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やだ、女の子って……怖すぎ

題名は本文とあまり関係ありません

「今回は……負けちまいましたか」

 

 血で染められた廊下を、傷だらけの男が歩いていく。全身に刻んだ紅いタトゥーが、まるで心臓が脈打つように淡く発光する。

 男はやがて玉座の間へと辿り着く。巨大な扉を開け放ち。その中へと脚を踏み入る。

 そこには、淡い燐光を漂わせながら消失していく魔族の男と、胸元に巨大な剣を突き立てれた人間の男の姿があった。両者とも、動く気配はなく、それは死体となっていた。


「お勤め、ご苦労さんっした」


 言葉は不要だろう。淡い燐光と共に死体が消失したのを見届け、男は暫しの黙祷の後、その場を後にする。

 血で装飾されて城の廊下は代わり映えがなく、男はその中を歩いていく。


 あの方々は無事だろうか。その心配を表すように、男はボロボロの身体のまま歩む速度を上げていく。

 ふと、男の耳に何かが聞こえた気がした。


「……?」


 それを怪訝に思い、男は声の聞こえる方へ脚を進める。歩いていくに連れ、声はハッキリとした物になっていき、男の歩調が速まっていく。

 歩みから走りへと変わり、男は声が聞こえる部屋の扉を勢い良く開け放った。


「みんなどこ~!!」


 そこには泣きじゃくりながら知人の名前を呼ぶ小さな子供がいた。そして、その子供を落ち着かせようとしている一人の少女。まるで双子のように瓜二つな子ども達は、扉を開け放った男に気付いた。

 男の姿を見て、泣き顔から一転、満面の笑みを浮かべる子供。しかし、傷だらけなことに気付くと、子供はまた泣き出してしまう。


「大丈夫だよ~。ほら、笑って笑って」


 そう言って少女は男へ目配せする。お前も何か言ってやれ、と言うことらしい。男は不器用に笑いながら、子供に近付く。


「俺は大丈夫ですから。どうか泣きやんで下さい」


 そう言いながら子供の頭を撫でる男。少女と男が暫くそうしていると、やがて子供が泣き止む。


「アルカードは痛くないの?」


「男は、こん位で泣いちゃあいけないんすよ。だから、弟君も直ぐに泣いちゃあいけませんよ」


「ほ~ら、アルカードもこう言ってるんだから、泣くのは止めなさい」


 二人の言葉に、子供は鼻を啜りながらもそれ以上涙を流さず、少しだけ笑う。

 それを見て、男も静かに微笑した。





【攻略】絶望的状況から頑張って姉君を落とそうとする弟君を応援しよう!【不可能?】

 

128:花屋のバイト吸血鬼

 何かすげえ敵に出会すんだが……


129:忍者に憧れた狼男

 見つかったのがお前なんだから当たり前でござろう


130:花屋のバイト吸血鬼

 いや、最初に俺を見つけた奴は報告される前に消したはずなんだ


131:闇堕ちした元王女

 兵士「何時から俺が死んだと錯覚していた?」


132:花屋のバイト吸血鬼

 なん…だと?


133:綺麗な真っ黒人形

 と言うか戦いながらこっちにカキコしてるの?


134:花屋のバイト吸血鬼

 そうだが何か?


135:淫魔(笑)な糖分女

 余裕ありありね


136:花屋のバイト吸血鬼

 そりゃお前、魔族が錬度の低い兵士相手に苦戦する分けねえだろ


137:忍者に憧れた狼男

 つ弟君


138:花屋のバイト吸血鬼

 まあ……あれだ、例外もいるってことで


139:凡夫な弟君

 いっそハッキリ言ってとどめを刺してくれ


140:綺麗な真っ黒人形

 先生ー、バイト吸血鬼が弟君を泣かしたー


141:闇堕ちした元王女

 いけないんだー、先生に言っちゃおー


142:淫魔(笑)な糖分女

 イジメは駄目なんだよー


143:忍者に憧れた狼男

 こらバイト吸血鬼、弟君を泣かしちゃだめでしょ!


