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お花屋さん ー秋ー  作者: ニケ
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月との約束

優しいまどろみの中で大好きな祖母が何かを作っている。なんだろう?声をかけようとして西森は驚いた。体が動かない。熱に浮かされたような頭と怠くて動かない体。ぼやける祖母の姿。それでも祖母に話しかけたくて懸命に口を動かす。声にならない声がほんの少しだけ外へと溢れた。



「?目が覚めたの?。。熱は?」



作りかけのものを放って祖母が西森のそばにやってきた。甘くて優しい香りがする。鼻を何度も寄せて香りを嗅いでいると祖母は優しく笑いながら西森の頭を撫でた。



「今ね、ミルク飴を作っているの。出来たては柔らかいから。何か食べられる?」



そういえばずっと食欲がない気がした。たくさん食べたのはいつだっただろう。喉も渇くことがなくただ無気力で、祖母の優しい問いかけに首を辛うじて左右に振った。食欲はない。でもそのミルク飴は食べたくて、祖母の顔をじっと見つめる。何度もミルク飴が入っている器を見れば祖母が可笑しそうに笑っている。



「はいはい。わかったわ。ちゃんと残しておくから。ゆっくり休みなさい」



頭に触れる優しい感触。バツが悪くなると黙る西森の性格をよく知っている祖母がこうして宥めるように頭を撫でてくれた。口に言えない想いも、言いたくない想いも、優しく受け止めてくれた。



おばあちゃん。約束だよ。それは。。俺のミルク飴なんだから。。



甘くて優しい香り。早く食べたいなぁ。安心して訪れた優しい睡魔に西森はゆっくりと身を委ねた。



「ミルク飴?ああ、静子さんがよく作ってくれたものね。作り方は。。どうかしら?お義父さんなら、聞いたことあると思うけれど。。」



朝早く起きた速水は隣で眠る大きな温もりを見て柔らかく微笑んだ。腕の中で埋もれるように身を任せている西森はぐっすりと眠っていて、速水から離れようとしない。出張から帰ってきてやっと二人でゆっくり過ごせることも嬉しいが、最近西森が素直に甘えてくるようになった。当の本人は全く自覚していないようで、照れる気配すらない。それも好都合だと速水は優しく笑って西森の頭を撫でた。



「。。。ミルク飴。。。」



西森がふと目を開けて速水を見つめている。起きたかな?速水が首を傾げながら見守っていると西森の顔がだんだん怒りに満ちたものに変わっていった。なんなんだ。訳がわからなくて、とりあえず頭を何度も撫でていると西森が低い声で絞るように声を出した。



「ミルク飴。。俺の分、無かったら。。ずっと嘘つきって言い続けてやるからね!!」



!!??



速水はびくっと体を震わせたが、言った西森がまたすーすーと気持ち良さそうに眠りに落ちた。ドスの効いた妙に迫力のある声に何事かと思う。顔を近づけて様子を見るが、もうすでに西森は穏やかな寝息を立てている。詳しく聞きたいが起こすのも怖い。速水はしばらく西森の寝顔を見守った。



「ミルク飴って何だよ。。なんでそんなに不機嫌なんだ?」



謎が謎を呼ぶ。よくわからないが、西森が目覚めた時にミルク飴なるものがなかったならば。嘘つき呼ばわりされることよりも大変なことが起きる気がする。速水は遠い目をした。



「花籠はまだ大丈夫よ。今日は夜から来られるお客様専用の日なの。あら?西森くんにも言っていたはずなのに。。」



それは俺も聞きました。女将から不思議そうに見つめられて速水はこっそりとため息をついた。この旅館の良さがゆっくりと伝わって客からのリクエストが増えた。いつも旅館では昼に客を出迎え、次の日の朝に見送ることが主な流れだった。この田舎町では観光地というものがない。あるならば旅館の温泉や昔ながらの田園風景だろう。朝早く都会から出てきた客が昼に田舎町へと着く。昼御飯を旅館で済ませてそのまま温泉へ。晩御飯をゆっくりと食べてまた温泉。または昼や夜の景色を散歩したりするのだ。



