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雪と春  作者: haru
幕間 -1-
9/9

幕間 -1-目覚め

 愛希は、ごうごうと響く音で目を醒ました。それは嵐の日の風の音のように聞こえる。また、都会の雑踏の音のようにも聞こえる。瞼が開かない。体中がだるい。何故こんなにだるいのか、と思い記憶の糸を手繰ろうとするが、何も思い出せない。早くまた眠りの淵に沈んでしまいたい。

 「しゅんくん」

 隣で寝ている筈の春太に声を掛けたつもりだが、自分の声が出たのか出ていないのか、それも分からない。しかし、隣で誰かが幽かに動く気配を感じた。良かった、しゅん君はいるみたいだ。そう感じると、急に愛希は自分が安心感を覚えていることに気付いた。

 身体がだるく、また瞼を開こうとしても開かないので、今日が何日だったか、と、愛希はぼうっと考え始めた。4月の10日に退院した筈だから、それ以降なのは分かるが、正確な事は思い出せない。入院中、曜日感覚もない生活をしていたのでそのせいで分からなくなっているのだろう、と思い直す。仕事に戻ったらこの感覚も戻るのだろう、と思う。早く仕事に復帰したいと思うのだが、いつ戻れるのだろうか。

 「しゅんくん」

 今度はさっきよりもはっきり口に出したつもりである。また誰かが動く気配がする。気配が2つ。右の気配はしゅん君だと思うのだが、左の気配は誰だろうか。少し考えて口に出す。

 「エス?」

 そう口に出すと、左の気配がごそごそと動いた気がした。良かった、エスだ。左手でエスを撫でてあげようとする。エスは顎を撫でられるのが大好きなのだ。しかし、エスを触ろうと手を伸ばしても届かない。何度かチャレンジするが、どうしても届かない。そのうちに手を伸ばすことを諦めた。

 また少しぼうっとする。早く眠りにつければと思うが、中々寝つけない。いつの間にか外の風の音が聞こえなくなり、自分の心臓の音が響いてくる。子供のころ、自分の心臓の鼓動が気になって眠れなかった事を思い出す。その時は、エスを抱きしめて眠ったな、と思い出し、またエスの名を呼ぶが、エスは来てくれない。

 そうしていると、胸の中心に小さな痛みを感じ始めた。少し熱さを感じる。最初は気のせいだと思っていたのだが、じわじわと範囲が広がり、痛みはその度合いを強めてくる。身をよじりながら我慢しているのだが、どんどん我慢できるものでは無くなってくる。

 熱い。痛い。苦しい。どうして私だけがこんな苦しい思いをしなければいけないのか――痛みの中で、愛希の思考はいつもと同じ軌跡を描き始めた。そしてその軌跡は、やはりいつもと同じところに行き着く。――しゅんくん、たすけて。

 「しゅんくん、やっぱりやめて。たすけて」

 ――やっぱりやめて。愛希は自分の口を吐いて出た(と思われた)言葉が、思っていたものと違っていたことに少なからず驚きを感じていた。

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