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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
4章 自由度が高けりゃいいってもんじゃないんだよ
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4章 4話

 殺気を感じて目を覚ます。

 殺気を感じるなんて漫画の世界だとばかり思ってたけど、意外とやればできるもんだ。人間頑張ればなんでもできる。

 それはそうとして。顔の位置を少しずらして、飛んできた矢を避ける。矢は私の頭の数センチ隣に深々と突き刺さった。


「おはよう、ジミコ」

「ん」


 モーニングアローを届けてくれたジミコに挨拶して、体を起こそうとする。半ばまで起き上がったところでヨミサカに引き戻された。

 そのままガッチリホールド。


「起きてヨミサカ。いつまで寝てんの」


 声をかけても目が覚めない。頭突いたろかこいつ。


「……チャンス?」

「チャンスじゃないチャンスじゃない」


 ジミコがぼそっと呟く。コイツはコイツで頭が湧いてやがる。

 喜々としてジミコは矢を放ち、ヨミサカは寝ながらガッチリ拘束してくる。避けるにも避けられない。

 あーもー、こいつら面倒くさい。思考操作でインベントリからヘラクレスオオカブトを召喚する。


「サモン。【英雄ヘラクレスの小盾】!」


 飛来する矢の前に召喚されたヘラクレスは、(まじかよ)みたいな顔をしながらもそのキチン質でジミコの矢を弾いた。

 さすがはカームコールとアーキリスの祝福を受けて復活したヘラクレスだ。攻略組の一撃を受けてもなんともないぜ!

