保志野 -2-
保志野は小包を机の上に置くと、文具棚からカッターナイフを取り出した。少し歪んで貼られているガムテープを見ると、少し自分の頬が緩むのが分かる。相変わらず雑だな、と思ったのである。
箱の中には、小さな小瓶が7つと、緑色のプラスチックでできた家庭菜園用の鉢が7つ、そして小ぶりのスコップが1つ入っていた。小瓶には、砂のようなものが入っており、それらはコルク栓で封がされている。そしてその、沖縄のお土産『星の砂』を思わせるその小瓶には、アルファベットが記載されたラベルが貼られている。『H』『B1』『B2』『RA』『LA』『RL』『LL』の記載があった。鉢を確認すると、鉢の方にも同じ記載の7つのラベルが貼ってある。保志野は自分のスマートフォンを取り出し、数日前に受信した春太からのメールを確認した。
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保志野さん
お久しぶりです。結婚式以来ですね。お元気でしょうか。
突然ですが、一つお願いさせてください。ちょっと面倒くさいと思いますが、お願い出来ればと思います。
①まず、荷物を送らせて貰いました。7つ小瓶と鉢が届きますので、それを受け取ってください。
②次に、添付の写真Aの場所の土を取って来て下さい。7つの鉢に十分入るくらいの量があれば大丈夫です。
③続いて、鉢を添付の図Bのような配置にしてから②の土を入れてください。
④上記の③が終わったら、鉢のラベルに合わせて小瓶の中の物を鉢に入れてください
⑤最後に、それを3日間動かさずに、冷暗所に置いておいてください。
取り敢えずこれでお願いは終わりです。⑤が面倒だとは思いますが、よろしくお願いいたします。また、近日中にお伺いしますので、よろしくお願いいたします。
茅野 春太
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久し振りの連絡だというのに、全く味も素っ気もない春太の文面に、改めて笑いが込み上げてくる。仕事をしていた時と何も変わっていない彼の様子に、自分が少し安心感を覚えている事に気付いた。
添付の写真を改めて確認する。そこには、大きな木の下のベンチに、黒ずくめの格好をした長い黒髪の女性が座っている。力なく微笑んでいるその女性を保志野は知っていた。春太の妻の愛希である。その場所がどこかは保志野には分かっていた。観光地グラバー園に続く階段の途中に設けられたベンチである。
保志野はその写真をすぐに閉じると、今度は添付の図の方を開いた。縦の直線上に『H』『B1』『B2』の3つ。左右対称に『LA』『LL』と『RA』『RL』の2つずつ。保志野は別段勘が鋭い自覚は無かったが、これが何を意味しているかはすぐに分かった。
「人の形……」
彼女はそう小さく呟いていた。