初詣
大分お久しぶりです。別にサボっていたわけではなくて、時期にあわせただけです。という言い訳を用意していたら、いつの間にか2日になってしまっていました。多分、次でラストの予定です。
気が付けば、もういくつ寝ると、なんて悠長なことを言ってられないくらい。というよりも、あと1時間もすれば年越しだ。
年末はクリスマスやら大晦日やらお正月やらとにかくイベントが目白押しで、師走とはよくいったものだと思う。
そんな僕も例に漏れず慌ただしい。というのも、今日は以前から先輩と初詣にでも出かけようと約束していて、夜遅くから出かけるというので仮眠していたら、約束の時間までもうすぐになってしまっていた。
とりあえずお風呂にでも入って目を覚まそうと決めて部屋を出ると、丁度インターホンの鳴る音が聞こえた。慌てて玄関まで下りて扉を開ける。
「は、早かったですね」
「ええ。家族の人にあいさつでもしてから、と思って少し早めに来たんだけど……どうやら、その様子を見ると時間通りでも早かったみたいね」
さっきまで寝ていたせいか、寝癖の残る頭を見て、呆れたように言う。
「ちょっと寝坊しちゃって……すぐ支度するんで待っててください」
そうして先輩を家へ招くと、背後にばっちりと妹が待ち受けていた。
「ピンポーンって聞こえたから降りてきたけど、お兄ちゃん全然支度できてないじゃん」
「今ちょうどその話をしてたところだよ」
「我が兄ながら、ダメダメすぎて涙がでてきましたよ……」
よよよ、と見るからに分かる泣きまねを始める。
「大丈夫よ。そこまでダメダメ、ってわけでもないから」
「あぁ、フォローまでされちゃって……妹は悲しいです」
「はいはい。それじゃあちょっとお風呂入ってくるので、とりあえず僕の部屋で待っててください」
「早く準備しなよ~? 女の人待たせるなんて、デリカシーとかそういう以前の問題だから。あ、先輩さんはお兄ちゃんの部屋じゃなくて、私とお話しましょう」
もうこれ以上相手をするのも面倒なので、軽く先輩に目配せをしてからお風呂場へと向かった。さっとシャワーだけ浴びて外に出る。準備しておいた洋服に着替えてから、リビングへ。
「すいません、お待たせしちゃって。後はこれで上着だけ来たら出られます」
「なんだ。もう少しゆっくりしてても良かったのに」
「お前、さっきと言ってること違うぞ」
「なんなら、お兄ちゃん無視して二人で出かけちゃおうかと思ってたのにな~」
「あら、じゃあ美緒ちゃんも一緒に行きましょうか」
「え、いいんですか!?」
「いいわよね?」
「僕は全然構わないですが」
「それじゃあ私もすぐ支度してきます!」
そういって自分の部屋へと走っていった。
「なんだか慌ただしくなっちゃいましたね」
「別に気にしてないわよ。それに、その原因を作ったのはあなただしね」
全くその通りでした。
「それにしても、美緒ちゃんはほんといい子ね」
「そうですか?」
「まあ、家族だとそういうのは見えにくいものなのかしら」
「どうなんでしょう。でも、そうだとしたら先輩の力もありそうですけど」
「どういう意味?」
「僕から見てもあいつは人当りは良い方だとは思うんですが、それにしてもこれだけ年上相手に懐いているのを見るのは初めてなので」
「そうなの。少し意外ね」
「僕が知らないだけかもしれませんが。まぁ、先輩自体が後輩から好かれそうな感じはありますけどね。面倒見いいですし」
「……そうだといいけど」
「お待たせしましたー」
バン、と効果音がつくくらい思い切りリビングのドアを開けて妹が飛び込んできた。
「もう少し静かに入ってこいよ」
「いちいちうるさいなぁ。ささ、口うるさい兄は放っておいて、初詣に行きましょう」
「もうこんなに人がいるのね」
「ちょっと時間遅れちゃいましたからね。すごく混むところだと、お賽銭あげるのに4時間以上も待つらしですよ」
「そんなに? こういうイベントみたいなの、なんだかんだ好きよね、みんな」
「お兄ちゃんが寝坊するからだよ」
「お前の支度待ってたのにも時間かかってるんだぞ」
「私のは先輩さんのご厚意だから関係ないもーん」
「そうね、ここはお兄さんが謝っておく場面よ」
「申し訳ありませんでした」
「変わり身はやっ」
僕のモットーは長いものには巻かれることです。
「ところで、このくらいだと大体どのくらい待つのかしら」
「多分1時間くらいじゃないかと」
「そんなもんじゃないかな? 結構ここ進み速いしね」
「それでも結構待つのね」
「なんだかんだ、日本人は信心深いんですよ」
「適当な纏め方」
「もうそろそろですね」
「うー、体冷えてきちゃった」
「これ終わったらなんか温かいもの買ってやるから」
「ほんと? じゃあおでん食べたい!」
「……飲み物じゃないのな」
「ほら、もう次よ。ちゃんと願い事は決めた?」
「僕はもう前から決まってるので」
「あら、面白くないわね。それに、それだったら私が聞いてあげるから、他の願い事にしなさいよ」
「え、でもここ学業成就の神様が……」
「前の人が終わったわ。さ、行きましょう」
さて、どうしたものか。鐘を鳴らして、お賽銭を入れる。ちらりと横目で先輩の姿を見る。……学業成就以外にも、前から決まっていた願い事があったのを思い出した。
「ねぇ、結局お兄ちゃんって先輩さんと付き合ってるの?」
初詣を終えて。先輩を送ってから自宅へと帰るみちすがら、突然妹がそんなことを言い出した。
「……いや、別に付き合ってないけど」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
しばらく僕の顔をじっと見てから、はぁ、と大袈裟にため息をついた。
「なんだよ、失礼なやつだな」
「……はぁ」
「二回連続でため息つくなよ……」
「他全部が完璧だからなのかなぁ」
「どういう意味だ」
「知らない。そういえば、女の人って全員ってわけじゃないけど告白されたい人の方が多いらしいよ。ちゃんと覚えておいてね」
「はいはい」
「あ、そこのコンビニ寄ろう」
気づけば、自宅のすぐそばのコンビニにまで着いていた。
「え、なんか買うものあったっけ?」
「もう、さっきおでん買ってくれるっていったじゃん。ちゃんと覚えててよ」