転生したら岩の上にぶっ刺された剣で動けない…。
異世界転生ハーレム無双が流行ってると聞いて。
確かに異世界、転生、ハーレム、無双、その条件は満たしたぜ!!
思い付きでさらさら書いたので続くかどうかは未定です、感想とか貰えたら嬉しいです。
我輩は剣である、名前はまだ無い。
え?どういう意味だって?だって俺、転生しちゃってるもん。
もうずっと昔に思えるが、現代…と言って良いのかわからんけど、そこで俺はトラックに跳ねられて即死、気付いたら記憶を受け継いだまま、この世界に転生させられていた。
その時流行ってた異世界転生ハーレム主人公、ここに爆誕の瞬間…だと思いきや、俺は気付けば剣になっていた。
まさかの無機物である。
それでも、女の子の使い手とかが現れて俺を手にしてくれるなら…、まぁ、異世界転生ハーレム物の一端くらいにはなれるだろうけどさ。
俺の剣先は岩にぶっ刺さってるのだ。
お陰様でもう何年もこの状態である、雨が降ろうが雪が降ろうが、そのまま、雷なんて真っ先に俺目掛けて落ちてくる。
あと近所の犬がマーキングにしょんべんひっかけてきやがるし、マジでろくでもねぇ…。
でもこの岩に刺さってる剣ってあれだよな、かの有名な抜いたら王様になれるとかいう剣なんだよな。
と、初めの方はなかなか誇らしくも思っていたけどさ、抜いてくれんのよ、誰も。
この剣を抜いた者を王とする、そんなおふれに一時期は国中の至る者達が我こそ剣を抜くものなり、と俺を抜く事にチャレンジしてみたが、誰一人として抜いてはくれなかった。
いや、別に俺がどうこうしてたって訳じゃないんだよ、本音は筋肉ムチムチな男とか、こっちから勘弁なんだけどさ、俺はただの剣なんだし、どうする事も出来んしさ。
でもそんな筋肉ムチムチな男共でさえ、どんなに力を入れようと俺を抜く事は出来ず。
結局王様はくじ引きで選んだらしい…、どうしてそこで諦めるんだよ!そこで!!
そんな訳でもう国中からもその存在を忘れられてしまったのが俺である。
無機物なので、死ぬ事も出来ず、俺はずっとここで、岩に刺さってる剣として一人?で居続けた。
「…お、あった!ありました!!」
…が、もちろんだがたまにこういった物好きが俺の噂を聞き付けてか、観光がてらにやってくる。
「は~…、噂通り、剣に岩がぶっ刺さってますねぇ…」
今更俺を抜いた所で王様になれる訳でも無いのに…、ご苦労な事だと思いながらその人物に注目した。
白いローブを身に付けた、リュックを背負った細身の少女である。
最早試験を受けるまでもなく、面接で不合格だ、国中の男に抜かれなかった俺がこんな細身の女の子に抜けるはずが無い。
「どれどれ…、ふぐぬぬにゅ…!!」
少女は俺の柄を握ると彼女なりの力一杯だろうか、顔を真っ赤にして俺を抜かんと引っ張る。
が、そう簡単に抜けようものなら俺だってとっくにこんな所には居ないのだ。
「ふぅ…、やっぱり駄目ですかぁ」
少女も早々に諦めるとぺたんと地面に尻餅をついた。
と、大概の観光客はここでさっさと帰っていくのだが。
「よいしょっと」
その少女は背負ってたリュックを床に下ろすと中をごそごそと、何やら探っている。
…なんだ?弁当でも食べるのか?ピクニックなのか?公園とかにある銅像じゃないんだから…。
「あ、あったあった、ありました」
とか思っていると、少女がリュックから取り出したのは…、え?何それ?
なんか工事とかで見たことある…グラインダーじゃないですか?なんでここにあるの?
「えーっと…、ここがスイッチで、ONと」
ギュウィィィィインッ!!
少女がグラインダーのスイッチを入れると刃は勢い良く回転し、それを使って少女は岩を削っていく。
えー?いや、それ、えー?
「そいや!」
スポンッと、岩が削られた事でゆるゆるになった俺を少女が引き抜いた。
伝説的な物語りも何もあったもんじゃない…。
「えへへ…、抜けた抜けた、ロキさんの助言通りだ」
抜けた…じゃねぇよ、誰がどう見たってただのチートじゃないか。
「あら、ならあなたはずっとあの場所で岩にぶっ刺されたままが良かったんですか?」
いや、そんな事は無いけど、もっとこう…、ん?
