4章 5話
んで。
『アムリタ』を売りさばいてお金が貯まった。すごーく貯まった。めちゃくちゃ貯まった。
一周目の時でもここまでお金を持ってたことはあったのかってくらい貯まった。生産覇者の金策力まじやばい。1人だけ別ゲーってレベルでやばい。
というわけで、貯まったお金は使いましょう。お金は天下のまわり物。
(つっても、何にお金使うかなぁ)
このゲーム、お金を使う要素は実はそう多くはない。
エンドコンテンツを金策よりも戦闘に比重を置いたゲームデザインのせいか、お金を湯水のように溶かすコンテンツは生産装備だけだ。その装備にしろ誤差のような数値を極めるためにお金を吸うのであって、最強を目指さないならある程度お金があればそれで十分。
その"ある程度"だってゲーム内通貨にして1000万強は使うんだけど。
(でも、装備とかいらないしなぁ)
今の私はレベル1。レア装備があっても装備できない。猫に小判もいいところだ。
となると、今できるお金の使い道と言えば――ハウジングかなぁ。
(自宅はあって困るもんじゃないし。とりあえず建てとくか)
というわけでお家を建てましょう。
ハウジングにはまずラインフォートレス内に売っている土地を買う必要がある。大神殿の周りの土地は売ってないけど、それ以外の地区ならお金を払えば大体買える。
私は自分の農地持ってるから、農地に隣接させる形で家を建てよう。自宅を出たら2秒で農業。おまけにうちの農地は湖に隣接してるから、そのまま釣りもできる。利便性は抜群だ。
というわけで農協にやってきました。受付のお姉さんに話しかける。
「おじゃましまーす」
「あら、お久しぶりですね。農業は順調ですか?」
「順調だよ。そろそろ次のステージに行きたいから、農地を拡張したいんだけど」
「わかりました。どれくらい拡張されますか?」
「上限まで」
そう言うと、受付のお姉さんは一瞬ぴくりと体を止めた。
受付のお姉さんがおそるおそる、農地の拡張代金を表示した。7桁の代金を支払って決定を押す。
「……代金の入金を確認しました。ただいま農地の拡張を行いました。現地にてご確認ください」
「ありがと。それと、家屋の設計図って売ってる?」
「か、家屋まで……。失礼しました。こちらになります」
お姉さんがドン引きしていた。いいじゃん、買わせてよ。
ずらーっと並ぶ家屋のリストの中から、好みのものを選ぶ。どれにしようかなぁ。
(設備はどれも一緒か。下手に大きな家にしても農地を圧迫するし、部屋数が多いのはかえって利便性が下がる。広い部屋に色々詰め込むタイプのほうが移動の手間がなくて便利そうだ。コンパクトにまとまりつつ、一部屋のスペースが広く取れる物件……。あ、これ、ピッタリじゃん)
設計図を選んで購入する。この設計図は家の権利書も兼ねているだとかなんとかで、これまた7桁の値段がする。
「こ、購入手続きを完了しました……」
「ん、ありがと。それじゃあまたね」
設計図に書いてある材料をばーっと確認する。最低限必要な物は大量の木材と石材。後はこまごました鉄細工だ。
(木材は釣りで集めた流木がある。鉄細工はー、リースに頼むか。問題は石材だけど……)
ふむ。石か。
農協から出て、小高い丘の上にある大神殿を見る。久々にあの神を頼るってのも悪く無いだろう。
*****
いらっしゃいませ大神殿。プレイヤーたちの初期地点にして、自由と束縛の神ラグアを祀る神殿だ。
Myrlaにおいて祠と神殿というものは別物で、祠を出先機関とすれば神殿は本拠地にあたる。ラインフォートレス内にはカームコール、リグリ、アーキリス、そしてゼルストの祠があるが、中でも神殿を持つラグアはNPCに一際熱心に崇められている。
ラグアは冒険者(プレイヤーを指す)の守り神とも呼ばれ、彼女の寵児たる冒険者はNPCに比べて様々な恩恵を受けている。その他にも城塞都市ラインフォートレスを守護する大結界を維持しているのもラグアだ。この世界、ラインフォートレス以外に人類の生存圏が確認されていないことから、ラグアが居なければ人類は絶滅していたのかもしれない。
