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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
4章 自由度が高けりゃいいってもんじゃないんだよ
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閑話 プレイヤーズ

説明祭りだよ!おまたせ!

これまですっとばしてきた状況説明を濃縮してお届けします。消化不良を起こす方は無理せず飛ばしてください。

 Myrlaがサービスインしておおよそ一週間がたった。

 その間ゲーム内への外部からの接触は一切なく、またその兆候もない。それどころかGMや黒幕が現れることもなく、プレイヤーたちは完全に放置されていた。

 プレイヤー内で最も攻略を進めている人物ですら自分たちがなぜここに囚われているのかを知らない。おそらく真実に最も近い場所にいるのは、いまだ初期装備のまま高性能ポーションを作り続ける少女だろう。

 しかし少女は黙して語らない。吊るし上げられるのが怖いから。


 数日間の調査で判明したことは多くはない。

 まず、ログアウトができないこと。

 そして新規のログインもないこと。

 ゲーム外への連絡手段の一切が存在しないこと。

 そして何より、HPが0になったプレイヤーが復活してこないこと。


 これが何を意味するのか、プレイヤー内で結論は出ていなかった。あるものはゲーム内での死は現実での死を意味するとも言ったがその根拠はない。現実で死んでいるかどうか確認する術はなく、あくまでひとつの可能性にすぎなかった。

 それでもただそこに横たわり続ける死体は、プレイヤーに混乱を引き起こすのには十分すぎた。大きな混乱とそれを治めようとしたプレイヤーの尽力により、死んではいけないという事実だけがプレイヤーたちの共通認識として築かれることになる。

 ここまできてようやくプレイヤーたちは現状を認識し、またこれ以上の情報が待っていても与えられないことを悟ると、ゆっくりと行動を始めた。


 すでに動いていたのは攻略組と呼ばれるプレイヤー集団だ。

 彼らの目的は極めてシンプルで、とりあえずこのゲームをクリアしてみようというものだ。あるものはその先に現実への帰還方法があると信じ、またあるものは普段通りにゲーム内最強の座を求めて。

 もともと廃人が多い彼らにとって、このゲームは24時間休憩なしでできる素晴らしい娯楽に過ぎなかった。死んだら復活できないという事実を知ったときは少々動揺こそしたが、それならばと死なないように攻略を進めた。


 彼らの取った方法は単純にして明快。経験値を稼ぐ。その一点に尽きた。

 下手にボス戦に挑もうものなら初見殺しされかねないが、しっかりとパーティを組めば雑魚相手ならどうとでもなる。ボス戦はあくまでも新MAPの解禁のためにのみ挑み、一度突破したら次の最前線に根を張ってそこで徹底的に狩り続ける。

 レアアイテムに興味を持たず、それどころか装備の更新も必要最小限。カンストするまではすべてつなぎの装備とばかりに使い潰し、多少の難所はステータスと頭数とPSで押し通る。そして雑魚を狩りまくり、効率が悪くなったら次の狩場を求めてボスを狩る。

 延々と、延々と、延々と。昼夜を問わず作業的に雑魚を狩り続ける。彼らの瞳に輝きはなく、人並みの生活を放棄して武器を振るい続ける。

 人間として大切なものを捨てきれなかった者は一人、また一人と脱落していった。その屍を顧みることもなく、ただただ彼らは最高効率のみを追い求める。

 それをやっていて楽しいのか。彼らはその問いに決して答えようとはしない。


 ばらばらと動き出したのは、中堅層と一括りにされるプレイヤーだ。

 とりあえず武器を持ち、MAPに出て敵を倒すことができれば中堅層と呼ばれる。あまりに低いハードルではあったが、このゲームではMAPに出ることすらできないプレイヤーが結構な数を占めていた。

 中堅層の行動は多岐に渡る。慎重に慎重を期してゆっくりと攻略をするプレイヤー、他とは異なる目的を追って好き勝手な行動をするプレイヤー、ソロで戦うプレイヤー、パーティを組んで攻略するプレイヤー、果てには攻略組からの脱落者までもがここに含まれた。

 要は普通のプレイヤーだ。攻略組のように人間性を捧げて戦い続けるプレイヤー以外は、大体ここに当てはまる。


 彼らの数は最も多く、プレイヤーの中核をなしていた。そして事実ボスを多く倒していたのも彼らである。数々のレアアイテムを揃えるものもいたが、それでも彼らは最前線ではない。

