表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
外伝『まいるら ~本編以上にやりたいほうだい~』
136/144

外伝 21話

 50レベルレイドボス・紅炎の赤龍。こいつは【龍の威】という、自分よりも低レベルの対象に大幅な制限をかけるパッシブスキルを持っていた。

 の子は50レベルのため支障はないが、もしもレベル1でこいつに挑もうとすると、それは大変な苦労をすることになるだろう。そうでなくともこいつは単純に強い。ゲーム内屈指の強敵と呼んで差し支えない相手だった。


「へへ……。なんだか、すっごく怒ってるみたいですね」


 の子は杖を握りしめて舌なめずりする。赤龍を威圧を受けても怯みもしない。むしろ喜んでいるようだった。

 やはりこの女にも、なんだかんだで私と同じバトルジャンキーの血が流れているのだろう。の子は今、心の底からわくわくしていた。


 【吹雪】の連射を受けて赤龍の体力は残り一割。対しての子はまだまだ余力がある。ここまで追い詰めれば、いかにレイドボス相手であろうと勝ち目のない戦いではないだろう。


 の子、やっちゃっていいよ。もう小細工はなしだ。遊んでおいで。


「まってましたっ」


 迷うことなくの子は飛び出す。作業プレイでフラストレーションが溜まっていたようだ。今回はあまり口出しせず、横で見守ることにしよう。


 真っ先に攻撃魔法を放つかと思いきや、の子はまず【氷晶壁】から入った。巨大な氷晶の盾を召喚する氷魔法だ。その裏に隠れて、まずは出方を伺った。思ったよりも冷静である。


「強い敵を相手する時は、まずは動きを見るんだよね」


 うん、それが定石だね。でもそれが通用しない相手もいるよね。

 赤龍が放った紅炎のブレスは氷の壁をやすやすと穿ち貫き、その裏に隠れていたの子に直撃した。吹き飛ばされたの子は岩肌をころころと転がる。体力はざっと七割ほど消し飛んでいた。おそらくバフをもりもりにしていなければ、今ので死んでいただろう。


「聞いて……聞いてないんですけどー!」


 このクラスのボスの大攻撃なんて、基本的に人間が耐えられるものじゃないからなあ。どうしても受けたいならフォートレスの【エレメントブレイク】で属性攻撃力下げて、【フレアシールド】で耐えるといいかもね。


「やだ! の子さんは魔法使いなので!」


 妙なこだわりを持っていらっしゃった。私は勝てればなんでもいいと思うけどなあ。

 体力を回復したの子は【ミストエリア】を発動する。霧を振りまいて姿を隠す水属性魔法だ。相手の攻撃を避ける方向にシフトするのは良い判断だが、赤龍は翼の打ち払いで霧を吹き飛ばしてしまった。


「あーもー! めんどくさいなー!」


 しびれを切らしたの子がぶっ放したのは結局【吹雪】である。目くらましも兼ねた氷属性大魔法。うん、私もそれが手堅いと思う。

 さすがにこれは耐えかねたのか、赤龍は地面に着地した。四肢を踏ん張って燃え盛るブレスをあたり一帯に撒き散らす。運良く直撃を避けたの子は、再度【吹雪】を発動した。


 ねえの子。これだったらさっきと同じじゃない?


「わんわんはだまってて!」


 わんわ……わんわん!? この女、今私のことをわんわんって言いやがったか!?


 なんだか大変不本意な呼ばれ方をされてしまったが、まあよかろう。聞き流すことにしてやる。


 の子が放った【吹雪】は赤龍相手によく刺さっていた。最終的にたどり着く最適解ってやつは、そんなに種類がないのもよくある話だ。の子は赤龍の攻撃を受けたり避けたり回復しながら、【吹雪】をばらまいて着実にダメージを積んでいった。


 の子。そろそろバフ切れるから、かけ直す準備しようか。


「はいな!」


 効果時間が切れそうないくつかのバフを貼り直す。このかちかち防御バフがなければ、もう十回は死んでいる。まあ、そうなる前に私が交代するんだろうけども。


「今日は代わらないからねっ」


 わかったわかった。無理に交代したりしないよ。私だって、下手に交代して一週間眠りにつくのはごめんだ。


 フルバフを身にまとったの子は【氷晶球】を放り投げる。眼前で炸裂した氷の爆弾は、赤龍を大きく仰け反らせた。


「チャンスっ」


 一瞬ストームシューターにクラスチェンジしたの子は、数秒間の移動速度を跳ね上げる【神速】を発動して一気に距離を詰める。赤龍の喉元で静止し、そこに筆記台を設置した。


 ……筆記台? ああ、ひょっとしてあれやるの?


「ひっさつ」


 クラフトウィンドウに大量の素材をぶちこみ、自動クラフトを開始する。急速に製造された大量のアイテムは、の子のインベントリから溢れ出して周囲にふわりと散らばった。

 の子が作ったアイテムは『絶対零度のスクロール』。絶対零度の氷を召喚する攻撃魔法呪文だ。それが、ざっと二十数枚ほど。

 大量の『絶対零度のスクロール』を、の子は赤龍の喉元で同時に起動した。


「めっちゃ冷たいのいっぱい投げるパーンチ!」


 生成された氷塊は、次々に赤龍の体を貫いた。

 折り重なって詠唱された氷塊は、赤龍の体を凍てつかせて巨大なオブジェへと姿を変える。極度に冷凍された氷は周囲の大気すらも凍てつかせ、白く濁った煙を撒き散らした。


 技の名前はどうあれ、さすがにこれは効いたらしい。氷塊に閉じ込められた赤龍に脱出する術はなく、氷の中で残り僅かな体力を散らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