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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
5章 ボイチャと姫プは火事の元
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5章 5話

 セーフティゾーンに転がり込んで、2人して草地に身を投げ出す。空が青い。


「すげぇ……。生きてるよ、俺……」

「はー、つっかれた。生きててよかった」


 すぅと目を閉じる。いやぁ、久々の死線だった。甘い痺れのような余韻がまだ残っている。

 あわや死ぬかと思ったけど、それはそれだ。勝負ってのは命がけなくらいが一番面白い。


「ありがとな。お前のおかげで今日も生きて帰れそうだ」

「こっちこそ助かったよ。君が割り込んでこなかったら、あそこで死んでた」

「あれはそもそも、俺がミスったせいで――」

「まあいいっしょ。無事だったんだし」

「……そうだな。無事でよかった」


 そういえば先に逃げた2人はどうなったんだろうかと、体を起こす。セーフティゾーンには私たちしかいなかった。


「先に逃げた人は? 君のパーティ?」

「いや、知らん人たち。襲われてたから俺が助けに入った」

「なるほど。そこに更に私が助けに入ったわけだ」

「3連鎖ってことだな。もうちょっと粘ってたらもう1人来たかもな」

「落ち物ゲーじゃないんだから」


 ってことはこの人、ソロで活動してんのかな。このレベル帯でもソロプレイとは奇特な人もいるもんだ。


「ねえ君、ソロなの? この辺でソロって危なくない?」

「そのままそっくり返すわ。ソロは危ないからパーティ組めって」

「いやまぁ、それはそうなんだけどね」

「なんだ? お前も事情持ちか?」

「そんな感じ」


 銀髪のプレイヤーにフレンド登録を飛ばすと、すぐに承認された。


「銀太って言うんだ。見たまんまじゃん」

「ラストワン……? この名前、どっかで聞いたぞ……。ひょっとしてアトリエの邪神か?」

「ああん? もっぺん言ってみろ、生爪剥いで煎じて飲ますぞ」

「ごめんなさい許してください」


 許しましょう。私は心が広いのだ。六畳間くらいはある。


「にしても、なんで引きこもりの第一人者がこんなとこまで1人で来てんだよ……。しかも超つえーし」

「いやまぁ、色々訳ありで」


 引きこもりの第一人者て。ひどい呼び名もあったもんだ。

 銀太に『挑戦者のアミュレット』の効果を表示する。


「なんだこれ――、なんだこりゃ!? レベル差でレアドロップ率が上昇するって、お前まさか!?」

「ちなみに私のレベルは1です。変身も残してないです」

「おいおい……。店長がとんでもない命知らずの馬鹿だってことはよーく分かった。いくらなんでもこんなとこまで来るかぁ?」

「失礼な」


 命知らずの冒険野郎ラストワンだよ、よろしくね。

 よし、スタミナは回復した。起き上がる。


「お、帰るのか?」

「いんや、進むの。目的地はまだ先だし」

「店長、あんたどこまで行く気だよ……」

「そりゃもちろん、どこまでも」

「夢は大きく進めや若人、ってとこだな。よし乗った、俺も行こう」

「……来るの? 危ないよ?」

「1人より2人だ。だろ?」

「死なばもろともにならなきゃいいけど」

「縁起でもないこと言うなよ」


 銀太からパーティのお誘いが届いた。迷ったけど承諾することにした。

 死なないでよと念押しすると、死なねーよと帰ってきた。本人がそう言うからには大丈夫なんだろうきっと。



 *****



 中略。


「し、死ぬ……。これ以上は、マジで、死ぬって……。頼むから帰ろうぜ、店長……!」

「いやいや、何言ってんのさ。そろそろ目的地なんだから。ほらほら頑張れ頑張れ」

「なんであんだけ怖い目にあって平気なんだよ!?」


 死線くぐった。私は6回、銀太は9回死にかけた。このゲームまじ楽しい。

 銀太くんてばヘタレだなぁ。これくらいのデッドライン、鼻歌交じりでくぐり抜けなきゃ攻略組にはなれないよ。


「おかしい……、絶対何かがおかしい……。俺は店長をただの引きこもり生産職、もしくは飛び抜けた馬鹿だと思っていた。だがこの底知れない恐怖は何だ……? こいつは攻略組に匹敵する――、いや、攻略組すらも恐れおののくレベルのとんでもない変態だ。おお神よ、俺はパンドラの箱を開けてしまったのだ……!」

「ものすごく念入りに馬鹿にされてる気がする」

「真面目な話、店長何者よ? それだけ変態じみたPSと胆力持つプレイヤー、攻略組の上位層にもなかなか居ないぜ?」

「女の子は秘密を着飾って美しくなるのよ」

「キャラじゃないっすよ先輩」

「うるさいな」


 おのれ言いおって。私だって本気出せばなぁ……。

 いやうんやめとこう。ボイチャと姫プは火事の元だ、触って幸せになれる話題じゃない。ただそれとは別で、ムカつくものはムカつく。


「それよりほら、ついたよ」

「やっとか……」


 到着したのは烈火山洞窟・下層。46レベルのMAPだ。

 最初は32レベルMAPの水晶のほら穴くらいで手を打とうと思ってたけど、銀太という戦力が手に入ったから欲張ってここまで来てみた。行けるタイミングなら行くとこまで行くスタイル。

 とりあえずセーフティゾーンまで滑り込み、転移石に手を触れてワープゲートを開通する。これで今後は楽に来れるようになった。


「で、ここで何するんだ?」

「んーと、ちょっと待って」


 『挑戦者のアミュレット』によるレアドロップ率補正は1012%。細かい計算式は省くけど、本来なら5%でしか入手できないアイテムのドロップ率が55.6%の確率にまで跳ね上がる倍率だ。