 攻略組と中堅層を隔てる壁は大きい。それは経験値の多寡であったり、プレイヤースキルの有無であったり、はたまたどこまで人間性を削れるかといったものでもあった。

 言ってしまえばゲームが上手いだけのプレイヤーは中堅層だ。ゲームが上手くて狂ったプレイヤーのみが攻略組となりうる。


 中堅層の中でも生産に重きをおいたプレイヤーたちは職人と呼ばれた。

 彼ら自体はいたって普通の生産職で、前線に出ては素材を採りそれを使ってクラフトするプレイヤーたちだ。しかし前線に出るのを嫌がる生産職は多く、区別化される形で前線に出られる生産職に職人という敬称がついた。

 この区別化がなされたことで生産職界隈には明確な上下関係が築かれたとも言える。これは確かな確執を産んだが、攻略組や中堅層に職人を支持する風潮が生まれたため、時間とともに確執は下火になるだろう。

 バラバラに動く職人であったが、つい最近ある鍛冶屋の呼びかけにより組織化が始まっている。素材や情報を共有しあうコミュニティがいくつも生まれ、個人単位の技術競争はコミュニティ単位の競争へと変わりつつある。


 職人と違い、自力で素材を採集することができない生産職はアマチュアと呼ばれた。

 彼らは前線に出るのを嫌ったが、せめて何かをしようと比較的安全な生産職に流れ着いたものたちだ。

 前線に出られない彼らは自力で素材を採集することなく、露店で他人の採ってきた素材を買い漁ってはクラフトしていた。そういったプレイヤーは数多くいたために、露店での物価は高くなる一方だった。

 プレイヤー内で経済を回すことには貢献するものの、新たな富を生むことはない。結局のところ限られた素材に未熟な加工をほどこし、そこに付加価値をごてごてくっつけて利ざやを市場から吸い上げているのが実態だ。

 自分たちなりに貢献しようとする彼らの行動は結果的に露店の機能を大きく制限していた。が、最近になってそれは少し改善されつつある。

 なんてことはない。前線に出なくても不都合ない農業錬金にアマチュアの大多数が流れ込んだのだ。錬金で名を上げようとしていたプレイヤーは大いに迷惑することとなったが、それ以外の職人はかえって喜んでいた。


 そして何もしようとしない人もいた。放棄組ドロップアウターだ。

 現状を受け入れず、ただ今の不満だけをどこかにぶつけて、何一つ生産的な行動はしない。

 彼らの唱える呪文はどれも似通っていた。「GMを出せ」「責任者を呼べ」「警察に訴えるぞ」「お前らはもう終わりだ」。そういったことを広場で声高に唱えあげるのが彼らの日課だった。

 幸いにもこのゲームにはブラックリストが存在している。それに放り込みさえすれば、広場で無音のパフォーマンスを繰り広げる珍妙な集団にすぎなかった。

 いつしか彼らの行動は見世物のように扱われ、そんな彼らを見ながら露店で買った軽食を食べるのが、趣味の悪いプレイヤーたちの昼時の娯楽だ。もっとも、時に掴みかかってくる彼らを振り払うくらいのステータスがなければ、これはあまりオススメできない。

 彼らの聖戦はおおよそ一週間ほど続いたが、なんの反応も得られないどころか見世物にされる現状に嫌気が差し、一人また一人と宿屋に引きこもるようになっていった。一週間も経てば広場での聖戦は見られなくなり、この後釜にすわる形でエンジョイ勢がスキルやアイテムを使ったパフォーマンスで観客を沸かせるようになる。

 放棄組にとって幸いだったことは、宿屋の利用料金が無料であったことと、ゲーム内での空腹はバッドステータスとしてしか扱われないこと。飲まず食わずで引きこもり続ける彼らは修行僧とも呼ばれることもあったが、あまり普及はしなかった。


 最後にそれらのどれにも含まれないプレイヤーがいた。

 前線に出ようともしないくせに、プレイヤー全体の足を引っ張るどころか凄まじい勢いで貢献を積み重ねるプレイヤーだ。

 彼女はあくまでも単独のプレイヤーに過ぎなかったが、他のプレイヤーとは一線を画するそのプレイスタイルは確かな異彩を放っていた。

 一切の迷いがない行動と、前線に出ずとも行動の節々に感じさせるプレイヤースキル。そして何より、やや幼さの残る顔立ちにあってどこか狂気を秘めたその瞳。

 彼女はいつしか畏怖を込めてこう呼ばれるようになっていた。

 邪神、と。

序盤は以上になります。5章からは中盤です

毎日更新していきますので、長い目でおつきあいください

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