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7.ヤクザの会長と困ったちゃん

7.ヤクザの会長と困ったちゃん



 東栄会はこの辺りを仕切っているヤクザだ。 栄光企画は東栄会が経営する会社で、主に不動産、人材派遣を行っている。 同じく東栄会の系列に栄建設がある。

 栄建設の世話役、向井洋一郎は健司がダンプに乗っていた頃、同じ現場で仕事をしていたことがあった。 彼の部下が黒いクーペに乗った女のこと聞きまわっている男がいると向井に告げた。 向井は、健司にそのことを喋った作業員を呼び出し、話を聞いた。 そして、逆に今後は健司の動きを見張って報告するよう脅すと、東栄会本部へ出向いた。

 東栄会会長の若田部巌は都市計画を巡って俊彦と一戦交えた後、俊彦の先を見る目と度胸の良さに惚れ込んで以来、いい関係を続けている。 東栄会自体、ヤクザではあるが、暴力団とは違って昔ながらの任侠を重んじ、“薬”や“殺し”などの違法な行為には一切、手を出さない“健全”なヤクザだった。

 向井は早速、若田部を訪ねると、健司の件を報告した。

「会長、例の女の件を嗅ぎまわっているヤツがこっちへ出てきているそうです」

「それで、そいつの素性は調べたか?」若田部は窓から外の景色を眺め、向井に背を向けたまま聞いた。

「はい。 北関東の松波組の系列会社に1千万の借金があって、それを返済するのに松波のヤバい仕事をやっているようです」向井が答えた。

「1千万ごときの借金で、そこまで追い込まれるとは小さいヤツだな」

「どうしますか?」向井は目をギラつかせ、若田部の指示を待った。

「松波は厄介だなあ…」少しの沈黙の後、若田部は続けた。

「黒木君と相談してみるから、少し泳がしておけ。 但し、絶対に目を離すなよ」

「承知しました」向井は一瞬、がっかりした表情を浮かべると、深々と頭を下げて部屋を出て行った。


 健司は焦っていた。 車の目撃情報からこの町まではたどり着いた。 しかし、それから先はまったく情報がなくなった。 健司の車を見たと教えた男も同じ車を見ただけで、その車に女が乗っていたかどうかまでは知らないと言いだした。

「クソッ! どうしてだ? この辺にいるのは間違いないはずなのに…」


 俊彦は健司がこの町に来ていることを知らされた。 俊彦は若田部に頼んでマリをガードしてもらうことにした。

「面倒なことをお願いして申し訳ありません」

「分かった。 たやすいことだ。 店に出る時は同伴を装ったサラリ-マン風に変装した者や同僚のホステスを装った女装の男を付けるよ。 帰りも同じくアフターを装って部屋まで送り届けてやるさ」

「くれぐれも、複数の人間を交代で使って下さいね」俊彦は念を押す。

「分かってるよ。 そうでなければボディーガードだとばれて、警戒されるからな」そう言って若田部は笑った。

 俊彦は若田部を送り出すと時計を見た。 11時50分。 

「昼か。 会長にメシでもご馳走すればよかったかな…」と思ったが、若田部はそういうことを受け付けるような男ではなかった。 部屋に戻ると、マリが昼食の支度を終えたところだった。

「今日のメシは何だ?」キッチンを覗きこむ。 すると、マリはグリルから焼いたサバを取り出した。

 マリが部屋に転がりこんできて以来、朝食は俊彦が、昼食はマリが用意することにしていた。 この日の昼食のメニューは、サバの塩焼き、ジャガイモと玉ねぎの味噌汁、冷ややっこ、スライスしたトマト、ひじき、白菜の漬物だった。

 昼食が終わると、俊彦はマリに店への送り迎えを付けると話した。

「何かあったんですか? もしかして、健司が?」マリは不安げに聞いた。

「ああ、仕事関係の取引先の社長から写真の男を見たと連絡があった」

「あの…」マリは申し訳なさそうに口を開いた。

「どうした?」俊彦はマリの表情を見て、何が言いたいのかを察した。

「部屋に置いてもらっているだけでも迷惑をかけているのに、これ以上、トシさんには迷惑はかけられません。 私、この町を出ます」マリの口から出てきた言葉は俊彦が思った通りのものだった。

「最初に聞いた。 最初に全部聞いただろう? その上で引き受けたんだ。 どんなことが起きても覚悟の上さ。 もっとも、事情を聞いて追い出すくらいなら、はじめからここには連れてこないさ。 あの晩、君を送る前にマスターに耳打ちされたんだ。 “訳あり”見たいだから、ヤバいと思ったら放り出してもかまわないってね」

俊彦はそっとマリの肩に手を置いて続けた。 「“訳あり”はけっこう好きなんだ」

 マリは俊彦にしがみついて泣きだした。 そして、「あがとうございます」泣きながら声を震わせ、どうにか言葉を絞り出した。 俊彦はマリの腕を振りほどき立ちあがった。

「一つだけ言っておく。 コトが済むまでは、俺と君は契約関係にある。 そのことだけは忘れないでくれよ」俊彦がそう言うと、マリは首を横に振った。 そんなマリを振り切って俊彦は部屋を出た。 「困ったちゃんだな」







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