4章 7話
うちの畑に生えた世界樹はとりあえず置いておいて、先に家を建てちゃおう。
まずは建設を始める前に土地を均さなきゃいけない。雑草を抜いて地形を平たくする。言うのは簡単だけどやるとなると丸一日かかる。面倒くさいから楽しよう。
取り出しましたるは『草薙剣』。一振りすれば半径3メートルの草を薙ぎ払う農家御用達の収穫鎌だ。便利なんだけど、神剣の名を冠したユニークアイテムにしちゃ大分物足りない性能。おまけに謎の種から確率で採れるせいで、在庫が既に二桁に達している。
「――神剣二刀流王技」
『草薙剣』を両手に一本ずつ装備し、天地の構えを取る。
「【千剣万華】、手動再現!」
二刀流王技【千剣万華】。二刀流剣術を極めたもののみに許された、ゼルスト七王技が四の技。千の剣閃が万の血華を咲かせ、あたり一面の草が綺麗に掃除された。
ゼルスト七王技クラスのスキルになると、私でも半分くらいしか手動再現できない。未完成の【千剣万華】なんて雑草刈りに使うのがせいぜいだろう。
今更だけど手動再現ってのは、スキルアシスト無しで無理矢理スキルを手動発動する技術だ。
欠点としてはスキルアシスト有りに比べるとダメージが大きく劣ることと、そもそも難易度がアホみたいに高いこと。実用には相応以上の修練が必要となる。
それでも手動再現をする利点は大きい。手動再現したスキルは柔軟にアレンジを加える事ができ、更に技後硬直やクールダウンが発生しない。そのため通常では不可能なスキルを連携をすることができる。
慣れてくると両手剣スキルを片手剣で放ったり、二刀流で片手ずつ片手剣スキルを使ったりもできる。極めれば奥義クラスのスキルを手動再現で連発し続けることもできるけど、そこまで来ると機械じみた正確さと反射神経が要求される。攻略組でもごく一部の変態しか扱えない曲芸だ。
(たまにはちょっと、練習しとくか)
最近めっきり戦ってなかったから、すっかり腕がサビついてそうだ。草刈りのついでにサビを落としておこう。
右手の『草薙剣』を納刀し、左手の『草薙剣』を中段に構える。
「片手剣スキル、【サークルスラッシュ】」
右足を軸に一周回転し、左手の『草薙剣』で円を描く。
「【抜刀術・朔月】、からの【納刀術・つるべ落とし】」
右手で抜刀しつつ見えない斬撃を放ち、続けて上から下へと切り落としながら両手の『草薙剣』を納刀する。
「格闘スキル【震脚】、【雷突破】、【雪華散華】」
格闘スキル三連打。地を震わせ、雷鳴が轟き、雪華の如く舞い踊る。
ここまでノーミス。ノッてきた。
「【煉獄轟蹴脚】、モーションキャンセルして、【テンペストブレイド】ッ!」
王技スキルを二連続。通常じゃ連続発動できないスキルをモーションキャンセルで強引に繋げる。
モーションキャンセルのタイミングがちょっと遅れたけど、技はなんとか繋がった。なんだかんだで体が覚えてるものだ。
「二刀流王技――【千剣万華】ッ!!」
双の剣を打ち放ち、千の斬撃を顕現させる。目にも留まらぬ速度で剣を振るうが、スキルアシスト無しではこの速度の剣技は再現しきれない。だんだん技が失速し始め、最後には剣を止めた。
「……ふぅ。ダメかー」
秒間48回の斬撃を干渉しないようにそれぞれの手で放ち続ける。更に斬撃の一つ一つをコントロールして、ちゃんと刃筋を立たせないといけない。それが【千剣万華】の手動再現に要求される最低条件だ。
しかもただ再現できるってだけじゃ、スキルアシスト有りの劣化版にしかなれない。手動再現の利点を活かすには発動できるのはもちろん、更に習熟してアレンジを加える必要がある。
この分じゃ実用段階まで行くのはまだまだ先だろう。
気がつけば当たり一面、草の一本も生えていなかった。ちょっとやり過ぎたかな。
まあいいや。雑草は片付けた。『草薙剣』をスコップに持ちかえる。
地ならしの方は簡単だ。一撃で終わる。
