外伝 25話
門の奥には灰の荒野が広がっていた。
音が消え、命が消えていく灰色の異界。この先は死者たちが住まう場所。この世界と向こう側とを封じていた門は力を失い、今再び二つの世界は繋がった。
『まさか、一人で来るとはね』
次元を一枚隔てたような不思議な声が脳裏に響く。
聞こえるのは声だけだ。まだ姿は見えない。しかしそれは、間違いなく、この場所に顕現していた。
『君のことは知っている。随分と殺しまわってくれたね。死の神として礼を言わせてもらおうか。君のおかげで、僕は目覚めた』
声音はどこまでも冷たく、憎悪に満ちている。それは今、同胞を殺された静かな怒りに満ちている。お前だけは許さない。そんな純粋な殺意を、私に向けていた。
そして、その殺意は。
私がそれに向けているものと、とてもよく似ている。
「やあ、ウルマティア」
これから始まるのは生存競争だ。
決してわかり合うことのない私たちが、互いの存在を許せるはずもない私たちが繰り広げる、命と命の奪い合いだ。
ここに正義はない。ここに理想はない。胸のうちに宿るのは純黒の殺意だけ。
御託はいらない。
「殺しに来たよ」
刃を向ける。
必要なのは、それだけだった。
『僕のことを知っているのか。ご指名頂いたところ悪いけど、君に僕は殺せない』
門の向こう側で無数の気配がうごめく。自然界には存在しない、命に反したおぞましき異形たち。門をくぐって自然界に侵入したそれは、目につくもの全てに襲いかかった。
『君たちはやりすぎた。人類には今一度滅びてもらう。他の神々も今頃十分にわかっていることだろう、人間が生きるに値しない種族だということを』
「【祭囃子】」
ソードダンサーのスキル【祭囃子】。コンボが繋がるほどにダメージ係数が上昇する。
「【血の喝采】【キリングマシーン】【常在戦場】」
ベルセルクの【血の喝采】、敵を殺すと体力が回復するスキル。シャドウエッジの【キリングマシーン】、スタミナの回復量が短期間大幅に向上するスキル。シニガミの【常在戦場】、与えたダメージに応じて各種バフの効果時間が延長するスキル。
「【ラストスタンド】【嵐刃】【神への供物】【エンチャント・マナ】【精霊の魔法陣】」
フォートレスの【ラストスタンド】、周囲に味方がいなければ防御力が上昇するスキル。ストームシューターの【嵐刃】、攻撃範囲が拡大するスキル。パニッシュメントの【神への供物】、倒した相手の死体が消滅するスキル。アークメイジの【エンチャント・マナ】、近接攻撃に魔法属性の追加ダメージを付与するスキル。フェアリーサモナーの【精霊の魔法陣】、自身にかけられた各種バフの効果を増強するスキル。
『君……? 何をしている?』
私めがけて殺到する異形の群れに、体一つで飛び込んだ。
『サン・フォール・ソード』を構える。片手を天に突き上げて、片手を地へと振り下ろす。強く地を蹴り、風を巻き上げながら、刃を回した。
「【千剣万華】」
八百五十六。
それだけの数振るわれた刃は、同じ数だけの殺戮を撒き散らす。折り重なるように切り伏せられた異形たちは、【神への供物】に焼かれて死体も残さずに消えていった。
【血の喝采】の効果で体力は全回復。【常在戦場】も繰り返し発動し、重ねがけしたバフの効果時間は数分単位で延長した。【キリングマシーン】が大量のスタミナを供給するため、大技を放った後でもすぐに行動可能だ。
そして、ソードダンサーの【祭囃子】。コンボを八百五十六まで増やしたことにより、この一瞬でダメージ係数は四倍近くまで跳ね上がった。
「ウルマティア。お前を殺すのは一番最後だ」
なおも湧き出し続ける異形たちを殺し、コンボを伸ばす。
この有象無象の雑魚どもを殺せば殺すほど、私の攻撃力は上がり続ける。怪物たちで築き上げた屍山血河が、神をも殺す刃を作り出してくれる。
こいつを殺すのは、その後だ。
「もっと食わせてよ。こんなんじゃ全然足りない。まだまだいるんでしょ。全部ちょうだい」
門から湧き出る怪物たちを押し返す勢いで虐殺を繰り返す。剣を振れば振るほどに刃は冴え、思考からも無駄が削ぎ落とされていった。
「殺し足りないんだけど」