コイツ、俺の言っている事がわかるのか?
「はい、私の名前はリーナ、あなた達、武器の転生者の声を聴く者です」
少女、リーナは俺の刀身を見つめながら笑顔でそう答えた。
…えと、どういう事?
「あなたは元の世界からこの世界に転生を受けました、伝説の武器、エクスカリバーとして」
それは…、まぁ、気付いてたけどさ。
エクスカリバー、かの有名なアーサー王伝説の妖精の加護を受けた剣。
その刀身はあらゆるものを切り裂く事が出来た…らしい、僕、ちょっと実戦経験が無いからわかんないんだけどね。
「それがですね、最近多いんですよ、伝説の武器の転生者、なので私がこうして回収して回っているのです」
え?多いの?俺以外にもこんな感じに無機物転生者が一杯なの?
「はい、えーと…、今の所私が回収したのはあなた以外だとティルフィングとロキの靴です」
ティルフィングとロキの靴…、あり?エクスカリバーもだけどその三つが同じ時代にごちゃ混ぜってどういう事だ?
「それは私が聞きたいですよ…、こっちはもう、回収の仕事でひどい目にあってるんですから…」
溜め息を付くとリーナは俺をじっと見つめる。
「あの…、鞘とか無いんですか?」
鞘…?何を言う、こちとら生まれてこのかた岩にぶっ刺さってたのだ、鞘なんてある訳が無い。
「つまり…生まれてからずっと素っ裸、すっぽんぽんだったのですね?」
おい…、人を露出狂みたいに言うな、剣だからね。
そもそもだ…、エクスカリバーの鞘といえば持ち主に不死身を与える、それこそチートの武具である。
「はぁ…、ようやくまともな武器が手に入ったと思ったのになぁ」
何言ってんだ?剣なら俺以外にも、確かティルフィングも北欧神話でいう、立派な剣のはずだ。
「私に死ねと言うんですか?」
その俺の問いにリーナはギロリと睨むように答える。
言われて思い出した、ティルフィングといえば伝説の武器ではあるが、その性質は呪いのかけられた破滅の剣だ。
剣が鞘から抜かれれば、必ず誰かの命を奪い、持ち主の願いを三つ叶える変わりに持ち主の命を奪う魔剣。
考えてみると完全に詐欺じみた剣だよな、性格の悪さがよく出てる。
『誰の性格が悪いって?』
へ?今の女の子の声は…リーナ、じゃないよな?
『あんたよあんた、あんたに言ってるのよ、この素っ裸の露出狂』
声の主はリーナのリュックから、その声を聞いたのか、リーナは俺を地面に放置するとリュックをまさぐる。
「よいしょっと…」
そして取り出したるは一本の禍々しい剣だった。
「ティルフィングさんです」
それを俺の隣に置くとささっと紹介なんてされる。
え?あ、どうも…。
なんだよ…、そこに居たのかよ、つーか全部聞こえてたの?
『黙って聞いてれば人の事随分と好き勝手言ってくれたじゃない』
いや、もう人じゃないでしょ、俺もだけど。
『あんたなんて伝説の剣とか言われても似たり寄ったりの力の剣がいっぱいな癖に』
…おっしゃる通りで、だがまぁ、持ち主の命を奪う剣よりは全然マシだと思うけどね。
なんだよ、三つ願いを叶えると命を奪うった、球を七つ集めて呼ぶ神様の龍の方がよっぽど良心的じゃないか。
『今すぐにでもあんたの願いを三つ叶えてあげましょうか?』
いや…、遠慮しとくけどさ。
『遠慮しとく…と、はい、これが一つ目の願いね、じゃあ次のお願いは?』
やっぱり詐欺じゃねぇか!!
ん?って事はだ、あんたも俺と同じ、転生者なのか?
『えぇ…、そうよ、死んで気付いたらこの世界に居て、しかも剣なんかにされて、本当に最悪』
…それも破滅の剣、ティルフィングだもんな、いや、俺だってずっと岩の上に待機され続けられたけどさ。
じゃあ…、ロキの靴って。
「あ、それは私が今履いてるこれですよ」
リーナがこれ見よとひょいっと片足を上げて靴を見せて来る。
『どうも、ロキの靴、っていうと変なんでロキって呼んで下さい』
今度は男の声だ、この靴、ロキもやはり俺と同じ転生者なんだろう。
ロキの靴、北欧神話の悪神ロキが履いてたとされる、空だろうと海だろうと走れる万能の靴だ。
確かに凄いと言えば凄いんですけどね…、その。
しかし…剣とかならわかるんだけど靴って…、靴に転生って悲しすぎない?