「両手武器王技――」
スコップを大きく上段に構え、力を込める。
全力でぶっ放したらクレーターになっちゃうから、平たくなるよう力加減を調整する。
「【グランドインパクト】っ」
どーん。
周囲に群がる敵塊をまとめて打ち上げる、乱獲時御用達スキルを叩き込む。手動再現にスキルエフェクトは乗らないから打ち上げ効果は無いけれど、広範囲に拡散した打撃は土地を十分に均した。
よっしオーケー。それじゃあ後は家を建てるだけだ。
建築自体は自動クラフトで簡略化しちゃえば一瞬ですよ。その気になれば家も手動でもクラフトできるけど、さすがに時間がかかりすぎる上に素人仕事じゃ難しすぎる。ここは私じゃなくても自動クラフトに頼る場面だ。
クラフトウィンドウをがっこんがっこんフル稼働させて、家をもりもり建てはじめた。
*****
中略。
出来上がった家を眺める。平屋造りの木造建築で、裏手には湖に面したテラスがついている。煙突からはもくもくと煙のエフェクトが上がっていた。
というかぶっちゃけると、レストランの設計図を使った。見た目はまんま湖岸のレストランって感じだ。中はいろいろと改造したから別物になってるけど。
中に入るとずらりと陳列棚が並んでいる。ここは元々ホールだったんだけど、内装を色々いじくって小規模の販売店に改装した。販売店は露店と違い、店主がいなくても24時間販売してくれる。本格的に商売するなら必須とも言える便利施設だ。
その奥にはキッチンを改装して作ったアトリエが隔たり無く覗いている。元々キッチンに備え付けられていたシンクとコンロとオーブンに加え、新しく錬金釜と工作台を設置した。それ以外には素材保管用のチェストも取り付けた。
裏手のテラスはそのまま湖で釣りができ、釣った魚を即座にキッチンでさばけるという贅沢仕様だ。時間があったら料理熟練度もあげとこうかな。
軒先からは歩いて2秒で即畑。おまけに観光名所の世界樹も今朝生えた。もうばっちりだね。
「満足」
素晴らしき機能美よ。ここに引きこもっていれば一生ポーション作っていられる。
作ったポーションは外に出ること無く自宅販売できるし、何か食べたくなっても魚と野菜は簡単に手に入る。酪農に手を出せば肉だって食べられるだろう。
もう私これでゲームクリアでいいんじゃないかな。ゲーム内で安息できる拠点を手に入れたラストワンは、攻略を諦めてスローライフを楽しみましたとさ。14へ行け。
「それはさすがに冗談だけどさぁ」
アトリエに設置した安楽椅子に腰掛け、窓から覗く世界樹を見上げる。大樹から木漏れ日がきらきらと射しこみ、どうにも眠気を誘った。まだ睡眠をとってから20時間くらいしか動いてないのに。
「そろそろ、ゆっくりしてもいいかなぁ」
ウルマティアに殺されて、わけわかんないまま生き返って、それからここまで走ってきた。『アムリタ』の生産体制は確立したし、当分は単価を下げるために量産しまくるのが私にできる"攻略"だ。
やりたいことはまだまだある。でもしばらくはスローライフも悪くないんじゃないかな。強制されないスローライフは、それはそれで好きなんですよ。
「薬を……。奴隷のように薬を作り続けるのだ……」
スタートダッシュは長くても一週間くらい。その後は通常進行に戻っていく。
廃ゲーマーだって人間だ。寝なければ体も心もいつかは疲れる。休憩を効率的に取るのも大事なことだ。一度自分の中の疲労を自覚すると、もう指一本だって動かせる気は無かった。
(ラストワンちゃんってばもう限界か。一周目の時はもうちょっと体も持ったんだけどなぁ)
目を閉じると、意識はすぐに消えていく。仮眠じゃなくてガチ寝だ。この感覚だと、しばらくは目を覚まさないだろう。
せっかく家を作ったんだからベッドまで行こうかなって思ったところで。
ベッドを作り忘れたことを思い出した。おやすみなさい。




