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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
外伝『まいるら ~本編以上にやりたいほうだい~』
132/144

外伝 17話

 それから数日で、攻略はまたたく間に進展した。

 まず、攻略組の連中が真っ先にカンストした。恐ろしいほどの速さだった。私たちから船を受け取った彼らは、その足で大海原へと漕ぎ出した。それから二日間、昼夜を問わず虐殺を続けた彼らは、揃って上限である50レベルに達して帰還した。


 なお、ご機嫌なお帰りという様子はではなかった。全員揃って仏頂面で、何一つ言葉を発することなく帰ってきた。まあ、狭苦しい船内で延々とタウントスキル打ち続ける作業を二日間も続ければこうなるだろう。


「殺し合いにならなくてよかったねー」


 その報告を受けた時、我らがの子さんはにこにこと笑いながらそんなことをのたまった。こええよ。

 ちなみに風のうわさで聞いたのだが、タウントスキルに頼らず単騎で幽霊船を破壊しまわっていた馬鹿どもが四人ほどいたらしい。水面を歩く技を編み出して、縦横無尽に嵐の海を駆け回って大暴れしていたとかなんとか。不思議と誰のことを指しているのかわかった気がしたが、シンプルに関わりたくないなと思った。


 なお、【職連】の方は私たちが供与した船を改装して簡易的な生産設備を増設してから海に向かった。攻略組のアホどもよりは文字通り生産的なことをできただろう。

 私たち【財団】も幽霊船レベリングを続け、ほとんどの職員がカンストに達している。私もしっかりカンスト済みだ。基礎ステータスが伸びたほか、レベルによって習得できるスキルも一通り覚えられた。


 しかし良いことばかりではない。普通なら順番に覚えるはずのスキルを急速な育成でまとめて覚えてしまったせいで、財団職員のプレイヤースキルが間に合っていないのだ。

 今の【財団】は、レベルだけ高くとも装備も技術も間に合っていない烏合の衆と呼んで差し支えない。レベルに驕って無理に高難易度マップに行ったりしないよう、の子は何度も注意を促していた。


「みんな、よわっちいからね。死にたくなければ言うこときいてね」


 純然たる善意から繰り出されるこの言い方である。ちなみに職員の皆様は喜んでいた。どうして喜んでいるかは深く考えないことにした。世界って広い。


 そんなわけでカンストしたプレイヤーたちはレベルに見合った装備を求めていた。攻略組がいくらか素材を持ち帰ってきているが、【財団】と【職連】の構成員を賄うほどの量はない。

 とにかく大量の素材を集める必要がある。その手のことは、人数だけは無駄にいる【財団】の最も得意とするところであった。


「おーっし。今回の作戦を説明するぞー」


 ジョン・ドゥが手を叩いて衆目を集める。財団本部と化したアトリエの会議場に、大量のプレイヤーがぎゅうぎゅうに詰めていた。

 彼らは今回の作戦に志願したエージェント。財団職員の中でもいち早くカンストし、前線に出ることを比較的拒まない戦闘職。烏合の衆たる【財団】では比較的プレイヤースキルを持つ連中だ。


「今回俺たちは水晶のほら穴へと遠征に行く。目的は言うまでもないが、当該マップで採掘できる各種素材の獲得だ。『青水晶』や『赤水晶』なんかだな。レアアイテムとして『黒水晶』なんかもたまに掘れるらしいが、今回は品質はそこまで気にしなくていい。求められるのは量だ。とにかく掘りまくれ」


 水晶素材から作られる各種装備は、比較的ローコストで量産できる特徴を持つ。防御力こそそこそこだが、各種属性防御力は極めて高い。属性攻撃が強力な高レベル帯でも、それなりに通用する優秀な装備だ。


 とは言え、防御力以外の面は貧弱の一言である。状態異常耐性はなく、火力を底上げできるような特殊効果も乗っていない。高レベル帯に行くまでの繋ぎとしては優秀な装備だが、最終装備には物足りない。


「続いて安全面についてだ。水晶洞窟は本来なら38レベル前後で訪れるマップだ。順当に行けばカンストしている俺たちの敵じゃないが、そうは言っても練度も装備も足りてない。絶対に安全とは言えない。そのためにこの人数で行く」


 攻略組基準で言うならば、別に1レベルだろうとも烈火山洞窟くらいなら単騎で駆け抜けられると思うが、彼らに同じことを求めるというのも酷だろう。ゆえに、五人組のフルパーティを複数編成することにした。これだけの人数でいけばさすがに大丈夫……だといいなあ。


「なお、本作戦で戦力の拡充に成功した後、俺たちはさらなる深層のマップへと潜る。行き先はその都度指定するが、最終目的地は烈火山洞窟・下層だ。作戦期間は数日間にわたるだろう。ぶっ続けの行動になる。覚悟しておけ」


 ぶっ続けとは言うが、休憩時間も織り込んだ人道的なスケジュールである。最初は仮眠を二時間も取れば十分だろうと思っていたが、ジョン・ドゥに指摘を受けたことで自由休憩となった。彼らは二十四時間戦えないらしい。残念だ。


「これだけの長期間となると、いちいち帰るのも手間になる。なので今回は【生産職職人連合】の協力を得てベースキャンプを設立することにした。洞窟入り口まで戻れば、寝床も補給もなんでもあると思ってくれ。なんなら装備だって現地で作ってもらえるぞ」


 今回は【職連】とも業務提携をしている。私たちが素材採集を引き受ける代わりに、彼らにはバックアップをしてもらうことになっていた。

 【財団】は探索効率を上げられて、【職連】は私たちという太い顧客と専属契約を得られる。どちらかと言えば【職連】有利の契約だが、そこはいつもの投資ってやつだ。今回の作戦で【職連】の職人たちに熟練度を稼いでもらえば、攻略組向けの高品質な装備も作れるようになるだろう。


「以上。何か質問は」

「あの……」


 一人のエージェントがおずおずと手を挙げる。ジョン・ドゥは顎で発言を促した。


「掲示されていた班分けによると、討伐班というものがありましたが」

「ああ、魔物討伐を担う専門班だな。素材採集をせずにひたすら敵を狩り、安全確保と魔物素材の回収を担う班だ。それがどうかしたか?」

「……討伐班の構成員が、五人しかいないように見えましたが。これは何かの間違いではありませんか?」


 ああ、うん。それね。やっぱり気になるよね。

 当初の予定では、討伐班に振り分けるのは一人だけの予定だった。しかしそれでは危険すぎると、ジョン・ドゥの猛反対にあったのだ。そんなわけで、残念ながら五人もの人材を討伐班に振り分けることになってしまった。


「と言ってるが、の子。どう思う?」

「んー」


 相変わらずジョン・ドゥは嫌そうだった。お願いだからやめてくれと。だけど私は、この班にそんなに人数を割いても仕方ないと思うのだ。


「私は、一人でも十分だと思うよ?」


 表紙の子。本作戦では、討伐班の班長を担う女である。

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[良い点] 死にたくなければ言うこときいてね ← ハイ喜んで! 嵐の中暴れまわるとかやっぱ人間じゃねぇな(諦観 ラストワンもの子もナチュラルボーンサイコパスで好き。 [一言] 正直二年ぐらい更新ないも…
[良い点] 3行で完璧に理解できる説明がありながら、補填としての説明の追加ありがとうございます。 [一言] の子さん一人の方が幸運値が高い気がするし実質一人の方が彼女は強いのでは(?_?)
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