「それが主でしたけど。お客さんが夜に到着して、次の日の昼に出発する。そんなプランもしてほしいって言われたんですよね」



旅館の流れを変えることは難しいが、前もって準備すれば何とかできる。それに時間帯をずらすことで西森のように朝早くから働く者達もゆっくりと眠ることができた。速水としても西森が楽になるなら大歓迎だ。



「そうなの。今日は夜にお客様を迎えるのよ。ふふふ。秋になってお月見する方が増えたから。夜ゆっくりと景色を楽しんで、温泉に入りたいって方が多いの」



夜、しんと静まり返った中で優しく光る月明かりは美しい。キラキラと輝く湯船に入りながら静かに温泉を楽しむ。晩御飯はないがその代わりに酒とつまみがでる。温泉に浸かりながら月の下で静かに酒をたしなむ。常連の中で密かなブームらしい。



「まあ、渋いお客さんばかりですから。酒もそろそろ配達しないと。いや、西森はまだ寝てるからいいんです。寝てるから。。いいんですよ。。」



嘆くような速水の声に女将はまた不思議そうな顔をした。女将に言おうか言うまいか迷っていた速水にパトロールから帰ってきた杉崎が声をかける。困ったように考え込んでいる速水に杉崎がにやにやと人の悪い顔を浮かべた。



「嫌だなぁ、速水さん!どうせ西森さんと喧嘩したんでしょ!!もう、情けないですねぇ。。恋人には優しく。自分から折れることも大切ですよ!」



ウキウキと楽しそうに話す杉崎が憎たらしい。そうではないのだと説明するのも面倒だ。速水は杉崎を見ながらぼそりと呟いた。



「。。ミルク飴。。お前も手伝え!!女将、こいつ、手伝わせていいですよね!」



首根っこを掴んで連れていこうとする速水に女将が、いいわよ~と柔らかく手を振っている。杉崎は一気に顔がひきつった。



「ちょ!!速水さん!俺は何があっても西森さんの味方ですからね!!さつきさんだって、どんな時も西森くんの味方でいるのよって言われてるんですから!ちょー、ちょっと!!離してくださいよー!!」



叫ぼうが喚こうが構うもんか。西森が目覚める前にミルク飴を献上しないといけない。まずは作り方を知っているかもしれない正宗に聞いてみよう。手作りの飴だから手間もかかるようだ。杉崎に手伝わせてやろう。駄々をこねるようにじたばたしている杉崎をさっさと連れていく。正宗はきっと食堂だ。



「速水さ~ん。ミルク飴って何ですか?西森さんと喧嘩したんでしょー。いい加減認めてくださいよー」



何度違うと言っても杉崎は速水の言うことを信じようとしない。こいつには力仕事をしっかりとさせてやる!恨めしそうに見た速水に、杉崎は楽しげに呟いた。



「俺で良かったら相談に乗りますから!その前に。。さつきさん、メールくれたんですよ!聞いてくれます?それがすっごく可愛らしくて優しくて。。もう俺、幸せって言うか」



こいつのことを幸せボケというのだと思う。速水のことはすっかり忘れて勝手にぺらぺらと幸せそうに話している。めんどいなぁと思いながら速水は正宗の元へと向かった。



正宗は食堂にいた。夜のつまみの仕込みと酒を飲みながらどれにしようか考えている。今日旅館にやって来る客はほどんど常連か常連の紹介だ。一人一人の客の好みに合わせて、気候の変化や酒の状態を見極める。長年ここで旅館をしてきた正宗の経験が物を言う、正宗しかできない仕事だ。隣では雅也が真剣な面持ちで見守っていた。



「速水お兄ちゃん!杉崎お兄ちゃん!どうしたの?」



雅也の明るい笑顔に速水の心はゆっくりと和んでいく。杉崎への憎たらしさが半減し穏やかなものが広がっていった。正宗もこちらに気づいてはつらつとした笑顔を見せている。



「速水くん!どうじゃ?ゆっくり休めたかのう。まだ時間もあるし、寛いでいなさい」



酒とつまみの相性もチェックしていたのだろう。つまみが盛られた小さな皿がいくつもあった。今日の仕事で忙しそうなのにミルク飴のことを聞いていいものか。正宗と雅也の笑顔に答えながら速水が迷っていると、後ろにいた杉崎が軽々とその遠慮という壁を越えていった。