それらのことから、ラグアは主神6柱の中でも特に人間よりの神様だと言えるだろう。外見もおっぱいぼんぼんの正統派女神様だ。それなのに、これだけ頑張っているラグア様は意外にもプレイヤー人気は高くない。
ゲーム的な視点から言うなら、ラグアは設定では関わるもののシステム的にはあんまり重要な神様ではない。カームコールは海関係で、リグリは農業や自然で、アーキリスは生産で、ゼルストは戦闘関係全般で祝福を与えてくれるが、ラグアともう一柱の神の祝福はなかなか得られる機会は無い。おかげで度々セットで忘れられて、主神4柱だとか結界ニートだとか大神殿のおっぱい姉ちゃんだとか好き放題言われている。
大神殿に祀られたラグアの女神像に、柏手を打って祈りを捧げる。どうかラグア様、人の罪をお許し下さい。
よし祈った。さぁ罪を犯そう。怒るなよラグア。
ここまで来る途中、雑貨屋で買ってきた『ツルハシ』をひゅんひゅんと振り回して装備する。この『ツルハシ』っていう道具、色々と作りの甘いところのあるMyrlaの中でも、トップクラスの調整不足を誇るアイテムだ。
『ツルハシ』の効果は2つ。地形を破壊することができることと、破壊したものをアイテム化すること。おそらくはツルハシで地形を変えたり、鉱脈を掘ることで鉱石を採ったりして欲しかったんだろうけど、その2つの効果が重なった結果とんでもなく酷いアイテムが生まれた。
つまりどういうことかと言うと。
大神殿の大理石でできた床に向かってツルハシを振り落とす。カツンと音がして床がえぐれ、『大理石』を手に入れた。
このツルハシっていうぶっ壊れアイテムは、本来絶対想定していないところで資源を入手できるアホみたいな"仕様"を生み出した。
掘れる場所に制限は無い。木造住宅を掘れば木材が手に入る。石造建築を掘れば石材が手に入る。数は少ないけど鉄の扉を掘れば鉄すらも手に入る。
おまけに掘った場所は30分もすれば自動修復で元に戻り、また掘れるようになる。もう頭おかしいんじゃないかってくらいそこら中素材まみれだ。ツルハシのせいでラインフォートレスはまるごと資源の山と化した。サンドボックスなら許されても、MMOではまごうこと無きぶっ壊れ要素だ。
何より一番狂ってることは、これが"バグ"じゃなくて"仕様"ってことだ。街中でツルハシ振り回して素材を掘りまくるってどういうゲームだよもう。自由度が高けりゃいいってもんじゃないんだよ。
一つだけ救いがあるとしたら、街中で掘れる素材は序盤のフィールドで掘れる物しか無いということ。中級上級の素材が欲しければフィールドに出なければいけないのは変わらない。
(そういやリースに、鉄の扉掘れば鉄が採れるってこと教えてなかったな……。素材問題を解決できるほどじゃないけど、後で教えとくか)
『大理石』求めて大神殿をがんがん掘りまくる。なんとなくだけど、ラグアの女神像が泣いている気がした。
*****
大神殿の半分ほどを更地にしたところで満足した。途中たまたま大神殿に立ち寄ったプレイヤーに取り押さえられそうになったり、衛兵を呼ばれたりしたけど問題はなかった。ラインフォートレスの法に「大神殿を採掘してはならない」の一文は無い。最後にはそのプレイヤーも分かってくれて、一緒に大神殿を採掘する仲になった。
素材のためなら神域をも犯す。ゲーマーの業は深い。
というわけで石材は足りた。お次は鉄細工を求めて生産ドームまでやってきました。
「リース、いるー?」
火炉と金床がずらっと並んでいるところの一番奥。そこにリースは陣取っていた。
金槌をマシンガンのように金床に打ち付けるリースを眺める。忙しそうだ。ちょっと待つか。
秒間6打のペースで金槌を叩きまくるおかげで、エフェクトの火花が火炎放射器のように弾け飛ぶ。確か鍛冶は叩いた回数で品質が上がりやすくなる仕様があったはずだ。ただしハンマー1回につき0.01%とかそれくらいしか変化しないから、本当に誤差みたいなもんだ。
