そんな言葉に騙されない
「シシィ、愛してる」
いつも言われる言葉、私は塗り固められた嘘で身動きができなくなりそうだ。
だけど嘘だと知っているから幾分かマシな方だろう。
「…私は嫌い」
「君の答えなんて聞いてない」
無意味なやりとりだ。
雲に隠れた月がまた光を照らす。
月明かりを感じながらすべてを閉ざしたくて私は目を閉じた。
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朝目覚める。
昨晩は来ていたはずのネグリジェはあの男に脱がされているので当然私は裸だった。
カーペットの上に捨てられてるかもしれないと探すがないのできっと専属侍女のルナが片付けたのだろう
すこし前は私がされている行為を知られているなんて恥ずかしくて死んでしまいたかったけどなれとは恐ろしいものである。
「失礼します、シアティーナ様」
ひんやりとした声でルナが寝室に入ってくる。
朝の紅茶をトレーに載せているが、いつ私が起きたのが分かるんだろうかと毎度不思議に思う。
「ガウンをどうぞ」
裸じゃ紅茶は飲めないのでルナは私に一応着せる。
私は何も言わずされるがままだ。
「今朝の紅茶はダージリンの――」
「私、ミルクティーが飲みたいの」
私がまるでジョウロで花に水をあげるようにこぼす紅茶がカーペットに染みを作っていく。
昨日私が明日はこの紅茶が飲みたいといったけど今日はそんな気分じゃない。
「…申し訳ございません。ただいまお持ちします」
「いらない、愚鈍なのねあなたって」
ガウンを翻してバスルームへ向かう。
きちんとぬるま湯にはちみつの入浴剤を入れてないと今度はルナの頬を張り倒してしまいそう。
毎日気まぐれで最悪な偽主に付き合ってるルナも可哀想なものだ。
ほんと、従順なメイドだこと。
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そうして夜が来る。
「紅茶をこぼしたんだって?」
「…なにか不都合でも?」
「いや、紅茶をこぼすのもなにをするも君のやりたいように。もちろん侍女を虐めるのも、ね」
私を責めるようなことを言ってるくせに瞳は笑っている。
カーペットも侍女もほんとうはどうでもいいのだろう。この男にとってはすべて変えがきく存在だ。
…もちろん私も。
「…馬鹿らしい」
こんな事全て無駄だ。
「世の中に馬鹿らしくないことなんてないよシシィ」
脱がされていく、手、手が私を蝕む。
「愛してるよシシィ」
「……」
何も言えなくなる、だってあまりにくだらないから。
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今日で何日?
あの男に囚われてから私は徐々に世界との関わりを感じなくなっていった。
この離れからは出れないしルナとあの男以外誰とも関わっていない。まさに囚われてる。
…思い出す。
豪華な屋敷に何人もの侍女、好きなものが詰まった部屋にたくさんのドレスと宝石そして上辺だけの両親。私は伯爵家の令嬢としてなんの不自由もなく甘ったるいお花畑の中でただ生きていた。
だけどその日々は永遠じゃなくてお父様は殺されお母様は自分だけは見逃してくれるよう私を差し出した。私はただ呆然としていてこの国の次期宰相と噂されてる男に引き取られ気づいたらこの檻の中にいる。それからは蝕まれる日々が始まって何度も死のうと思ったけどそんな勇気はなくて誰にも悲しまれることなく死ぬのなんて耐えられなくて生きている。
私は何なのだろう。
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「…なぜ、お父様は殺されたの?」
「国のお金を横領していたからさ」
答えはあっさりと返ってきた。
確かにあのお父様ならそのぐらいはしていそうだった。家も伯爵家の割にかなり富んでいたので本当にそうなのかもしれない。
「そう、そうなの」
「母親のことは聞かないのかい?」
「…愚問ね」
私は母親より父親が好きだった。一人娘である私をお母様もお父様も上辺だけ愛してくれたけどお母様は愛人がいたしお父様も愛人がいたけど誕生日には必ず私と過ごしてくれたから。
「…女の子は父親が一生の恋人だというがそれは君にも当てはまるようだ」
恋人、そんなもの私に必要ない。必要なのは家に富をもたらしてくれる権力を持った男性だけ。
