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6.訳ありとカレーライス

6.訳ありとカレーライス



 健司は必死だった。 金づるが消えてしまったのだ。 このままでは借金取りに追い込まれる。 必死で奈美恵の居所をつき止めようと躍起になっていた。 奈美恵が働いていた店のマネージャーを脅して隣町のスーパーにも行った。 一週間、無断欠勤していると言われた。

 以前、勤めていた電機メーカーの工場にも行った。 親しくしていたものがいなかったか聞いて回った。 そこで、奈美恵の母親がいることをつき止めた。 しかし、母親の住所を知っているものはいなかった。

 健司は借金取りの連中に、その情報を流した。 彼らはすぐに奈美恵の母親の家を探しだした。 奈美恵の母親は男と同棲していた。 奈美恵とは縁を切っているので、一切関係ないと突っぱねた。 それならと、今、奈美恵がどこにいるかだけでも聞きだそうと粘っていたら、一緒に住んでいる男が警察に通報したらしく、パトカーがやってきた。 健司は逃げるようにその場を去って行った。

 部屋に戻って、やけ酒を飲んでいると、借金取りの親分から電話がかかってきた。

「今月分の支払いが遅れているぞ」健司は生きた心地がしなかった。 彼はこの辺りでは名うてのヤクザの親分でもある。

 奈美恵を探すのは置いといて、取り合えず、金になる仕事を探さなければならない。 そう思った。 そこで、恥を忍んで親分に事情を説明し、「何でもやる」からと懇願した。

 ヤクザの親分は、奈美恵を追いかけても金を回収できないと判断し、健司をヤバい仕事につかせた。 金のために健司はどんな仕事も引き受けた。 取り立て、薬の売人、そして、とうとう人殺しまでやる羽目になった。

 そんな仕事をやっているうちに、ひょんなことから、奈美恵が車を買ったことを知った。 そのクーペを東京で見たという情報を得ると、健司も東京にやってきた。



 マリは最初の給料が出るまでの間、俊彦のマンションに置いてもらうことになった。 俊彦に言われた通り、店には自転車で通った。 店では、あまり目立たないように最低限の接客に徹して、アフターに誘われてもすべて断った。

 俊彦はマスターにだけは事情を説明しておいた。 マリも客からクレームがくるほどのこともなく、相応にやっていた。

 俊彦がマスターに事情を話したのにはわけがあった。 健司という男がマリ、いや、奈美恵を連れに来るかもしれないと思ったからだ。 俊彦もマスターも、この辺りでは多少裏の方面にも顔が聞く。 怪しいヤツが来たらすぐに連絡が入るようになっていた。



 黒木俊彦がこの町で不動産会社を興してから既に15年たっていた。 大手不動産会社に就職して8年。 30歳で独立した。 最初は3坪程度の貸店舗で細々と営業していた。 そこに都市開発にかかわる情報が入って来た。 当時二束三文だったその土地を有り金はたいて買い閉めた。 当然ガセネタの可能性もあったが、俊彦は勝負に出た。 それが当たって莫大な利益を得た。

 開発を巡っては地元のヤクザとひと悶着あった。 しかし、俊彦は金と持ち前の度胸に物を言わせて全てを円満に解決したのだ。 それ以来、この土地のヤクザとは持ちつ持たれつの関係をキープしている。

 マスターはその系列の下っ端に当たる。 そして、シノギとしてこの店をあてがわれている。 俊彦がこの店を気に入っているのは、このマスターが変にヤクザっぽくなく、それこそ、脱サラしたお父さんのように低姿勢で儲けを度外視してでも客に喜んでもらおうと色々なサービスをやっている姿に感動したからだ。

 俊彦が住んでいるマンションの部屋を“訳あり”と言ったのは、そのマンション自体がヤクザが経営している裏会社の資産で、それを隠すために俊彦の不動産会社に名義を移し、利益はすべて払い戻すようにしていたからだ。 この町でいちばんの不動産会社の社長が住んでいるマンションは高い家賃でも人気があった。



 俊彦はマリのために、必要なものをリースで取り寄せ、物置になっていた寝室の隣の部屋を空けた。

「君はどんな料理が得意なんだ?」俊彦はいつものようにコーヒーを淹れながら聞いた。

「得意なものはないけれど、だいたいのものなら作れるわ」

「じゃあ、ひとつ今夜は腕を奮ってもらおうかな」

 マリは迷ったあげく、カレーを作った。 サラダとスープ、そして揚げ出し豆腐。

「ほー、カレーとは驚いたな!」俊彦は味見をして頷いた。

「最高だ! 変に凝った料理じゃなくてカレーにするとはな。 それにこの揚げ出し豆腐がいい」そう言われてマリはほっと胸をなでおろした。 俊彦は益々マリに興味を持つようになった。





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