四 バラバラ
人間界は大きく分けて三つの大陸と五つの国から出来ている。互いに争い、時に手を結んだ五つの国は、ある緊急事態の時だけは損得を抜きに手を結び、ペンタゴンと呼ばれる連合軍を組む。そしてその緊急事態とは、魔王討伐である。
世界最大と呼ばれる王国"クロノス"。その宮殿に、勇者と呼ばれる一人の女性がいた。
肩胛骨にまで届く美しい金髪を結い、男性用の貴族服で白い肌を包み込んだ翡翠の瞳を持つ女性。その美貌は人間としては完成されすぎていた。そう、まるで人間ではないかのように。
そして、その女性の腰に提げられているのは、クロノスの象徴である聖剣。
「……結構暇なものね」
大理石調の広大且つ長大な廊下を歩きながら、女性は美しいソプラノの声で中庭を眺める。
「……老害共は自分の保身ばかり、人間は使いやすから楽ね」
その容姿からはとても想像出来ない言葉を吐き、女性は歩く。既に夕暮れ、夜になるのも時間の問題だろう。
「夜が恐いなんて、まるで私の弟みたいね」
尤も、私の弟はあんな豚共とは違って愛らしいけど…。そう心で付け加え、女性は弟のことを考える。熱を帯びた瞳と、僅かに朱に染まった頬を上気させるその様は、まるで恋した乙女のようだ。
どんな風に弄ってあけようか。女性の頭にはそればかりであり、他のことなど微塵も興味はありはしない。
果たしてどれほどの時間を費やしていたのか、気付けば空には月が昇り、周囲は闇で包まれていた。
「……またか」
何時もこうだ。考えるあまり周囲のことが入らなくなる。これのお陰で、弟が話し掛けてきてくれた時も、返事を出来ず無視されたと思われへそを曲げれてしまっていた。
「……苛めたいなぁ」
そう呟いていた女性の瞳は、金色に輝いていた。
【攻略】絶望的状況から頑張って姉君を落とそうとする弟君を応援しよう!【不可能?】
93:凡夫な弟君
皆、今何処にいるの?
94:忍者に憧れた狼男
拙者と糖分女、それに元王女はウェルデンという街にいるでござる
95:花屋のバイト吸血鬼
え、マジ?俺そこと逆方向の村にいるんだけど…
96:忍者に憧れた狼男
やってしまったでござるなorz
97:闇堕ちした元王女
弟君と真っ黒人形は?
98:凡夫な弟君
川
99:淫魔(笑)な糖分女
?
100:綺麗な真っ黒人形
迷った
101:花屋のバイト吸血鬼
えっ
102:淫魔(笑)な糖分女
えっ
103:闇堕ちした元王女
これはヤバいよね?
104:忍者に憧れた狼男
ヤバいでござるな
105:綺麗な真っ黒人形
ごめんなさい(´・ω・`)
106:凡夫な弟君
いや、僕がテンパっちゃって……ごめん
107:闇堕ちした元王女
取り敢えず、状況的に私達も危ないから直ぐ出て行かなくちゃ…
109:忍者に憧れた狼男
真っ黒人形と弟君、それに花屋のバイト吸血鬼はヘンゼルと言う村に向かうでござる
そこで合流して、道が重なる所で今度は拙者らと合流でござる
110:花屋のバイト吸血鬼
おk
111:綺麗な真っ黒人形
了解
112:凡夫な弟君
分かったよ
113:闇堕ちした元王女
弟君のことよろしくね
114:淫魔(笑)な糖分女
バイト吸血鬼と弟君の仲に進展があったら報告してね
115:凡夫な弟君
>>114
が期待するようなことはないよ
116:忍者に憧れた狼男
あ、女の子疑惑も後で報告よろ
117:凡夫な弟君
止めろ
「良し、それじゃあ先に進もうか」
「…ん」
僕は街で手に入れた地図を見て、大まかな現在地を把握する。どうやそこまで大きく外れたわけではないようだ。たぶんだけど…。
「ユイ、身体は大丈夫?」
「…へいき、弟君は大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ」
「…女物の服で走っていたのに、疲れていない。やっぱり女の子……?」
「おい」
今のは聞き捨てならない。僕はユイの頭を軽く小突く。ホントにその考えから離れて欲しい。切実に。
「もう、行くよ」
僕は溜め息を吐きながら、変なことを口走るユイにそう促して歩を進める。
アルカードがいるという村からヘンゼルまで、アルカードが走ると想定して約六日だろう。それに合わせるためには、少しだけ急ぐ必要がある。