『いや、そんな事は無いよ、カリバー君』
か、カリバー君!?
『いや、だってエクスカリバーでしょ、君』
いやー…、でも、なんかガリバー君みたいでやだなぁ。
『で、話しを戻すけどね、靴に転生するのって、案外悪くないものさ』
へぇ…、そうなのか?俺だったら嫌なんだけど、つーか剣も嫌だけどさ。
『だって、靴なら戦う必要は無いだろう』
…あぁ、そうか。
伝説の武器にして、俺、そしてティルフィングは剣、伝説で、沢山の命を奪うものだ。
『それに、合法的に女の子に踏んで貰えるしね、ね、リーナ』
「ね、じゃありません」
リーナがその場で地面を強く蹴るとグリグリと靴、ロキを踏みつける。
そのたびに、あぁ!とかもっと!!とか聴こえるが、聴こえないふりをしておこうか。
「ロキさんは聴いての通り、ちょっと変態入ってますが、能力としては素晴らしいです」
リーナはそう言うと俺とティルフィングを拾い上げると軽くジャンプして、空中に着地した。
「よ、ほいっ、と」
そのまま軽やかに地面から離れて行き、リーナの身体は空の上だ。
さすが空も海も走れる万能の靴、と言える。
「さて、カリバーさん、物は相談なのですが」
空中で制止したリーナは最早遠く離れた地上を眺めながら、俺に声をかける、あれ?カリバー君で固定なの?
「今、この世界はあなた達のような転生者が溢れています、これははっきり言ってしまえば異常なのです」
…だろうな、神話や伝説がごちゃ混ぜで、その力を持つ武具がこの世界中のあちこちにあるんだろうからな。
「運良くあなた達は私が回収する事が出来ましたが、他の武具が悪者に悪用でもされれば、それは世界の破滅も同義です」
あぁ、そうか、だからコイツはこうやって俺達を回収して回っている訳か。
「なので…、他の武具の回収を手伝っては頂けないでしょうか?」
手伝う…と言われても、どうすると言うんだろうか、俺の時のように一つ一つ、武具の噂でも聴いて回収していくのか?
「それももちろんですが、一番欲しい武具はアイギスですね」
アイギス…、別名は確か、イージスの盾だっけ?
アテナの持つ、あらゆる邪悪や災厄を払うとされる、最強の盾だ。
「そうです、この異常事態を解決するのに、これほど適切な防具は他にありません」
確かに…、この伝説の武具のバーゲンセールみたいな状況は間違いなく災厄になる可能性が高い。
でも結局、回収するのはリーナで、俺はあくまでも剣だ、ティルフィングも剣だし、そういった事に対応出来そうなのってロキくらいじゃないか?
「いえ、時には伝説の武器と戦う必要だって出てくるかもしれません、伝説には伝説、その為にあなたの力が必要なのです」
なるほど…、全てが俺のように上手く回収出来るとは限らない、か。
…そういえばティルフィングはどうやって回収したんだろうか、あの剣には持ち主の王が居たはずだ。
『………』
「ティルは…その」
『持ち主のバカ殿が三つ願いを叶えちゃったのよ、だからリーナはその死んだバカ殿から回収出来たの』
言い淀むリーナに、ティルフィングはあっさりとそう答えた。
…不用意な発言だったな、少し考えればわかりそうな事だったのに。
『別に、済んだことだから、私は気にしてないけどね』
嘘だ、例えそれが本人の自業自得であれ、殺したのは自分の能力なのだから。
「それで…カリバーさん、返事の方は」
リーナが恐る恐ると聴いてくる。
しかし、その問いに対する返事はすでに決まっている。
俺は剣だ、剣ならば、その持ち主の願いを叶えるに決まっている。
「ありがとうございます」
リーナは優しく俺の刀身を抱き締めた、危ないから止めなさい。
「これで私にも剣が…、鞘は無いですけど、ちょっと試しに振ってみても良いですか」
おぉ、振れ振れ、俺もずっと岩の上だったんだ、身体?が鈍って鈍って仕方がない。
リーナは俺の柄をギュッと握ると…。
「えいっ!!」
素人の素振りそのまんまに、俺をぶんっと降り下ろした。
んで、海が割れた。
ーーー
ーー
ー
これは伝説の武具のお話しである。
神話、伝説の武具へと転生を遂げた者達と。
それを回収する者、悪用せんとする者。
その全てが集約し、争い。
戦争を始めんーーー。