144:凡夫な弟君

 君達、自分の言動一つ一つが僕の心を抉ってることに気づけ


145:花屋のバイト吸血鬼

 心=胸 触れて……抉る


146:忍者に憧れた狼男

 なるほど、陥没t


147:凡夫な弟君

 テメェの言いてぇ事は分かった

 面出せやおい


148:忍者に憧れた狼男

 つ面


149:凡夫な弟君

 初めてですよ、姉ちゃん以外に私を此処までコケにしたお馬鹿さんは…





 夜に包まれた世界。そんな中に、燃え上がる木々を背景に携帯端末を弄る男の姿があった。

 液晶に映し出されている知人のコメントに、男は笑みを浮かべていた。


「…取りあえず、全員元気そうだな」


 そう言って安堵の息を吐きながら、男は傍に倒れている兵士に近付く。


「悪いな、お前たちを逃がすわけにはいかねえんだ」


 じゃねえと、皆に迷惑が掛かる。そう呟き、男は地面に落ちていた剣を拾う。


「別に呪いたきゃ呪えよ。そんなのはお前の自由だからよ」


 じゃあな。その言葉と共に、男は剣を振り下ろす。甲高い金属音と、肉が裂ける音、そして短い断末魔の声が兵士の死を飾り付ける。

 他に生きている者がいないことを確認すると、男は木々を燃やす炎を消す。

 闇に包まれたその場所には男の手の甲に刻まれたタトゥーが、小さく明滅するだけだった。





「これだから朝は…」


 そう呟きながら朝日に照らされた街道をアルカードは歩いていく。その身は黒いローブで包み、フードの中にある顔には仮面を付けている。こうでもしていないと、吸血鬼である彼には日の光が耐えきれないのだ。


「……ちょっと休憩」


 そう言って呑気に木陰で休むアルカード。歩き始めてから三時間、既に七回の休憩を挟んでいる。

 アルカードは大きく深呼吸し、顔に装着している仮面を取る。


「魔界じゃ平気だってのに、何で人間界の光は駄目なんだよ」


 ぶつくさと愚痴を吐き出すアルカード。血を飲んでいないからか、今の彼は喉が渇いていた。


「…早く弟君に会いてぇ」


 そしてあの死体人形に地獄を見せたい。そんな事を考えていると、ガラガラという音が聞こえてくる。

 何が来たのか、そう思い街道を見れば、そこには商人と思しき人物が馬車を走らせ向かってきていた。

 チャンスだ。そう思ったアルカードは木陰から出ると馬車に手を振る。

 商人は手を振っているアルカードに気付いたのか、暫く進むと馬車を止める。


「済まない、もし良ければ乗せていってくれないか?礼はする」


「うぅむ、そうだねえ。あんた戦えるかい?」


「ああ、少なくとも一般の兵士達には勝っている自信はある」


「……信用しよう。何処までだい?」


 商人の言葉に即答し、アルカードは何とか乗せてもらうことに成功した。


「ヘンゼルと言う村に行きたい。その近くまで頼めるか?」


「そこなら途中で通るよ。任せときな」


「恩に着る」


 商人に頭を下げ、アルカードは荷台の中に入る。


「…生き返る」


 暑苦しいローブを脱ぎ、アルカードは腰を下ろす。魔物が何時出てくるかは分からない以上、油断は出来ない。何時でもローブを着れるようにアルカードは準備をしておく。


「兄ちゃん、どうしたってあんな村に行くんだ?あそこは菓子位しかねえ所だぞ?」


 御者台にいる商人の言葉に、アルカードは素直に答える。


「待ち人がいる」


 その言葉をどう捉えたのか、商人は好奇の視線をアルカードに向ける。それはまる野次馬のようだ。


「何だい、兄ちゃん。もしかしてこれかい?」


 笑みを浮かべながら小指を立てる商人。アルカードは面倒臭いと小さく溜め息を吐き、首を横に振る。

 その行動に、商人はそりゃ残念と呟き、正面へと顔を戻す。

 馬車に揺られながら寛ぐアルカード。携帯端末を片手でいじりながら、彼は全員の状況を確認する。





210:花屋のバイト吸血鬼

 やあ、諸君。皆のアイドルバイト吸血鬼だよ!


211:忍者に憧れた狼男

 おいィ?お前らは今の言葉聞こえたか?


212:綺麗な真っ黒人形

 聞いてない


213:闇堕ちした元王女

 何か言ったの?


214:凡夫な弟君

 俺のログには何もないな


215:花屋のバイト吸血鬼

 ちくしょうおまえらは馬鹿だ


216:淫魔(笑)な糖分女

 やけにテンション高いね


217:花屋のバイト吸血鬼

 せめてこっちではテンション高くしようと思って


218:闇堕ちした元王女

 そして子の様である


219:花屋のバイト吸血鬼

 うるさい


220:忍者に憧れた狼男

 バイト吸血鬼は今どの辺りでござるか?


221:花屋のバイト吸血鬼

 地図はとうに捨てた。今の俺は、ただの吸血鬼だ!


222:凡夫な弟君

 こいつダメダメだ


223::綺麗な真っ黒人形

 役に立たなすぎワロタ


224:淫魔(笑)な糖分女

 完全に役立たずだよ


225:忍者に憧れた狼男

 所謂 クソ でござるな


226:闇堕ちした元王女

 糞転がしとクソ、果たしてどちらが上等なのか…


227:花屋のバイト吸血鬼

 お前ら平然と俺の心を抉るのな


228:凡夫な弟君

 本日のお前が言うなスレは此処ですか?


