『観測者の手紙』
ごきげんよう。
手紙というのは面倒だ。今となっては、私とあなたはこの世界でたった二人のシステムを有するものじゃないか。なのに、どうしてこんなアナログな手法を好む。
この世界のことを理解した君は、システムについて思うところがあるのかもしれない。だけど、私たちにはこの力が必要だ。これがなければ私たちはイモムシにすら負けることは、前にも話した通りである。
今後の連絡は個人チャットにしてほしい。もっとも、何度そう要求してもかたくなに便箋を送りつける君は、今頃次の便箋の柄を悩んでいるのだろうが。
前置きはこれくらいにしておこうか。
まず、私たちが言うところのNPCについて。彼らはまだラインフォートレスに帰るつもりはないらしい。ラグアを始めとした神々が亡き今、加護もないのにあの街は広すぎる。プレイヤーが私と君しかいないのなら尚更だ。現状では、彼らは守りやすい今の拠点を手放そうとは思わないだろう。
それに、君たちが引き起こしたあの災禍は、未だ彼らの記憶に新しい。しばらくは寄り付きたいとも思わないはずだ。
勘違いしないでほしいが、私個人としては君のことは嫌いじゃない。君の中で眠っているもう一人のことも。
前にも言った通り、私は彼女の行動については理解している。この世界に生きる一人として悲しくは思うが、人と神とのねじれきった関係性には何かしらの決着が必要だった。場合によっては人間種族が絶滅していた可能性だってあった。私たちが今こうして生き延びているのは、紛れもなく彼女の功績だったと考えている。
神々についてはまだまだ復活する兆しはない。これを不幸と呼ぶか幸運と呼ぶかはわからないが、少なくとももうしばらくは世界は今のままだ。いずれ神が復活した時、きっと彼らは敵対するだろう。再び世界に神々が戻るまでに、人類は神々に抗するだけの力を身につける必要がある。
その上で聞くが、彼女はまだ目が覚めないのか?
再三となる確認を許して欲しい。この世界を立て直す上で、彼女の力は必要不可欠なのだ。君の幸運と彼女の能力が合わされば、君たちは悪魔にも救世主にもなるだろう。願わくば、次はあまり苛烈すぎないやり方で世界を変えてほしいものだが。
ひとまず、近況報告としてはこんなものだ。
また今度、近いうちに会って話そう。君に会わせたい人もいる。彼女のことは、人よりも幽霊と称するべきかもしれないけど。
それでは。息災と平穏と、ほどほどの幸運を。
ジミコ