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CMSの地下牢から

「ルーク・クロムエル。貴方に懲役十年と魔法使用禁止令発令の処罰を下します」


ひんやりとした空気が頬を撫で、高揚のない議長の声が部屋に響く。

裁判を見ていた役人達はごくりと唾を飲み込んだ。議長の机には"CMS(中央魔法管理局)"の文字。


「…どうして……」


絶望に満ちた男の小さな呟きも、議会室の中では何倍にも大きな音で反響し、自分に返ってくる。


ルーク・クロムエル。彼は世界中を旅するシーカー(探求者)だった。

非道な行いを繰り返す闇の魔術師を捕らえる為に、闇魔術に対抗できる呪文を創り出そうと、闇魔術を研究し、時には実験の為に闇魔術を使用し、呪文の効果を試した。

彼の研究は、着実に成果を成してきていた。


しかし、そんな彼に下された罰は、魔法使用禁止令の発令。

この令を発令された者は永久に魔法を使う事を許されない。

つまり彼の研究は終わったも同然だった。

厳しい現実が、重くルークに伸し掛る。


「……」


予想していたよりもずっと重い刑になった事に、驚きを隠せないという顔をしている彼女はルークを此処に連れてきた張本人、CMS刑法執行部所属のイヴ・シャトルーズだった。

闇魔術を使用しているルークを偶然発見し、此処CMSに連れてきた。


「貴方も良く分かっているでしょう。どんな理由があろうと闇魔術の使用には重い刑罰が科せられると」


魔法で議長に心を読まれ、少しどきりとする。その通りだった。魔法法は絶対。特に命を奪いかねない闇魔術についての法律はとても厳しいのだ。


「ルーク・クロムエルを牢へ連れて行きなさい。シャトルーズ」


「はい」


厳しく、威圧感のある声で議長に言われ、思わず身が竦む。座り込んで俯いていたルークを無理矢理立ち上がらせると腕を掴み、無理矢理引っ張りながら二人は議会室から出た。


イヴはルークの腕を掴み足早に地下牢へと向かう。時々ルークの様子を見ようと後ろを見ても、俯いていて表情は見えなかった。



早足で地下牢へと向かう彼女を見て、ルークは恐る恐るイヴに尋ねる。足音だけが淡々と響いていた廊下に、ルークの声が混ざる。


「…アリアは」


アリアとは、ルークが連れていた魔法生物の事である。捕まった時に、別の場所に連れて行かれたのだ。


「魔法生物管理部で危険かどうか調べられているわ」


「…あの子は危険じゃない。だから殺すのだけは…」


と言っている内に、地下牢へと着いた。随分と寒くて空気は冷たく、囚人達も皆黙っていた。沈黙の中に、キイイ、と鉄の扉が開く音が響く。

ルークはその中に大人しく入り、イヴを一瞥した。


「……伝えておくわ」


ガタン、と鉄の扉が閉められた。









あれから1日が経った。

監獄食がとても不味くて、食べたくなかったけれど無理矢理喉に押し込んだ。

ベッドに座り込んでいる内に時は過ぎ、外は暗くなっていた。


その時、遠くから足音が聞こえてきた。

音が良く響く構造になっている為か、遠くの音もよく聞こえる。


足音を聞いた看守が立ち上がって、やって来た来客に歩み寄る。


「ルーク・クロムエルは居る?」

「ああ」


イヴの声だった。


「先程決まった事だけれど、彼はアルテミス送りになったわ。議長の判断よ」


監獄内全体が騒ついた。

アルテミス大監獄は脱出不可能と言われる世界一の監獄。重罪を犯した者だけがそこに送られ、酷い労働をさせられるそうだ。


「では、書類を…」

「時間が無いの。アルテミス行きの監獄船が7時15分に出るから。書類は彼を送ってから書くわ、いいわね?」


「…了解。鍵を持ってくる」


と看守は監獄の奥に消えていった。


「…イヴ」

「黙ってて」


強い口調で言われ、ルークは苦笑を漏らしながら口を閉じた。未だ騒つく囚人達の声が闇の中に響いている。


看守がジャラジャラと音を立てながら走って来た。ルークの監獄の前で止まると鍵を開け、鉄の重い扉を開ける。


「出ろ」

「……」


ゆっくりと牢から出て、冷たく厳しい目でその姿を看守が見る。体を押されイヴの隣につけられると、看守は用は済んだ、と言うように監獄の闇に消えていった。


「行くわよ。下を向いて早く歩いて」


とイヴは歩を進め始める。

何時も早足な彼女だけど、今日は走っているんじゃないか、と思うほど早足だった。

ルークは大人しく下を向いて、イヴに着いて行く。


CMS館内を歩いて、辿り着いたのは地下。

獣の様な、咆哮が聞こえてくる。

更に階段を降りると、その咆哮はとても近くなった。暗闇の中眼を凝らすと、見た事もないような魔法生物達が其々大きな檻に入れられていた。


檻に沿って歩いていくと、聞き慣れた鳴き声が耳を打つ。

辺りを見回すと、其処にはとても大きな檻に入れられている小鳥、アリアが居た。


イヴはアリアを檻から出して、コートのポケットに入れた。中でばたばたアリアが暴れているのが分かる。


「アリアもアルテミスに…?」

「ええ」


噂程度だが聞いたことがあった。危険な魔法生物はアルテミスに送られると。

最悪だ。アリアまで巻き込んでしまうなんて。捕まる直前に逃してあげられてたら…、とルークは酷く後悔した。


そのまま下を向いて歩き続け、外に出た。






しばらく外を歩いて、過疎化した住宅街へと辿り着いた。

気付かない内に雪が降り始めていて、首元が随分冷たかった。


「これ、貴方の服と杖」

辺りを確認してから、イヴがルークの服と杖を鞄から取り出す。


「えっ…どうして?」

今から監獄に行く筈の囚人に武器となる杖を渡す筈がない。

しかも恐らくこの住宅街は監獄船が出る港と正反対の場所にある。どういう事だ?


「いいから!早く其処で着替えてきて」

と服と杖をルークに押し付け、近くの廃屋を指差す。

ルークは不思議に思いながら、廃屋へと入っていった。





「終わったよ」

ルークが廃屋から出てくると、先程のやつれた囚人から打って変わって何処か決まったシーカーへと風変わりした。


「あぁ…ごめんなさいね。ほら、クロムエルさんは此処よ」


一方イヴはポケットの中から出たアリアをあやしている最中だった。

イヴの手の上で暴れていたアリアも、ルークの姿を一目見ればぱたぱたと飛んで、ルークの肩に満足気に止まった。


「…どうして…」


本来なら僕はアルテミスに行く筈だった。監獄船が出るという7時15分もとっくに過ぎている。

ルークの中で、彼女は僕を助けてくれたんじゃないか、という推理が頭を過る。



「私…貴方を助けたかったの。貴方の研究はきっと、きっと役に立つ。貴方に禁止令は出すべきじゃない」


イヴは白い息を吐きながら、力強くそう言った。僕の為に、彼女はCMSを敵に回したのか。そう思うと、胸が痛かったけれどどこか嬉しく思っている自分が居た。


「…ありがとう」


ルークの白い息が宙に登り、雪と共に溶けていった。






続く

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