昼間は碌に動けないというのは緊急時には結構困るなぁ。何か光を防げるものを買ってあげる必要があるかもしれない。
「ユイ、少しだけ走るよ」
「…ん」
僕はユイにそう告げて走り出す。加速を使うほどではないし、魔族の身体能力なら普通の人間よりも速い。
所々休憩をとりながら、大体六時間ほどだろうか。時折、例の如く皆のおふざけが入り疲労困憊で眠りこけたが、僕達は漸く街道に出ることが出来た。空は白くなり始め、周囲も明るくなり始めていた。
「……………………………」
「もう少し落ち着けば?」
忙しなく部屋の中をうろうろと歩いている風魔に、雪は冷静に告げる。しかし、風魔が落ち着くことはなく、チラチラと携帯端末から書き込みがないか確認までし出していた。
「そう簡単に落ち着けないでござるよ」
口調にも、僅かな焦燥の色が見える。そのことに溜息を零す雪とエリー。
「……これはやはり弟君×風魔の予感」
「どれだけ期待してるのよ。その内三角関係とか言い出さないでよね?」
「もう始まってる」
エリーの言葉に弟君も大変だなぁ、と雪は苦笑する。
「風魔は少し過保護すぎるんじゃないの?もっと信じてあげなさいよ」
何も今更始まったことではないが、ユイと風魔は仲間内でも群を抜いて弟君に対して過保護だ。二人の境遇というものもあるが、それを抜いても過保護過ぎる。
尤も、仲間内で弟君のことを心配していない者はいはしないのだが…。
「それにしても、これからどうするの?」
「そうね、今は少しでも遠くへ逃げなくちゃ。魔族が人間界に来てることが知れ渡ったら
、全面戦争よ」
さらりと途轍もない発言をし、雪はテーブルの上に地図を広げる。
「三人の合流地点であるヘンゼルが此処にあるんだから、合流するとすれば……」
「クロノスが一番でござろう」
その言葉に地図を見ていたエリーと雪が顔を上げる。
「もう直ぐクロノスで国を挙げての式典があるでござる。警備も厳重でござろうが、民衆の熱気から気持ちも浮ついているでござる。合流するには打って付けでござるよ」
「何時の間にそんなに調べたの?」
エリーののんびりとした声に、風魔は呆れたように口を開いた。
「エリーが酒を仰いでる最中にでござるよ」
「私そんなことしたかしら?」
「飲み過ぎでござる」
エリーの言葉に眉間の皺を揉む風魔。何故だろうか、このメンバーだと精神的にまいってしまうだろうと風魔は直感した。
「それじや、三人にはクロノスで合流って伝えればいいわね?」
「うむ」
118:闇堕ちした元王女
合流場所はクロノス
詳しい位置は後ほど
119:凡夫な弟君
了解
120:花屋のバイト吸血鬼
了解
121:忍者に憧れた狼男
女の子疑惑について早よ
122:綺麗な真っ黒人形
実はお姫様抱っこしたらね
123:忍者に憧れた狼男
>>122
お前は拙者を怒らせた
124:花屋のバイト吸血鬼
>>122
屋上
125:淫魔(笑)な糖分女
>>122
何それ羨ましす
126:闇堕ちした元王女
>>122
自ら死地を進むか
127:凡夫な弟君
お前等全員屋上
「良かったわね、弟君が元気そうで」
「うむ、安心でござる。しかし…」
「ユイをどう料理するかが重要」
その言葉に三人が神妙そうに頷く。もし此処に弟君がいれば、間違いなく逃げ腰だろう。それ程妙な威圧感を出していた。
「そう言えば、姉君は何処にいるのかしら?」
「ああ、それは……あ」
「……まさか」
「だ、大丈夫でござろう。流石に式典中には…弟君を見つけない限りは……きっと」
「弟君は運がないものねぇ」
「不穏なこと言わないで欲しいでござる」
「いや、風魔の発言でフラグが立った気が…」
「気のせいでござる」
雪とエリーの二人の視線から顔を背ける風魔。その表情は強ばり、脂汗が浮かんでいる。
「は、早く行くでござるよ。此処にそう長くはいられないでござるからな」
「逃げた」
「逃げたわね」
背後の女二人の言葉に、聞こえない聞こえないと呟きながら風魔は荷物を纏めていく。
「ほらさっさと行くでござるよ。クロノスは結構遠いでこざるからな」
「はーい」
「はいはい」
風魔の言葉にやや不満を抱きながらも二人は返事をする。
三人は瞳の色を変え、朝日の昇りだした世界を三人は歩き出した。