0-0 密室の茶会
窓もドアもふすまも、この部屋に通じる全ての扉を閉じきった状態で、今日も彼らは会話をする。
毎日彼らは会話をするが、同じ時間に行われるわけでも、同じ面子でするわけでもない。
ただ黒髪の人間である少年だけは毎回この会話に参加する。それは彼がこの会話のホストであるからだ。
不潔さを感じさせないが一見ぼさっとしている頭髪の下には鋭い眼光をたたえている三白眼。中肉中背。
青の生地に白いラインが入ったジャージを着ているところを見るに、そこまでかしこまった集まりでもないらしい。
時々聞こえてくる主催者の笑い声は軽く弾んでいて、会話を心の底から楽しんでいるようだ。時折手振り身振りで表現したり、淀みなく紡ぐ言葉は彼が話し上手であることを示す。
三白眼のせいか無表情だと悪人面に見える顔も、楽しそうにはにかんでいる姿は素朴な好青年のイメージに上塗りされる。
会話もいよいよ最高潮に盛り上がり、ホストである彼も息乱れながら自分に今日降りかかった不幸を面白おかしく語っている時であった。
扉の向こうから彼を呼ぶ声が聞こえてくる。それはこの会話の終わりを意味する。
それまでいきいきと輝いていた瞳は再び鋭い眼光を携えて開いてた唇を結ぶ。
話が途中なのにも構わずに彼はこの部屋から出ていこうとする。
聞き手たちは必死に彼を引き留めようとしていたようだが、彼はその声も聞こえないようで努力虚しく扉は閉ざされる。
窓もドアもふすまも、この部屋に通じる全ての扉を閉じきった状態で、今日も彼らは会話をする。
ホストでありこの部屋の主である彼を、明日こそは引き留めるために。