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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
外伝『まいるら ~本編以上にやりたいほうだい~』
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外伝 10話

 嵐のど真ん中にたどり着く頃には、エージェントは二人まで減っていた。

 脱落した四人はちゃんと街に帰れただろうか。まあ、ゆっくり休んでいて欲しい。怖いなら怖いで良いんだ。

 の子、後でケアしとくんだよ。心ってのはポーションじゃ治らないからね。


「今日のラストワン、なんだか優しいね」


 いやだって、一般プレイヤーを攻略組のレベリングルートにぶちこんだ上、の子さんが暴君モードに入ってたら私もさすがに悪いなって思うよ。ストッパー皆無じゃん。この私を良心サイドに叩き落とすとか、11章分くらいの紆余曲折がないと難しいぞ。


 ともあれ捜し物は見つけた。見つかった。見つけてしまった。

 嵐の中で遠くに揺れるのは、見上げるほどもある巨大な船。朽ちた船体にボロボロの帆を張った古びた船。


 幽霊船。

 あれが、私たちの目当てのものだ。


「先に言っとくね。これから戦闘が始まる。そしたらもう、逃げられない」


 の子が宣言する。戦闘中でも帰還できるアイテム『帰還のロザリオ』は、私たちは用意していない。


「帰りたいなら帰っても良い。私は止めないよ」

「……僕らが帰ったら、の子さんは、どうするんですか」

「どうもしないよ。帰って、また次のを連れてくるだけ」


 もっとも、多少の改善は必要だと思っている。ここまで脱落者が多いのは正直想定外だ。

 もっと大型の船を建造してからやるべきだったか。いやでも、攻略組の奴らはボートサイズの船でもモノともしなかったからなぁ。一般プレイヤーの感覚は正直よくわからん。


「俺、行きます」


 一人のエージェントが強く宣言した。


「の子さんのためなら、嵐だろうと、なんだろうと、やってみせます。ここで死んだって悔いはない」


 そこは悔いてほしい。の子の何がそこまでお前を駆り立てるんだ。あのな、私たちほとんど他人だぞ。自分の命を一番大事にしてほしい。

 ……なんで私が良心サイドに居るんだろう。嵐の中での子さんが暴君になって以来、どうにも調子が出なかった。


「良い返事だ。私に捧げた命、悔いなく使い果たしてあげるからね」

「の子さん……!」


 あー、うん。もういいや。の子が楽しそうで何よりだよ。

 ちなみにもう一人のエージェントは、「こいつまじかよ……」って顔をしていた。それでも帰ろうとはしなかった。空気に流されて、気がついたらずるずると大変なところまで行っちゃうタイプだった。かわいそうに。


「ジョン・ドゥは? どうする?」

「ここまで来といて、帰れるわけねーだろ……! ずっとわくわくしてんだ! これから何が起こるんだってなァ!」


 ジョン・ドゥは恐怖をテンションで乗り切ることにしたらしい。無茶すんなよ。

 まあ、そんなわけで。


「始めよっか」


 四人でパーティを組み直し、ぱすっと『閃光弾』を放つ。

 光が炸裂し、嵐の中に佇む巨大な船が私たちに気がついた。

 ギィギィと軋ませながら、幽霊船はゆっくりと回頭。私たちのカッターに矛先を向ける。


 戦闘開始、の前に、私が入れ知恵したの子さんのレクチャーが入る。


「えーっとね。あれは幽霊船っていう特殊なモンスターで、大きな船の中にアンデッドモンスターがたくさん居るらしいよ。一体一体のレベルが40くらいあって、しかも船の設備を利用して攻撃してくるから、すっごく強いんだって」

「……おい、の子。それどうやって勝つんだ。俺ら4人しかいないぞ」


 しかもレベルは全員一桁だ。正攻法では絶対に倒せない。

 ただ、まあ。これだけ荒れた環境の中に居るのに、正攻法なんてものに頼るはずもなかった。


「えーくん、びーくん。タウントスキルは覚えてきたよね?」

「えーく……俺ですか?」「びーくん!? びーくん!!??」

「うん。いっちゃんと、にーちゃんでもいいよ?」


 の子さん、名前を覚える気は皆無だった。いっそ潔さすらあった。さすがは私だ。


「ほらほら、使って使って」

「へ、え、え!? 俺ら死にますよ!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。だいじょーぶだから」

「絶対やばい……絶対やばい……絶対やばい……!」


 今更後悔しようともう帰れない。意を決して、二人のエージェントはスキルを発動した。

 タウントスキル。いろんなゲームでよく見る、自らで敵意を引き受けるスキルだ。別に彼らを盾として使おうとは思っていない。そもそも彼らのレベルではダメージを引き受けることなど叶わない。

 目的はタンクではなく、タウントスキルそのものにある。


「……?」


 ぽちゃりと、人影のようなものが、幽霊船から飛び降りたように見えた。

 この嵐の中だ。見間違いと思うかもしれない。だが、間髪入れず私たちに流れ込んだ経験値が、その現象を裏付ける。


「今……何が起こった……?」

「なんかめっちゃ経験値入ったんだけど、どういうこと……?」

「早く早く、次のタウント。どんどん回してよ」


 の子が急かすと再びタウントスキルが発動する。ぽちゃり、ぽちゃり。幽霊船から2つの人影が落下して、大きな経験値が流れ込んだ。

 まあ、その、なんだ。一言で言っちゃうと。

 このゲームのタウントスキルって、例に漏れずぶっ壊れてるんだよ。


「まさか、タウントスキルでAIを上書きしているのか!?」


 感づいたジョン・ドゥが叫ぶ。そのとおりです。

 タウントスキルをかけられた相手は、スキル使用者に対して強烈に誘引される。平地ならば攻撃の誘導として機能するが、この特殊な状況下では話は別だ。


 つまり。幽霊船を動かしていたアンデッドモンスターたちは、タウントスキルにかけられると、使用者目掛けてまっすぐ攻撃しようとして、自ら海に飛び込む。

 それから荒れ狂う波にミキサーされる。ぐちゃぐちゃになって死ぬのだ。


「オペレーション・海魔セイレーン! 一匹残らず、海の藻屑にしちゃうよ!」


 響き渡るタウントスキルの野太い声が、一人二人とアンデッドたちを海の藻屑へと変えていく。どちらが海魔セイレーンなのかは言うまでもないだろう。

 遅い幽霊船をカッターの足で撒きながら、じわじわと船員を奈落へと突き落としていく。やがて船が完全に沈黙するまで、ものの五分とかからなかった。

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