表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

茨の国の眠り姫

 追いすがる五人目の砂男を叩き伏せ、ようやく石造りの城壁にたどり着いた。


 エルニが眠り姫の領地である茨の国に入り、既に十時間が経過している。

 かわしきれずに目に入った砂が猛烈な眠気を誘うが、まだ足を止める訳にはいかない。歩みを止めればすぐにでも荊の蔦が足を這い上がってくる。


 城門には太い蔦が幾重にも絡み付いている。短剣一本で刈り払い門を開くのは不可能に近い。

 蔦は眠り続ける国民から精神力を吸い上げ、斬り払うそばから何度でも生え変わってしまう。絡め取られないよう気を配りつつ、エルニは生い茂る蔦を手掛かりに、城壁を登り始めた。


 押し入った城内は無人。寝所へと駆けるエルニの行く手を阻む者はいない。眠り姫の居城に踏み込める人間がいるはずもないとの油断か。

 城の最奥部、天蓋付きの巨大な寝台に横たわったまま、城の主である貴属・眠り姫はエルニを出迎えた。


『ここに辿り着けるのは、私を心から求めてくれる方だけのはずなのに』


 脳裏に響く眠り姫の声。

 豊かな黒髪を寝台の上に泳がせる姫の頭上に、身体に茨を絡み付けた蛇が形を取り始める。それはエルニが見る心の象徴。

 天蓋をはみ出すほどの大きさになった蛇は、ゆるゆるととぐろを巻き、その中心に一本の紡錘を守っている。


『それとも王子様ではなく、あなたが運命の相手だというの?』


 乱れた藁色の髪の下、シアンの瞳が不機嫌そうに歪められる。


「知るかよ。それだけあんたの持ってるギフトが要り用だって話だよ」


 エルニの影が液体のように揺らめく。

 リボンのように伸びた影はエルニに絡みつき、その体を拘束着めいた装束で包む。頭には鈴の付いた道化帽。


『その顔は……魔女?』


 エルニが右腕を差し伸べると、影から湧き出した無数の筋張った細い腕が、巨大な漆黒の両手鎌をうやうやしく捧げる。


『やめて! どうしていまさら私の願いの邪魔をするの!?』


 紡錘に裂け目が刻まれ、形作られた瞼は閉じたまま血の涙を流す。

 背の部分に刃を砥がれた逆刃の鎌。一片の躊躇もなく、踏み込むと共にエルニはそれを逆薙ぎに払った。

 千人の囚人の嘆くような悲鳴を上げたのは、断ち切られた蛇か闇色の逆刃か。


「そんなの、あたしが知りたいよ」


 眠り姫の枕元に落ちた紡錘を手にし、エルニは呟いた。

 背中越しに投げた紡錘を、影から伸びる無数の小さな青白い腕が、奪い合うように沈めてゆく。


「……あと……幾つだ?」

 膝から崩れ落ちたエルニは、そのまま意識を断ち切るように眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