外伝 8話
かくして、私たちはギルド【生存財団】を設立した。ギルドマスターはの子、サブマスターはジョン・ドゥだ。
集団が持つ膨大なマンパワーを、自分の指揮で動かせるんだ。もちろんジョン・ドゥの存在を無視できないという制約はあるけれど、私たちは個人で動いていた時に比べて破格の影響力を手にした。
「えっとね、戦闘をする人と内政をする人に分かれてほしいの。どっちがいいかは好きに選んでいいけど、具体的に何をするかはこっちで決めさせてもらっていいかな。ごめんね?」
「指揮下に入る以上、自由なプレイは基本的に認められない。お前らのプレイ時間をの子に捧げろ。好きにゲームがやりたいやつは他所に行け」
「もちろん皆の人生を預かるんだから、不自由しなくなるくらいのお給料は出すよ。福利厚生? ってやつも、今はまだだけど、これから頑張るから」
ゲームにおける一般的なギルドとは、あくまでもプレイヤーの寄り合い所的な意味合いが強い。似たようなプレイスタイルのプレイヤーが自然と集まり、和気あいあいとする交流の場だ。
しかし、私たちが目指す集団は違う。明確な目的を掲げてその達成を第一とする。そのためには個々の自由を大きく束縛し、集団のために時にはプレイスタイルすら強制する。
言っちゃえば会社のようなものだ。VRMMOで会社経営。ファンタジーなゲームだと言うのに、最低に夢の無いプレイングだった。
「内政する人たちは、とりあえず農業部・釣り部・錬金部の3つに分かれてね。他の部もゆくゆくは作りたいけど、今はみんなで『アムリタ』をいっぱい作ろう!」
「成績の良い奴は後日設立する各部署に随時引き抜く予定だ。当然だが、待遇も上がるぞ。各自の奮闘を期待する」
初手『アムリタ』量産は鉄板。の子一人でも相当の量を供給していたが、ここまで大規模にやればポーション問題は一撃で解決するだろう。
『アムリタ』はペニシリン級ポーションと呼ばれるくらい、極めて優秀なポーションだ。安価に量産が可能で、カンストしてもお世話になるほど回復量が大きい。これさえ持っておけば、死のリスクが大きく下げられる。
ただ、の子はそれだけでは満足しないらしい。死者を完全にゼロにするのがの子の目的だ。私だったら、『アムリタ』ばら撒いたくらいで費用対効果的に満足するんだけど。
「戦闘をしたい人は、今はお願いすることが無いから経験値を稼いでね。絶対に死なないように、慎重にやるんだよ。誰一人だって欠けちゃダメなんだから」
「このギルドに属した以上、お前らの命は既にの子のものだ。勝手な死亡は謹んでもらおうか」
「ポーションは財団からたくさん支給するから、危なくなったらすぐに使うんだよ」
戦闘部にはパーティを組める環境とポーションの援助が用意される。
今はまだポーションだけだけど、『アムリタ』の製造が一段落してきたら鍛冶班を新設して装備の援助も行いたい。【生産職職人連合】の方が育っていたら、そちらと業務提携するのも良いだろう。
ただ、それをするには課題がある。
「それでね、ジョン・ドゥ。もっともっといっぱいいっぱいやりたい事があるの」
「分かってる、金が足りないんだろ。油田は無限に金を吐き出す施設だが、本格的に手を広げるには時間辺りの供給量が足りてねえ」
「うん、たぶん、そんな感じ」
私が計算したんだから合ってるよ。自信持って、の子。
「無論『アムリタ』の販売でいくらか利益を出すつもりだが……。なあの子、値上げしないか? 言っちゃなんだが、『アムリタ』に適正価格をつければ相当稼げるぞ?」
「それはダメ! 『アムリタ』は一本300ゴールド! 値段をあげちゃったら、魅力も半減、なんだって!」
「お前のそのちょいちょい挟む伝聞形はなんなんだよ」
私の入れ知恵です。気にすんなよ、ジョン。
「金策、ねえ……。色々ありすぎて忘れてるかもしれんが、まだゲームが始まって一週間だからなあ。効率の良い金策知ってるやつなんて、そうそう居ないぞ」
いるんだよなー、ここに。
金策手段は色々あるけど、烈火山洞窟・下層にいって『宝石の原石』を掘りまくるのが最高効率だろう。
あの場所は危険すぎて単独行動は余程の手練でもない限りオススメしないが、これだけの集団が居るならどうとでもなる。
『宝石の原石』もかなりドロップ率は渋いが、そこもマンパワーで解決できる。人の数とは力なのだ。
「あのね、みんなで先のマップに進もう。そうしたらきっと、いっぱい稼げるから」
そういうこと。の子さんはとぼけてるようで、私が一番言いたいことはちゃんと掴んでくれるから好き。
「……確かに、終盤の方が稼ぎやすいってのは定石だ。だが、いくらなんでもリスクがでかすぎる。賛同しかねるな」
「もちろん、みんなでいっぱい経験値を稼いで、強くなってから安全に行くよ」
「レベリングをするのか? まあ、兵隊を持っておいて損は無いが……。随分と気の長い計画だな」
って思うじゃん。
でもね、の子に入れ知恵しているのは何を隠そうこの私。元攻略組のラストワン。レベリングのハウツーならいくらでも知っている。
今の攻略組のペースがどれほどかは知らないが、一周目と同じならカンストまで一ヶ月はかかるだろう。それでもぶっちぎりで速い速度だ。
しかし、私に言わせればそれすらも遅すぎる。なにせ彼らは美味い狩場の情報収集から始めているんだから。
どこで狩れば最速か、全てを知り尽くした私がの子のセコンドについている。
一週間だ。それだけあれば、カンストするには十分すぎる。
「だから、船を作ろう」
「船? 船がどうしたって言うんだ?」
「レベリングするために、要るの」
「待て、良くわからなくなってきた。最初から説明しろ」
混乱するジョン・ドゥに、の子が畳み掛ける。
「人をいっぱい助けたくて、そのためにはお金がもっと必要で、お金を稼ぐために終盤のマップに行きたいの。それでね、終盤のマップを安全に歩くためには高いレベルが必要だから、レベルを上げるために船を作ろう」
「最後がおかしい」
「おかしくないよ?」
おかしくないんだよなあ。
攻略組が導き出した、最速レベリングの方程式がそこに集約されている。
カンストを目指して地道に狩っていたあの頃の私たちは、極めて大切なことを失念していたんだ。
このゲームは、徹頭徹尾バグまみれだってことを。
ご無沙汰しております。
不定期ですが気まぐれに動かしていきます。気が向いたら書いておりますので、次回更新は未定です。