229:淫魔(笑)な糖分女

 ざまぁww


230:花屋のバイト吸血鬼

 ま、商人の馬車で運ばれてるから問題ないがな(●´ω`●)


231:闇堕ちした元王女

 何だろう、無性に腹が立つ


232:忍者に憧れた狼男

 自分の足で歩こうとは思えないのか


233:花屋のバイト吸血鬼

 むり(*´∀`)


234:綺麗な真っ黒人形

 二人旅も意外と面白い


235:忍者に憧れた狼男

 良いでござるな

 こっちは暴力女子二名のお守りでござるよ


237:凡夫な弟君

 あ、これ死んだね


238:綺麗な真っ黒人形

 無茶しやがって…


239:花屋のバイト吸血鬼

 あっちは大変だな





「おい、兄ちゃん!」


 突然の商人の叫び声に、アルカードは何事かと顔を上げる。見れば商人は焦った様子で、前方を指差した。


「ま、魔物が出た!どうにかできないか!?」


 商人が指差した先にいるのは、三体のボブ・ゴブリンとその取り巻きのゴブリン達であった。

 魔物は、一言で表すなら劣化魔族だ。知能もしくは力が魔族より低い者達のことを表す蔑称。人間界に住む魔物達は、魔界から移住してきた者でもない限り種族では底辺をなす者ばかりだ。

 当然魔族、しかも吸血鬼であるアルカードにとっては、魔物を始末することなど弟君を捕まえることより簡単だ。


「まあ、頑張ってみるさ」


 立ち上がり、荷馬車を降りるアルカード。ゴブリン達は既に目と鼻の先まできていた。


「弱いお前らが悪いんだからよ。死んでも仕方ねえよな」


 走ってきていたゴブリンの首を懐から取り出したナイフで両断する。そして、片手でもう一体の頭を掴むと、他の取り巻きへと投げ飛ばした。

 なるべく目立たぬように、そう心掛けてはいるものの、如何せん相手が弱すぎる。苦戦しろと言う方が難しいのだ。


「………」


 投げ飛ばされたゴブリンがぶつかり、バランスを崩す他のゴブリン達。そして、それによって生まれた隙を見逃す阿呆はいない。

 近づき、頸を両断する。ただそれだけの作業。それに怖じ気づき、ゴブリン達は動きを止める。


「どうした、かかって来いよ」


 しかし、背後で控えていたボブ・ゴブリンが叫ぶと、取り巻きのゴブリン達は引き返していく。頭の方は力だけの阿呆ではないらしい。そのことに驚きながら、引くのならば問題あるまいと、アルカードも商人の下へ戻る。


「ど、どうして逃がしたんだい!?」


「あれ以上手間を増やさなくてすむだろう。それとも、この街道にモザイク処理が必要なものを転がしたいのか?」


 モザイク処理、と言うものはいまいち分からなかったらしいが、死体を指さしたことから一応言いたいことは伝わったらしい。


「いや、良いさ。ありがとう」


「素直に礼が言える人は出世するもんだ」


「だといいがね。家じゃ妻に頭が上がらなくて」


 アルカードの言葉に苦笑し、商人は肩を竦めてそう言った。その言葉に微笑する。女というのは男よりも上にいるものらしい。友人のことを思い浮かべ、その境遇にシンパシーを感じる。


「…男は皆似たようなもんだ」


「お、てことは兄ちゃんも?」


「友人だがな」


 互いに苦笑する。魔族でも人間でも、女には勝てないらしい。





245:忍者に憧れた狼男

 魔族の回復力にこれほど感謝したことはない


246:闇堕ちした元王女

 腕へし折った筈なのに何故文字が打てるのか


247:綺麗な真っ黒人形

 忍者ってスゲー


248:凡夫な弟君

 いやいやいや、魔族でもそれはない


249淫魔(笑)な糖分女

 まさかの影分身だったとは…忍者恐るべし


250:忍者に憧れた狼男

 本物の忍者は攻撃すら受けないでござる。拙者もまだまだ


260:花屋のバイト吸血鬼

 やだ、忍者も凄いけど女も怖い


261:凡夫な弟君

 女は怖いから女なんじゃないの?


262:花屋のバイト吸血鬼

 姉君はノーカンだろw


263:凡夫な弟君

 姉ちゃんは精神攻撃は基本だって言ってたよ

 心から壊してくのが愉悦らしい





 女って怖い。弟君の発言に戦慄しながら、アルカードは女だけには手を出すまいと心に決めたのであった。


 当然、弟君の発言は聞こえなかったと言うことで処理されたのは、語るまでもない。

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