 とか思ってたら、(いやきついっす)みたいな顔をしてヘラクレスはへろへろと落下した。

 だらしないやつめ。アイテムインベントリの中に格納しておく。


「これでも……防がれた……」

「いい加減諦めてよターミネイター」

「次は当てる。必ず」


 当てなくていいです。死なないしそんなに痛くもないけどびっくりするんでやめてください。

 っていうかいい加減起きろヨミサカ。さっきからアンタの大好きな殺気がビンビン飛び交ってるのになんで寝てんだよ。私知ってんだぞ、実は起きてんだろ。


「ほらほら、もう3時間寝たでしょ。起きて起きて」

「……あと6時間」

「攻略組やめちまえねぼすけ」


 人間性を捧げろ。攻略組にまともな人間の生活が許されると思うな。貴様らは奴隷以下の家畜と知れ。カンストするまで寝れません。

 いやあ。本気でゲームをするって楽しいなあ。私はもう二度とやりたくないけど。


「で、ジミコは何しに来たの」

「それ、拾いに」

「ああ、ヨミサカを回収しに来たんだ。さっさと持ってってよ」

「ううん。見てる。面白い」

「ああ、うん……。ジミコはそういう奴だよね……」


 駄目だこいつ。悪乗りに生きていやがる。私と同じ人種だこのやろう。

 この状況をどうにかできる人はあの人しかいない。通りを見渡して、冴えない顔をしたおっさんを探す。わりと近くに居た。


「おーい、おっさんおっさん。こっちこっち」


 露店から手だけを伸ばし、おっさんに手を振る。


「俺を呼んだか? 悪いが今忙しいから後で――おい! ジミコ、ヨミサカ! 何してんだアホ共!」


 おっさん。愛称はおっさん。NINJAのおっさん。キャラクターネームをわざわざおっさんにする筋金入りのおっさん。

 冴えない顔した冴えないおっさんだけど、おっさんもれっきとした攻略組の一員だ。ヨミサカパーティの1人で、まあ、なんというか、苦労人のおっさんだ。

 私らが好き勝手やるもんだから、いつもフォロー役として奔走していたおっさん。タバコを吸うと背中に哀愁が漂うおっさんオブおっさん。フォーエバーおっさん。


「おい起きろヨミサカ、なんでお前はいつもいつも適当なとこで寝てんだよ。ジミコも街中で弓構えてんじゃねえ、通報されんぞとっとと仕舞え」

「あー……? どうしたおっさん。もう朝か」

「通報上等。受けて立つ」

「い・い・か・ら・起・き・ろ! ジミコもジミコでなんでそう好戦的なんだよお前は! 一般人に迷惑かけてんじゃねえぞ!」


 おっさんは朝から元気だなぁ。とか思ってたら、大きな声出して立ちくらみがしたのか顔色を青くしていた。


「お疲れおっさん。大丈夫? おっさんも寝とく?」

「寝ねえよ! ミイラ取りがミイラじゃねえか! ……いや、そもそもお前誰だ? なんで俺の名前を知ってる」

「おっさんはおっさんでしょ。見りゃ分かるよ」

「いやまぁそうなんだが……。いや、そうじゃなかったな。済まない、ウチの馬鹿どもが迷惑かけたようだ」

「あーうん。気にしないで。私も楽しかったし」

「すまん、そう言ってもらえると助かる」

「ただちょっと営業妨害と安眠妨害されて、物騒な起こし方されただけで。迷惑でもなんでもないよ」

「本当にすまない……」


 にこにこ笑うと、おっさんは申し訳無さそうにしょぼくれた。満足。


「で、お前さんはなんて言うんだ?」

「ラストワンだよ。ジミコとヨミサカとは……、んー。殴りあった仲かな。昭和番長システムみたいな」

「なんだそりゃ。というか、この2人と殴りあうってお前も攻略組なのか? 見覚えは無いが」

「いんや、生産職」

「生産職で攻略組とかち合うってバケモンかよ」

「失礼な」


 雑談しながらもヨミサカを叩き起こす。ようやく起き上がったヨミサカは、恨めしそうに私を睨んでいた。

 そりゃヨミサカの睡眠時間を削った一因は私にもあるけど、そんな顔で見られてもラストワンちゃんにはどうしようもできませんよ。

 ヨミサカの拘束から解放されて、体をぐっと伸ばす。久しぶりの自由だ。自由って素晴らしい。


「おっさん、もう行くの?」

「おう。ただの仮眠が随分と長引いちまった。すぐにでもレベリングに戻らないと置いてかれる」

「そっか」


 彼らと一緒にひーこら言いながらもレベリングに出掛けていた毎日をちょっと思い出す。あの時は辛いばかりだったけど、今思い出すとどうにも懐かしくて。

 ……やっぱり攻略組に入ろうかな。


「ああ、それとだ」


 おっさんの雰囲気が変わった。

 おっさんの気配が解けるように消えていく。たしかにそこに居るはずなのに、まるで風景の一部かのように希薄になる。瞬きをすればおっさんの姿はもう見えなくなっていた。


 ――おっさんもやっぱり、私たちと同類だな。


 おっさんは攻略組でも随一のアサシンだ。ハイディングしたおっさんの姿は、私でもそう簡単には捉えられない。

 ただ、捉えられないなら捉えられないでやりようはある。殺気の濃淡を鼻で嗅ぎ分け、攻撃のタイミングを図る。

 体の力を抜き、目を閉じた。刀術スキル【居合打ち】の手動再現ハンドスキルを構える。【居合打ち】なら確実にカウンターを取れるが、いかんせんスキルアシスト無しの手動再現では完璧にタイミングを合わせないと取りきれない。


(――これは、なかなか)


 私は【居合打ち】の手動再現を構え、おっさんはおそらく暗器スキルの【首刈】か【奈落獄刹】を打とうとしているんだろう。

 勝敗の決め方は簡単。タイミングを外したほうが、負ける。

 時間が切り落とされたかのように凍りつく。この間合には柔らかな陽光も金槌の音も届かない。1秒が何倍にも引き伸ばされた世界の中で、刹那の死線が繰り広げられる。


(たまらない――)


 殺気の応酬に肌がヒリヒリする。喉が焼け付き無性に渇く。心臓の鼓動が収まらない。脳の知覚領域が拡大していく。そんなものこの体には無いはずなのに。

 この感覚だ。この世界だ。この一瞬を求めたくて、私は――。


 幸せな時間は、すぐに終わった。ハイディングを解いたおっさんは、さっきと全く変わらない場所で立っていた。


「なるほどな。面白い奴だ」

「……ねえ、もっと。まだ足りない。もっともっと欲しい」

「駄目だ。お前と遊んでる時間は無い」

「ちゃんと最後までやろうよ。こんな適当な終わり方じゃ満足できない」

「ばーか。こんなところで白黒つけちゃそれこそ満足できんわ」


 そう言っておっさんは、ひらひらと手を振ってフレンド登録を飛ばしてきた。

 承諾する。でも、納得はできない。


「せめてレベルを揃えてからだ。今のままやったってステータスに差がありすぎんだろ。それじゃあ面白くない」


 ……むぅ。

 そう言われちゃったらしょうがない。さすがに私も、ガチになったおっさん相手にスキルアシスト無しでは分が悪いだろう。

 やっぱり攻略組に入ろうかなぁ。一緒に遊びたいよ。


「来たいんだったら来い。早めに来い」

「……今度は、私とやろう」


 ヨミサカとジミコも、一言ずつ残して去っていく。その背中目掛けて『フラッシュストレートフルーツ』を3つ投げ渡した。

 彼らは振り返ること無くそれを受け取るも、歩みを止めることはない。

 その背中を見送って、『フラッシュストレートフルーツ』をしゃくりとかじった。

PvP要素はこんな感じです

あくまで主体はPvEなので、PvPは主に娯楽として扱います

というより、元々PvPを想定していないゲームデザインなのに戦闘狂アホどもがシステムの範疇で勝手に殴り合ってる感じです

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― 新着の感想 ―
ヨミサカとジミコとオッサンとオッサソにフルーツを四つ投げ渡したってことか。
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