 インベントリからツルハシを取り出し、手近な鉱脈を叩く。オブジェクトが軽くえぐれ、『宝石の原石』を1つ入手した。


「さっすが『挑戦者のアミュレット』。これこれ、これが欲しかったんだよ」

「『宝石の原石』……? 宝石を掘りに来たのか?」

「うん。『宝石の原石』は鉱脈を掘った時に低確率で入手できるんだ。一番確率が高い烈火山洞窟・下層でも5%でしか手に入らない貴重品」

「だからってこんなとこまで来るかぁ……? 烈火山洞窟っつったら今の最前線じゃねぇか」


 実はそれも計算の内なんですよ。

 烈火山洞窟付近のMAPはかなりの激戦地だ。おそらく正面から行ったら、いくらポーションでスニーキングミッションしても道中で殺される。だけど攻略組がこのエリアに滞在している今なら、道中に沸いた敵は攻略組が処理してくれるおかげで比較的安全に抜けられるって寸法です。

 それでも2人合わせて15回死にかけたわけだけど。


「まあでも、一度ここまで来ちゃえば後は楽だからね。このMAPはどこもかしこも鉱脈だらけだ。セーフティゾーンからそう離れなくても、好きなだけ掘りまくれる」

「そりゃそうだけどよぉ。ワンミスしたら死ぬんだぜ、気をつけろよ」

「大丈夫だいじょ――」


 何かを感じてすっと飛び退った瞬間、岩盤をぶち抜いて赤色ワームが飛びかかってきた。避けきれないと判断して【インパクトスイング】のカウンターで怯ませ、その隙に銀太が私の襟を掴んでセーフティゾーンに放り込む。ターゲットを見失った赤色ワームはすごすごと去っていった。


「おい。今の、下手すりゃ死んでたろ」

「スリル満点だよね」

「やめてくれよマジで……」


 最近刺激が足りなかったからね。私いま、楽しくてしょうがない。


「ったく……。危なっかしくて目が離せんわ」

「世話になるよ、かーちゃん」

「せめてとーちゃんと呼べ」

「それでいいのか銀太」


 時々モンスターの奇襲にあいつつ、命がけで採掘する。リスクの分だけあってリターンも半端ない。2時間も掘り続ければ、バックパックには『宝石の原石』が山と積まれていた。



 *****



「たっだいまー」


 満足行くまで採掘して、アトリエに帰ってきた。あたりはもうすっかり暗くなっている。


「生きて……、帰ってこれた……! うおお、うおおおおおおおん!」

「大げさだなぁ銀太は――ちょちょちょ、泣くなっての。あーもう」

「いっぐ……、ひっぐ……。生きててよかったよぉ……」

「泣くくらいなら途中で帰ればよかったのに」

「放っておけるか!」


 いい奴め。この世界じゃ早死するぞ。

 とりあえず装備をアーマードレスから作業用エプロンに着替え、荷物をチェストの中に下ろす。それから冷蔵庫の中を見て何か無いか適当に漁る。


「ねー、なんか作るけど食べる?」

「いいのか? じゃあせっかくだから頼む」


 んじゃ適当に。オーブンの中にお米とバターとトマトを入れて自動クラフト。どこからともなくグリーンピースと鶏肉が追加されてチキンライスが完成した。

 オーブンの中にチキンライスと卵、あとはチーズも入れてもう一回自動クラフト。チーズは最近採れるようになったから無性に使いたくてしょうがない。

 所要時間1分ほどでオムライスが二人分完成。店内のカウンターに並べる。


「話には聞いてたが、一切ためらわず自動クラフトするんだな」

「楽でいいじゃん。味もそう悪くないし」

「店長が本気を出すとめっちゃ美味しいって噂があるんだけど、それは本当か?」

「なんだその都市伝説」


 そりゃ手動クラフトのほうが高品質になるけど、気合入れてポーション作るときにちょっと使うだけで基本は自動クラフトだぞ。料理なんて補助効果も乗らない完全に趣味だから、手動で作ったものなんてめったに出さない。

 夕飯を食べて満足したのか、銀太はそうそうにあくびをしていた。


「ねっむ……。長い日だったけど、そろそろ帰って寝るわ」

「ん。私も寝るかな」

「じゃあまた今度。街の外出る時は連絡しろよ」

「え、なんで?」

「またレベル1でうろつくつもりだろ。放っておけんわ」

「いい奴」


 次もついてくるつもりですか。こんだけ危ない目にあっておいてまだやる気とは、なかなか見どころがある。

 面白い。次は何に巻き込んでやろうか。


「……なんか悪寒がしたんだが。気のせいか?」

「気のせい気のせい。んじゃ次も誘うから、それまで死なないでね」

「今日を生き残ったんだ。今の俺は殺したって死なねーよ」

「そうだそうだ。銀太を殺せる奴なんていりゃしないさ」

「死亡フラグっぽいからやめてくれ」

「自分でも言ったくせに」


 それじゃあごっとさん、と言って銀太は去っていく。その背中に手を振りつつ、あくびを1つ。

 今日は楽しかったけどさすがに疲れた。私も寝よう。


 店内だけは開けたまま自室に戻る。お風呂に入りたい気分だったけど、あいにくゲーム内には実装されていない。どこかの生産職が気合で再現したらしいから、私もそのうち作ってみようかな。

 寝間着に着替えてベッドに入る。おやすみなさい。

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