょっとは売れるかと思ったけど、まったく売れなかった。

 ふっ。こんなもんですよ。ちなみに『帰還のロザリオ』は今日も即完売の入荷待ちです。どうしてここまで差がついた。

 敗北感を噛み締めながら後片付けをしていると、じいさんは「じゃ、わしは釣りしてくるの」と言って去っていった。釣りキチじじいめ。手伝ってくれたっていいじゃん。


 やっぱりこんなオモチャ作るよりも、ロザリオをもっと供給するのが私の仕事だよなぁ。でも手持ちのサファイアはもう使い切っちゃったし、勝手に採掘しに行くとリースに怒られる。

 中堅プレイヤーは上位層が最近ようやく烈火山洞窟・上層に差し掛かったあたりだ。もうちょっとしたら中堅プレイヤーを護衛に雇って採掘しに行けるようになる。それならリースも怒らないでくれるはずだ。


 いやもういっそ、怒られるの覚悟で行っちゃおうかな。でも昨日銀太と一緒にこっそり採掘しに行った時は、怒るを通り越して泣かれちゃったからなぁ。いつもみたいに怒られるだけならともかく、「どうしてラストワンさん死ぬんですかああああ」って支離滅裂に泣かれるのは色々心に来るものがあった。


(いや待てよ。サファイアを入手しつつリースちゃん泣かせられるのなら2倍美味しいのでは……?)


 そんなことを考えた瞬間、ギルドチャットがぴろんと通知を知らせた。リースからのメッセージはただ一言、


『見てますよ』


 …………。

 リースさんに逆らうのはやめとこう。今日のところは。



 *****



 畑の世話をしていると、『世界樹の果実』がなっているのを見つけた。


「イベント限定じゃないのかお前」


 てっきりリグリの依頼限定で実をつけるものかと思ったけど、ちゃんと世話したら実をつけてくれるようだ。こりゃラッキー。

 収穫してすぐにアトリエに戻る。


『待ちなさい』


 魔王からは以下略。


「お久しぶりですリグリ様。ご機嫌いかが?」

『人間風情に機嫌を伺われたくないわよ。でもまあ、悪くはないと言っておこうかしら』


 さいですか。

 依頼を達成してから、最近めっきりと出てこなくなったリグリ様だ。久しぶりの出会いに胸が高鳴る。動悸的な意味で。


『人間。最近は随分と羽振りがいいみたいね』


 げ。まずい。

 リグリはアーキリスと仲が悪く、人間社会や金銭の類なんかも嫌いだ。私がアーキリスの領域である、生産を使って荒稼ぎしたから釘を刺しに来たのか。


「渡世を送る術ですよ。人の身を護るためなら時に金銭は大いに役に立ちます」

『ふん。人間なんてどうでもいいじゃない。放っといても勝手に死ぬわ』

「まあまあ、そう仰らないで。私たちも生きるために必死なんですから」

『そうね……。いいわ、命に貴賤は無いもの。人間がそれを忘れないというなら、私はどうこう言わないでおいてあげる』


 おや?

 リグリちゃんクレームつけにきたんじゃないの? どういうことだ?


『忠告よ。人間が門にたどり着こうとしている。門を開けてはならないわ』

「門、ですか……」

『門の先にあるのは悪鬼はびこる荒涼の大地よ。魑魅魍魎をこっちの世界に持ち込みたくないのなら、人間は門の先まで行ってはならない』


 その言葉には覚えがあった。

 一周目の時、私たちは門を開いて世界を越えた。その結果起こったイベントと、その顛末は忘れられるはずもない。


「リグリ様、人は門を開けますよ。その先にしか未来が無いというのなら、人は決して立ち止まりません」

『ラグアみたいなことを言うのね。その結果、大きな犠牲を払うことになったとしても?』

「そうはなりませんよ。そのために私がいます」

『あら、あなたがいれば人間は死なないとでも言いたげね』


 否定もせず、肯定もしない。少しでも犠牲を減らすための術は重ねてきた。それが答えだ。


『面白くないわ』

「面目ないです」

『人間が門を開くことで、この世界に生きる全ての生き物が損害を被ることになる。豊穣の神として極めて不愉快だわ』

「それは……」

『でもね、向こうの世界とこっちの世界が繋がることで、滅びは等しく与えられるでしょう。荒廃の神としてこれほど喜ばしいことはないわね』


 これは……、ツンか? デレか?

 私のミルラ神話技能を持ってしてもリグリの心の中は読めない。


『覚えておきなさい。豊穣も、荒廃も、全て同じことよ。万物は流転しあるがままの姿に帰るの。あなたたちの運命、豊穣と荒廃の神リグリが見届けてあげる』

「……ありがとうございます」

『ふん。勘違いしないで、手を貸すとは言ってないわ』


 デレだな。間違いない。

 少なくともこれで、リグリが敵に回ることはなさそうだ。一周目の時はリグリは敵方についていたけど、今回は中立の立場を守ってくれるようだ。神格の一柱と敵対せずに済んだ。この差は大きい。

 変わっている。一周目の時と、確かに変わっている。その手応えを感じて、じわりと手に力が入った。


『そうね。向こうの世界に来れるんだったら、私の神殿まで足を運びなさい。来れるもんならね』

「いつの日か必ず伺わせていただきますよ」

『待ってるわ』


 そう言ってリグリは消えていく。サンキューゴッド。フォーエバーリグリ。


「さて」


 そろそろ本番が始まるのか。

 私たちのデスゲーム攻略、その本番が。

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