外伝 26話
殺す。
殺す。
殺し続ける。
飛びかかる敵を殺す。避けようと身構える敵を殺す。私の存在に気づかない敵を殺す。群れて抗おうとする敵を殺す。逃げ出そうと散る敵を殺す。
異形を殺す。命を殺す。目についたものを殺す。何かの動物に似た生き物を殺す。見たこともないようなものを殺す。剣を振って殺せるものを殺す。
密集した敵を範囲攻撃でまとめて殺すのは気持ちいい。何度も攻撃を避ける敵を追い詰めるのは気分がいい。手強い敵の隙を突いて命を刈り取るのは最高だ。
積み上げられた屍山血河は、【神への供物】に捧げられて青い燐光と共に消えていく。世界は今、死に彩られて、青々と輝いていた。
(――ねえ、ラストワン)
なに。
(本当にこれでよかったの?)
いいんだよ。
これはウルマティア戦への下準備だ。【常在戦場】で効果時間を伸ばした【祭囃子】によって、攻撃力を限りなく引き上げる。あいつを倒すために必要なのは絶対的な暴力だ。それがあれば、私が殺される前にウルマティアを殺せるかもしれない。
(でも……。いくらなんでも、これはやりすぎだよ。こんなの間違ってる)
間違ってる? なにが? どういうこと?
私の命を犠牲にしない攻略を求めたのは、の子だよね。
(それはそうだけど……)
なら、黙ってて。
集中してるんだ。何もかもを殺さないといけない。こいつらを何もかも殺し終えるまで何時間かかるかわからないけど、一瞬たりとも気は抜けない。これだけのコンボ数を稼げるチャンスは今しかないんだ。
失敗はできない。何かの弾みでコンボが途切れたら終わりだ。
(ラストワンは、命をなんだと思ってるの)
命じゃない。
こいつらは、ただのデータだ。
(ねえ、ラストワン)
うるさいな。
(私は、君と一緒に泣きたかった)
の子はそれきり押し黙る。彼女が言いたいことはわからない。正直、構っていられなかった。
それから六時間、私は目につく敵をひたすら殺して回った。獲物に困ることはなかった。背面界から押し寄せる大量の異形と、この世界にもともと棲んでいたモンスターたちと。次から次へと現れる有象無象のデータを、【祭囃子】で跳ね上がった莫大な攻撃力に物を言わせて斬り伏せた。
やがて波が引くように、敵がいなくなった。代わるように現れたのは山程もある巨大な異形。ねじれた双角と巨木のような尾を引きずり、地響きを立てながら歩みを続ける異形の王。
一周目の私たちはあれを止めることができず、ラインフォートレスを砕かれた。ある意味では怨敵の一人と言ってもいいのかもしれない。その巨獣へと飛び込んで、『サン・フォール・ソード』を振るう。
「【二つ燕】」
二撃。
ただ二撃、振り抜いた刃は、王の命を刈り取った。
王が斃れ伏すと、あたり一帯は静まり返った。動くものはない。生きているものはどこにもない。ただ、命を散らした青い燐光だけがふわふわと漂っていた。
コンボ数、六百八十九万四千三百五十二。
ダメージ係数、およそ三万倍。
「行くか」
準備は整った。
このバフが切れる前に、ウルマティアを殺しに行こう。