そう言われ生きてきた。
「僕では君の恋人の枠には入れないのかい?」
この男が自分のことを僕というのにすこし、いや、かなりの違和感を感じた。
まるで氷でできた王子様だと社交界では言われてたのに。
「恋人なんて必要ない」
「…君はいろいろ欠け落ちてるね」
まるで壊れた 愛玩人形だ、と男は言う。
的を得た言葉かも知れない。私は見た目だけいい人形でそれも今はメッキが剥がれてぼろぼろだ。
「…はっ、あはははは」
寝台の上でまさに人形のように転がりながら乾いた笑いをこぼす私を男はじっと見ていた。
「…君の笑顔を初めて見たな。でも僕はもっと――」
続きを聞きたくなくて目をギュッと閉じる。目を閉じても意味がないけど恋人のように繋がれている両手は私のことを離してくれなかったから。
『――君の幸せに満ちた笑顔が見たい』
だから聞きたくなかったのに
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あの男は私に質問してくるようになった。
好きな本のこと、花のこと、趣味、そして家族のこと。
私が本について語れば翌日はその本が届いてたし花を語れば花が送られ趣味の話をすれば用具一式が届けられた。
特に私は家族の話になると少しばかり饒舌になった。多分私にこんなこと聞いてくる人はいなかったからだと思う。誰しもが私の内側には興味を持たなかった。
「お父様は7歳の誕生日に私の大好きな絵本のお姫様と同じドレスをくださった。私はとても気に入って毎日のように着ていたのだけどお母様が同じドレスばかり着ていてみずぼらしいと燃やしてしまったの」
悲しかったけれど誰にも話せなかった思い出。
「そう、なら僕がそのドレスを贈ろう」
「…もう大人だから着れないわ。それにお父様から貰わないと意味がない」
この男は本も花も裁縫道具も私に与えれらるけど自身で殺した者は与えられない。
「…愛してるよシシィ」
そんな言葉に逃げないで
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「シシィ、今日は昼食をたくさん食べたんだって?」
「シシィ、刺繍が完成しそうだと聞いたよ」
「シシィ、今日は天気がいいから外に出よう」
『シシィ、シシィ、シシィ、シシィ、シシィ』
「――うるさいっっ!!」
突然叫んだ私をルナはかなり驚いたように見たが空気を読んだのかそそくさと部屋を出ていった。
私のことを楽しそうに話すあの男、私のことに首を突っ込んでくるあの男、私によるだけじゃなくて昼に会いに来るあの男、なんでなんでなんでなんでなんで!
心にずかずかと入り込まれて平気でいられるわけじゃない。
…私は人形だけど本当は普通の人間だ。
頭をかきむしりながら久しぶりに流した涙が頬を伝っていく。
一人で泣くのは寂しくて冷たいけど私を慰めてくれる人なんて生まれてこの方一人もいなかった。
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「――シシィ、泣いてしまったのかい?」
ゆっくりと目が覚める。
腫れぼったまぶたに涙の膜がかかった瞳はあの男を移していた。
外は既に闇だけになってしまい私はソファでぼろぼろだった。
「シシィ、君が望むならなんでも与えよう。だから泣かないでくれ」
困ったようにあの男は言う。
私は涙がまた溢れるのを感じた。
「…貴方は、私が死んだら悲しんでくれる人間なの?」
「もちろんだよシシィ、だけど死んだらなんて嘘でも言わないでくれ」
その言葉で私は救われたと同時に地獄の果てまで落とされたような気分になった。
「そう、なら私は…」
これで死ねる
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朝目覚めると私はネグリジェで寝台で寝ていた。
「シアティーナ様、失礼します」
いつもと同じくどうやって私が起きたのを察知しているかわからないがルナが入ってくる。
「今朝の紅茶はアッサムのミルクティーで――」
いつもなら飲みもしない紅茶を私は口に含んだ。
「おいしいわルナ。あなたは最高の侍女ね」
ルナのこんな顔始めてみた。
「…ありがとうございます」
私はいつものごとくガウンを翻してバスルームへ向かう
「―初めて飲んでくれた」
ルナの小さなつぶやきに少し笑いながら。
