廃墟の旅館
昔ある六人の若者達が、酒の席で「心霊スポットである廃墟に肝試しに行こう」と言った。
その廃墟というのは元は旅館であったが、そこの旦那が女中に手を出し妻であった女将と修羅場になり、旦那と女中は消え女将が首を吊って死んだ、というそんな噂があったのだ。
その六人は酒の勢いもあり、気が大きくなって「じゃあ今から行こう」という事になった。
けれどもその六人は知らなかったのである。
その廃墟にまつわる噂は、まだあったという事に…。
六人はその廃墟に着き、中に足を踏み入れていき順に部屋を見て廻った。
最初は勢いづいていたが、ここまでの段階でもう酔いは醒めてしまい、何人かは怖がっていた。
そして最後にその六人が「女将が首を吊って死んだ」という噂の部屋の前に来たが、その時メンバーの一人が何かに気付いた。
A,「なぁ、何か聞こえてこないか…?」
B,「お、おい、怖い事言うなよ…。」
A,「いや、でも本当に何か聞こえるって…」
そして一同は耳を済ませてみた。
「…だん……なさ…ま…だ…ん……な…ん……」
C,「…本当だ、なんか聞こえる。」
E,「きっと、風の音だろ。」
D,「…なぁ、もう止めにして帰んねぇか?流石にヤバイだろ。」
E,「馬鹿っ!ここまで来ておいて、今更そんな事言うなよ。」
F,「…俺もDに賛成かな。俺ここまで来るまでに、なんか視線みたいなの感じてるんだけど…」
E,「そんなの気のせいだって!俺は行くぞ。」
B,「お、おい!待てって!!」
Bの制止に構わず、Eは扉を開けた。しかし
E,「…何だよ、何にも無いじゃないか。脅かすなよ。」
そこにはただ荒れ果てた部屋があっただけであった。
E,「ったく、何が『幽霊が出る』だよ。何にも出なかったじゃないか。」
C,「やっぱり噂は噂だな…一寸待て、何か聞こえるぞ。」
E,「何だよ、「旦那様」とかってか?…って、何だ?」
最初はふざけていたEも、何か只ならぬ気配に耳を済ませた…。
「だん、な、様~…旦、那様~…」
その声は部屋の奥から聞こえたのである…。
E,「…。な、何だよコレ。だ、誰だよ『旦那様』って…」
A,「そ、そんなの知らねーよ!!」
D,「お、おい!は、早く戻ろうぜ!何か、近づいてきてる!!」
六人は急いで車に戻った。しかし
D,「おい!早く、早く車出せよ!早く!!」
E,「さっきからやってるよ!!でもエンジンが掛からないんだよ!!」
C,「んな馬鹿な訳あるか!…おい、何だアレ!?」
全員がCが指差した方を見た。それは…
『旦那様~~~!!!!!』
凄まじい顔をした着物姿の女が、物凄い速さでこちらに向かってきていたのである。
と、その時エンジンが掛かり、車は猛スピードで来た道を戻っていった。
しかしその背後に…
『旦那様~~~!!!!!』
その車を追う様に、信じられない速さでその女が付いて来ているのである。
その女は車との距離をどんどん縮めて、とうとう手を伸ばせば届くのではないかという位近づいてきていた。
六人は「もう逃げられない」と諦めかけたが、丁度その時街の灯りが見え、女の姿は消えた。
車はそのままコンビニに駆け込み、六人は店員に事情を話し助けを求めた。
そしてそのコンビニの店員から、その廃墟に纏わる更なる話を聞かされたのである。
「その廃墟で死んだ女将は、幽霊となって今でも旦那を探しているらしい。」
「その消えた旦那と女中は、女将の呪いのせいで死んだらしい。」
けれども、六人はその店員から更なる信じられない事を聞かされた。
曰く「その廃墟になった旅館は、数年前の火事で焼失し、今ではそこは焼け野原になっている」
その話を聞き、六人は顔を更に青ざめた。
では自分達が行ったあの廃墟は何だったのか?
何故ある筈の無い廃墟が存在していたのか?
そしてもし、あの女に捕まってしまっていたら…?
……皆さんも、心霊スポット等に行く際は気を付けて。
何かの弾みで、この世に帰れなくなってしまうかもしれません。
もし、心霊スポットに行って自身の身に何かあった場合は
全て、貴方の責任ですよ?
皆さんも心霊スポットに行かれる際はご用心、ご用心…。
皆さん、如何でしたでしょうか?
この物語を聞いて、どう思われましたか。
私?私ですか、そうですね…。
興味本位と噂だけで行動したりすると、その内とんでもない事に成るかもしれませんねぇ…。
え、何々?「つまらない」?「他に何かないのか」?
いえいえ。案外こういった事は大事なんですが、意外と気付きにくいものなんですよ。
それはそうと、この物語を聞いて部屋の中に自分以外の誰かの気配がありませんか?
もしそうなら、気をつけてくださいまし。
あの女将が貴方の所まで来たのか、あるいは…
他の「誰か」が、後ろや隣にいるかも知れませんからねぇ…。