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Myrla ~VRMMOでやりたいほうだい~  作者: 佐藤悪糖
DLC1章 こんなんだからクソゲーって言われんだよ
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DLC1章 7話

「ジミコ、カモン」

「呼んだ?」


 すたっと忍者が現れる。試しに呼んだら本当に来た。呼んどいてなんだけど、かくいう私も驚いた。


「いつからそこに……」

「病めるときも健やかなるときも」

「お側にいなくていいですよ」


 なんとなく視線は感じてたけど、四六時中張り付かれるのはちょっと怖い。知ってるかジミコ、そういうの外の世界だとストーカーって言うんだぞ。


「あるプレイヤーを探して欲しいの。職連の山田さんって人なんだけど、知ってる?」

「当然。渦中の人。別カメで追跡中」

「別カメって?」

「あっちゃん」


 誰だよ。


「ごめん今なんて?」

「あっちゃんが追ってる。通信機、使う?」

「急に新キャラが出てきた」

「酷い。あっちゃんかわいそう」


 文脈から察するに朝日ちゃんのことなんだと思うけど、そうじゃなくて、色々突っ込みたい。これ突っ込んでも良いんだろうか。


「フランクすぎて戸惑うよジミコさん。昔のサイレントミステリアスビューティーは何処に行ったんだ。もう少し自分のキャラを大切にしろって言うか、いつからあだ名で呼ぶ仲になったのずるい私もあっちゃんって呼びたい」

「呼べばいいよ、みーちゃん」

「みーちゃん!」


 みーちゃん。みーちゃん、みーちゃんか……。

 まーた私に呼び名が増えた。どうしてくれるんだよもう、まったく。みーちゃんなんてあだ名付けたって絶対普及しないぞ。まだらーなんとかさんの方が私の代名詞としては市民権得てるんじゃないか。

 以上のことを総合的に判断してみーちゃん呼びを許可しましょう。ジミコだけだからね。


「こんなに嬉しそうな運営さんはじめて見ました」

「あの人、色々終わってからチョロい。やる時しかやらないタイプ」

「ああ、道理で最近失策が目立つんですね」


 リースとジミコの評価はあえて無視した。こほんと咳払いをひとつ。緩む口の端を毅然と律し、世界の管理者としての威厳を取り戻す。


「山田さんはあっちゃ――朝日ちゃんが追ってるんだね。じゃ、そっちと合流して首根っこを抑えに行こう」

「照れた」

「照れましたね」

「帰って寝る。おやすみ」


 半ば本気で踵を返す。(照れることないっすよ)って顔のヘラクレスを次元の狭間に蹴り返し、マスタールームの扉を開ける。


「あっ」

「……あ」


 職連店舗の中に、ひとりのプレイヤーの姿を認める。彼と目が合うのもつかの間、私はすぐに扉を閉めた。くるっとUターンして部屋の中に戻る。

 ジミコはいつもの無表情で、リースはどこか楽しそうに、私を見ていた。


「……うるさいな」

「何も言ってない」

「彼、話したがってましたよ。どうしたんですか? あなたらしくもない」


 なんかあれだよね。いたたまれない気持ちになる相手って、いると思うんだ。

 たとえばいつかの再会を願った相手が、次の日平然とログインしてきた時とかね。なんていうか、どう声をかけていいか分かんないよね。私は今でも分かんないよ。


「……その話は今はいいでしょ。それより山田さんのことだ」

「運営さんって人間なんですね」

「みーちゃん、かわいいよ。たまに」

「本気で帰るぞあほんだら」


 真面目にやれ真面目に。緊急事態なの。ちゃんと危機感を持ってください。

 インベントリ代わりに持ち歩いているポシェットから『通信機』を引っ張り出し、朝日ちゃんをコールする。私や朝日ちゃんのような生身組はチャットが使えないため、代用手段として使っているのがこれだ。

 アンテナなんて設置できないからもっぱら無線通話なんだけど、朝日ちゃんの知識と私の技術が組み合わさってとんでもない代物になっていた。なんでも本来宇宙空間上にしか存在しない次元をいくつか引っ張ってきて、3次元的な制約を無視しているらしい。作った私も原理はよく分かってない。


「朝日ちゃん、聞こえる? 私だよ」

『ロロロロロロロロロロロロロロロロロロ』

「間違えました」


 通話を切ってかけ直す。この電話たまーに謎の音声に繋がるんだよね。広大な空間に広がる残響音とか、何かの無機質な動作音とか、エンジンの稼働音とか。

 朝日ちゃんはそういう音声大好きで、いつどんな音が聞こえたか逐一メモしてる。さっき聞こえた何かの鳴き声みたいなのも後で教えておこう。


『――こちら『研究室』所長代理、地球人の遠野朝日です! 当種族は文明的な断裂により翻訳機を喪失しているため地球言語にて失礼します! 星間連邦の近況と、銀河の汚染度を教えていただけますか!?』

「何言ってんの朝日ちゃん。私だよ」

『……なんだ、あなたですか。びっくりさせないでくださいよ』


 ものすごく落ち込んだ声だった。彼女、一体何と戦ってるんだ。

 朝日ちゃんはたまに空の遠くを睨むクセがある。一度「空が落ちた」と漏らしたことがあったけど、その意味は教えてくれなかった。


『余剰次元に有機的なゆらぎを観測したのでもしやと思いましたが……』

「スケールが大きすぎてよくわかんない。あ、そう言えばさっきこの電話から、なんかの鳴き声みたいなの聞こえたよ。ロロロロロって言ってた」

『急用ができました。失礼します』


 通信が切れるまでコンマ数秒のラグすら無かった。あっちゃんってば冷たい。


「……頼みの綱が切れたんだけど。どうするの、ジミコ」

「宇宙行くの?」

「お酒を潰すの」


 スペーシーなことはあちらに任せる。私たちはアルコールの話をしよう。

 宇宙かー。このお空の上に何があるんだろう。今度朝日ちゃんに何と戦ってるのか聞いてみようかな。


「探してくる」


 そう言ってジミコは消えた。フレームの隙間に抜け落ちたように、気がついたときにはもう消えていた。


「私も行ってくるよ。リースは?」

「お手伝いしたいのは山々なのですが、ここ数日の穴を埋めないとそろそろヤバくて……」

「……私が言うのもなんだけど、ゲームなんだから楽しんだほうがいいと思う」

「ギルド運営しないと……。山田さんが抜けた今、私がいないとこのギルドは回らないんです……」


 デスゲームから解放されてなお、リースは大変そうだった。この人本当に損な性格してらっしゃる……。

 リースちゃんにこれ以上負担をかけたくないし、ここから先は自力でなんとかしよう。ありがとうリース、山田さんの首を獲ったら戻ってくるから、それまで待っててね。

 見送る彼女に振り向くこともなく、私は窓からこっそりと出ていった。

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