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何も残すものはない。
手紙を書きたい人もいないし最後に食べたいものもないしルナの紅茶だけで私はもう十分だろう。
「…このドレス、少し似てるわ」
あのお姫様みたいなドレス、白色の袖が膨らんだリボンがついてる絹のドレス。
私はお姫様ではないけれど。
わざと部屋にある花瓶を落とす
ガチャン、という大きな音にあわててルナが部屋に入ってくる
「シアティーナ様っ!、お怪我はありませんか?」
慌てるルナに嘘をつく。
後ろにはより尖った破片を手の中に隠していた。
「ええ、大丈夫よ。はやく片付けてちょうだい」
その言葉にルナは急いで掃除道具を取りに行ってしまった。
馬鹿なルナ、こんな最悪の主のために必死に働いてその主が嘘をついてるのも知らないで―本当に馬鹿で忠実な侍女。
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破片を首に当てる。
不思議と震えや恐怖はなく安堵が私を包んでいた。
「…さよならくだらないことばっかの世界、ばいばいシアティーナ、――ありがとう氷の王子様」
あなたは私を救えない、だってあなたは王子様で私はお姫様じゃないから。
――今度もし生まれ変わるなら、お姫様になりたい。誰からも愛されて最後は王子様と結婚するお姫様。
血が噴水のように流れる。あのお姫様のようなドレスは真っ赤に染まって私は体を支えられなくなった。
意識が遠のいていく。
痛みはない、不安もないならなにも怖くない。
だって氷の王子様――ハーロルト・コンラートが泣いてくれるでしょうから。
偽のお姫様の様子を見に来た侍女は変わり果てた偽の姫様の姿に急いで王子様をよんだが王子様が駆けつけた頃にはすでに息の根はなくすべてが終わっていた。
王子様はなぜ死んだのだと泣いたが偽のお姫様は血まみれで死んでいるだけだった。
▽
「あーもう遅いっ!」
私ことシーナ・エーメリーはある人を待ってる。
学校の授業が終わったと行きつけのカフェで待ち合わせをしているのだがそいつは全然来る気配がない。
…もう、帰ってやる!
私は短気とかなんだとかいわれるがただ約束を守らない人間が嫌いなだけである。
そんなことで17まで彼氏なんて出来もしなかったがなんと私のその短気が好きだという物好きな恋人が半年前にできたばっかりだ。
ドタドタと怒りながらカフェを出ようとすると――
「悪いっ、クラブの仲間に捕まっちゃって――」
丁度私の待ち人、恋人であるハーロルトが飛び込むようにカフェに入ってきた
「ちょっ、きゃっ!」
思わず顔が近づいてしまって私は慌てて離れる。
それになんだか、汗臭い
「…もしかして、遊んできたの?」
「いや、遊ぶというか試合の助っ人たのまれちゃったから一試合やってきただけで…」
「彼女よりクラブの筋肉仲間が好きなら一生試合でもなんでもしてなさいよっ!」
「そんな怒るなよ、君のこともちゃんと愛してる」
…そんな言葉じゃ騙されない
「…ふんっ!」
こいつの駄目っぷりはホントしょうがないから寛大な彼女の私が許してあげるしかない
「はやく行くわよ!ショッピング、付き合ってくれるんでしょう?」
「…君は素直じゃないね」
「なに、張り手でも喰らいたいの?」
「ごめんごめん――愛してるよシシィ」
私はなんだかすごくデジャウを感じたのだがこいつといるとよく感じてしまうそれをすぐ消し去る
昔知り合いだったのかもしかして前世の仲だったのかしらないけどそんなどうでもいいことより今が重要!特に新品の靴を買わなくちゃ気が狂いそうなのだ!!
「―シシィ、君のことを絶対逃がさない」
「なに、恋愛ドラマのマネ?」
「いや、なんでもないよ」
私たちはこれからも付き合っていくだろうしまあいろいろあると思う。
でも私は今が幸せならいいのだ。
だって昔も未来も不安定でどうとでも取れるものなんてくだらないでしょ?
「言い忘れてたけど、わ、私も愛してるハーロルト」
「ありがとう、シシィ」
これが私たちの物語で私たちの始まりと終わり。
相手の気持ちなんてわからないけどとりあえずがむしゃらに生きていくことがきっと、明日につながるのだろう。
誤字脱字の報告等ありましたらおねがいします。
感想など貰えたらめちゃくちゃ嬉しいです。




