外伝 16話
■本編のあらすじ
一周目にて攻略に失敗した主人公は、怨敵となるウルマティアを殺すために手段を選ばずに攻略を推し進めた。
しかしほんの僅かな計算外により復讐は失敗し、二度目の死を迎える。その後神々の意図により三度目の生を与えられ、この世界がゲームではなく現実そのものだということに気がつく。
世界をゲームだと信じて攻略を進めるプレイヤーと、プレイヤーの蛮行に対応を決めかねる神々の間を取り持ち、主人公はデスゲームを終わらせた。
■外伝のあらすじ
上記本編のifストーリー。もしも主人公が殺意に満ち溢れた瞳の狂人ではなく、書籍版表紙絵そのままの目がキラッキラした純真少女だったらの話。
なぜか表紙の子なる正体不明の女に体を乗っ取られたラストワンは、それでもウルマティアを殺すべく攻略を推し進めようとする。
しかしこのの子という女、本編主人公のラストワンよりも百倍は運がよかった。
の子の強運により石油を掘り当て、それを基金として互助組合である【生存財団】を設立。【財団】の力を使って船を建造し、の子たちはシステムの穴を突いた幽霊船狩りを画策する。
幽霊船狩りの途中、の子は自由にクラスチェンジができるアイテム『全能石』を手に入れた。『全能石』の力を使ってボスモンスターを打破。その際一時的にラストワンは体の主導権を取り戻したが、代償として一週間の眠りについてしまった。
ラストワンが目を覚ました後、【財団】は幽霊船レベリングの手法をどこまで外部プレイヤーに公開するかの選択を迫られる。の子は、【財団】の優位性を捨ててでも全てのプレイヤーに対して無償で公開することを提案した。
目的は全てのプレイヤーのカンスト。その先にある『せかいせーふく』の第一歩であった。
私たちはの子の提案に乗った。
全てのプレイヤーをカンストさせる。そのために、私たちは自分たちの利を捨てる。つまりはそういう決断だ。
そんなことをすればこの世界は大きく変わる。全てのプレイヤーが力を持った混沌の世界。モンスターを狩るのも、素材を根こそぎにするのも、全ては私たちの思うがままだ。
考えるまでもなく、私たちプレイヤーにとっては望ましい状況だ。プレイヤーが力を持てば、攻略速度は飛躍的に上昇し死人の数もぐっと減る。PKがない以上、事実上人類の障害はなくなるも同然だ。
それはいいことだ。とてもいいことだ。そのはずだ。
なのに。
それが、取り返しのつかない判断のように思えてならないのだ。
「ラストワン? また考え込んでるけど、どうしたの? なにか気になる?」
……いや。なんでもないよ、の子。気にしないで。
胸に渦巻く理解しがたい懸念を押し殺す。私はあいつを殺すことだけを考えよう。この世界はゲームであり、ここに息づくモノはどれほどリアルであろうと作り物だ。
命ではないものを壊すのに、躊躇う必要なんてない。
「いいんだよ、ラストワン。これはせかいせーふくなんだから」
の子は鼻歌を歌いながら、アトリエの自室でお手紙を書いていた。
私たちは幽霊船レベリングを全プレイヤーに解放すると決めたが、いきなり全員を海に連れて行くには船が足りない。そこで最初は対象を絞ることにした。
選別の基準は、プレイヤーに対してどれほど有益であるかだ。手にした力を内輪のためにしか使わないプレイヤーよりも、他人のために積極的に還元できるプレイヤーの方が望ましい。シビアな話だが、限られたリソースを誰彼構わず与えることはできない。畑の時とは状況が違う。
そんなわけで第一陣は攻略組と【生産職職人連合】と協力することにした。向こうからの要請に答えた形にはなるが、私たちとしても異論はない。
の子が書いているのはそのための招待状だ。個人チャット一本飛ばせば済む話だが、の子は手紙がいいらしい。あざといやつだ。
「でもさ、ラストワン。本当にこのお願いでいいの?」
手紙をしたためながら、の子は再三となる確認をする。
攻略組と【職連】に対して、私たちはレベリング手法の公開及び中型船舶二隻を贈与する。もちろんタダというわけではない。見返りとして、【職連】には錬金術の技術交換を求めた。
これは技術交換という体裁だが、事実上の引き抜きである。私たち【財団】は人海戦術による消耗品の量産を目指している。【職連】の錬金術師たちとかち合うのはあまり望ましくない展開だ。彼らとの関係性にヒビが入る前に、私たちにとって有利な形で棲み分けをしておこうという目論見があった。
もちろん、【財団】はワンオフ品となる武具の製造に手を出すつもりはないので、【職連】にはそちらの方面で活躍してもらいたい。
一方、攻略組に対しての要求は指定箇所の調査である。秘密の花園や烈火山洞窟など、私たちが指定したいくつかの地点の調査を要求した。
これらの箇所には有益な素材があり、近い内に【財団】職員で素材回収を行う予定がある。その前に、攻略組の連中に探索を済ませてもらいたいという目論見だ。早い話が攻略を兼ねた露払いである。
だけど、本当の目的は攻略組の目を世界樹の森から背けることにある。
世界樹の森のボスモンスター、大自然のクリスタル。あれを討伐してしまうと攻略が大きく進展してしまう。それはもう少し待ってほしかった。
「えーと……。なんで? 進めたほうがいいんじゃないの?」
いいや、このペースだと攻略が速すぎるんだ。私たちはまだ『アムリタ』しか作ってない。こんな状況で攻略を進めてしまうと、やがて来るラインフォートレス防衛戦で私たちは甚大な被害を受けることになる。
「あー。むずかしいんだねぇ」
半分くらいわかってなさそうだった。まあ、いいよ。こういうのは私の担当だ。