しばらく火花で花火を作っていたリースは一段落したのか槌を置いた。出来上がった剣の仕上がりを見て、はぁとため息をついた。
「駄作ですね」
「良い剣に見えるけど」
「でも、最高数値じゃないです」
リースちゃんも求道者だなぁ。
「やぁリース。生産は順調?」
「おかげさまで。あの後固定パーティを組んで、何度かフィールドで採集したんですよ。身内はなんとかなりそうです」
「そっか。そりゃ良かった」
「生産職全体の素材不足も若干ですが改善してますよ。どうやら最近名うての錬金術士が魔界農法なるものを公開したらしくてですね。手軽にポーションを生産できるってことで、生産職の比率が錬金術に傾いたんですよ。おかげで他の職人は競争率が低下したっていう次第です」
「あー、ライト層が楽して稼げる錬金に流れ込んだのか。それは計算してなかった」
まったくもー。ライト層ってやつはこれだから。
命かけません攻略に貢献しませんお金欲しいです限られた資源浪費しますを平気な顔してやるんだもん。いい迷惑だよ。
「ライト層はお嫌いですか?」
「この世界じゃなければ嫌いじゃなかったね。普通のゲームならライト層が居ないとゲーム自体が成り立たないし」
「まあまあ、そう言わないでくださいよ。生きるか死ぬかの世界で戦うことを選べる人のほうが珍しいんですから」
「いやまぁ別に、人が何しようと勝手だし文句言いたくもないけどさ。邪魔なもんは邪魔ってわけで」
「なんだかんだで言いますね」
「口が滑ったと言いますか」
口笛を吹く。リースは盛大に呆れていた。
「それでリース。仕事を頼みたいんだけど、いいかな」
「構いませんよ。ちょっと時間かかっちゃいますけど、よろしいですか?」
「うん。っていうか、5分で終わると思う」
「でしたら今やっちゃいますね」
「助かるよ。釘と金具を2スタックずつお願い」
代金と鉄(大神殿の扉産)をトレードで渡す。リースは金床に鉄を置くと、盛大に火花を上げ始めた。
ついでにツルハシで鉄の扉から鉄を掘れることを知らせておく。
「――だから、城門とか大神殿の扉とかをツルハシで砕くと精錬済みの鉄が採れるよ。数は少ないけど安定して採れるから供給の足しにはなると思う」
「なるほど……。それは盲点というかなんというか。確かに便利ですけど、城門を掘るってのはちょっと気が引けますね」
「そう? 素材になるならなんでもいいと思うけど」
「ラストワンさんはもうちょっと雰囲気を楽しんだほうがいいと思います」
花を愛でるよりスコアアタックのほうが好きです。
バグ利用や仕様の穴を悪用したりするのはゲームの寿命を縮めるから、本当はあんまり好きじゃないんだけどデスゲームなら話は別だ。プレイヤーが有利になるならゲームの寿命だろうが雰囲気だろうが構わず踏み潰す。
「それはそうとラストワンさん。釘や金具なんて何に使うんですか? 木工スキルでタンスでも量産するんですか?」
「んや、家を建てるつもり。いい加減拠点が欲しくなっちゃって」
「なんですと。ついにあのラストワンさんが路上生活を卒業するんですね、おめでとうございます」
「ひどい言い草だ」
路上生活だなんて失礼しちゃうわ。ただちょっとここ最近、露店販売しながら睡眠放置してただけなのに。
そういえば最後にベッドで寝たのっていつだっけ。もう覚えてないや。
「はい、出来ましたよ」
「ん。ありがと」
できたてホヤホヤの釘と金具を受け取る。よしよし、これで素材は全部揃った。
「家ができたら教えて下さいね。遊びに行きますので」
「おっけー。農業地区に建てるから見に来てよ」
またねと手を振って別れる。私が背を向けた瞬間、背後から怒涛のごとく火花が上がった。
……地獄の人間花火と化したリースに人の言葉は届かない。音量的に。
今度来る時は耳栓とサングラスでも持ってこよう。




