保志野 -4-
春太からのメールの添付ファイルの写真の場所に辿り着くと、ベンチに荷物を載せ、その中からスコップとバケツを取り出した。そしてスコップで足元の土を掘り、バケツへと移していく。観光客の目を気にしてか、小さな手の動きであった。
ざくざくと小さな音が刻むリズムに身を任せ、土を掘るのなんて何時振りだろうか、と保志野は考えていた。幼稚園の時に、サツマイモを掘りに行った時の事を思い返す。その畑には藁が敷き詰められており、それらは天日で乾燥し切っていた。そしてその藁の間には、小さなオケラがいた。刃が欠けた斧のようなオケラの前足の形に見入っていたことを思い返す。その時の畑の土よりもここの土は硬い。耕されている畑とは硬さが違うのは当然だろうし、このところ雨が降っていなかったことも関係しているんだろうな、と、保志野はぼんやりと思いを巡らせながら孤独な作業に勤しんだ。
数分後。バケツをいっぱいにしなければならないが、遅々として作業は進まない。こめかみの辺りにうっすらと汗が滲んで来ているのが分かる。CMS時代に終わらない仕事を一緒にしていた際に春太が言っていた、「この世で一番苦しい刑罰」の事を思い返す。それはある刑務所で行われた刑罰だった。まず、一日仕事で大きな掘らせる。そして、次の日には同じ穴に掘った土を戻させる。そしてまたその翌日に、また同じ穴を掘らせる……というものである。
私は一体何をやっているんだろう、と保志野は思う。春太がしようとしている事が何なのかは分からないが、きっとあの女―愛希―の為に何かしようとしている事だという事くらいは分かる。そう思うと、スコップで地面を衝く力が強くなるのが分かる。乱暴に振り下ろしたスコップに当たった小さな小石が、階段を上る観光客の足元に転がって行く。保志野の方に目をやる観光客に、小さく会釈を返した。
更に数分後。バケツには半分以上土が入った。もしかしたら愛希は死んでいて、そのために何かを頼まれているのではないか。謎の砂とも灰ともつかない小瓶。人型に配置される植木鉢。それらの情報から、保志野は何となくそんな事を考えていた。だとしたら、何故愛希は死んだのだろう。やはり例の病気だろうか。普通に考えればそうなのだが、保志野の脳裏には春太に愛希が殺された、というイメージばかりが浮かんでいた。