「正宗さーん、ミルク飴をご存じですか?それがないと速水さん、西森さんと仲直りできないらしくて。。もう、速水さんって意地っ張りだから。困っちゃいますよね」



杉崎の楽しげで朗らかな声に正宗と雅也がそうなのかと目を丸くしている。余計なことを言った杉崎の口を速水がふさごうとしたが、それすらも楽しそうに杉崎は逃げていた。正宗と雅也は顔を見合わせて笑っている。



「そうかそうか!なるほど。それなら、速水くんがここにいることも必死そうな様子も、合点がいったわい。西森くんと過ごすのは久しぶりなのに、朝からわしの所にやって来て。。ミルク飴か。。懐かしいのう」



変に誤解されている。杉崎のせいだ。ちらりと横を見ると杉崎が、そうなんですよね~と一人で頷いている。速水はだんだんそれでもいいかと思ってきた。まあ、ミルク飴が作れるのならば何でもいい。部屋で寝ているであろう西森の穏やかな寝顔を思い出し、誰にも見つからないように優しく笑った。



「作り方、わかりますか?できれば、すぐにでも。。教えて頂きたいんですが。。」



速水の遠慮した声に正宗は大きく頷く。それならばいっそ客にミルク飴を食べてもらおうということになった。雅也は飴と聞いて目が輝いている。手作りの飴だ。杉崎も興味津々らしい。



「静子さんが元気な時はよく旅館に持ってきてくれたよ。お客様にも出していたんじゃ。これが大評判でのう。静子さんへ催促するわけにもいかんし、作り方だけ教えてもらったんじゃ」



静子は快く教えてくれたらしい。何度もその作り方の通りに作ってみたが、静子が作ったミルク飴の味は再現できなかったそうだ。正宗は考えながら口を開いた。



「きっと。。静子さんの優しさや穏やかさや。。温かい心がミルク飴の中に表れていたんじゃろうなぁ。。静子さんの味を再現できんが。。それでも良かったら、作るか!」



はい!正宗の優しい笑顔に速水と杉崎と雅也は大きく頷く。まずは材料集めだ。ミルク飴に必要なのは、牛乳と水飴、砂糖や隠し味の蜂蜜など。旅館の在庫を見ながらこの田舎町で集める。正宗は今夜の客用に酒を選びながら食堂で待つことに決まった。



「まだ時間があるからのう。材料集めをする前に、西森くんにも声をかけておきなさい。もしかしたら、一時休戦してくれるかもしれんぞ」



すっかり速水と西森が喧嘩していることになっている。速水は苦笑しながら正宗に言ってみますと答えた。杉崎と雅也は張り切ってもう食堂を出ている。そのことにも速水は苦笑した。



「なんだか。。大事になってきたな。。西森。。ミルク飴のこと、覚えてなかったら。。それもまた面白いけど」



寝ている西森を部屋に置いてすでに1時間は経っている。西森の大好きなポカリを旅館の玄関で買って速水は部屋へと歩き出した。西森が大好きな祖母の手作り飴。きっと喜ぶだろう。玄関では杉崎と雅也のはしゃぐ楽しげな声が聞こえてくる。早く西森さんにお許しをもらってきてくださいよ~!杉崎の嬉しそうな声に速水は笑って大きく手を振った。

皆様こんにちは(*^^*)いかがお過ごしでしょうか?

毎日続けることは素晴らしいことですが。。何かを習慣にしようと決めた時私はいつも自分と約束をします。これから毎日続けるけど、体調が悪かったり気分が乗らなかったらしないと自分に約束します。そうするととても楽な気持ちになるんです。

自分の気持ちを大切に~。それも自分との約束事でございます(*^^*)

ではでは皆様これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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