3.ベーグルサンドと目玉焼き
3.ベーグルサンドと目玉焼き
マリは俊彦の部屋のリビングでソファに座っていた。 俊彦はキッチンでコーヒーを淹れている。 いい香りがリビングにも漂ってきた。
マリは俊彦の部屋をきょろきょろ見回してみる。 飾り気のない部屋だが、奇麗に片付いている。 俊彦がコーヒーを淹れているキッチンとは対面式のカウンターで仕切られている。 一瞬、俊彦と目が合うと、マリはすぐに目をそらしてうつむいた。
しばらくすると、俊彦がトレーに珈琲の入ったマグカップとツナと野菜のベーグルサンドを二つずつ乗せて運んできた。
「とりあえず食べよう。 いろいろ考えていたら、小腹がすいてきた」
深夜三時。 ベーグルサンドを食べ終わると、俊彦はタバコに火を付け、マリをじっと見つめた。 マリはまだ、食べ終わっていない。
「聞きたいことは山ほどあるが、今日は疲れたから二つだけ答えてくれ。 そうすれば、今晩だけは置いてやる。 あとは明日、ゆっくり聞かせてもらうからな」そう言って俊彦はタバコをくわえて、煙を吸い込んだ。 マリは最後の一口を頬張ると、俊彦の顔を見上げて頷いた。
「じゃあ、まず一つ目。 どうしてウソまで着いて俺についてきた?」
マリは噛み砕いたベーグルサンドをゴクリと飲み込むと、珈琲を一口すすった。
「この人なら信用できると思ったから」俊彦の目をしっかり見つめて答えた。
「信用できる人について行こうとした理由は?」
「それは二つ目の質問?」
「いいや、今の答えが不十分だから、聞きなおしている」
マリは少し困った顔をしたが、すぐに話し始めた。
「元彼に付きまとわれて逃げ回っているの。 昨日までは車を止めていたホテルに隠れていたのだけれど、部屋代が払えなくなってあのお店で働くことにしたわ。 でも、お給料は月末だし、入ったばかりで前借なんてできないから、マスターが貴方に送るように話しているのを聞いて、最初はお金を借りようと思ったんだけど、一晩だけでも泊めてもらおうと考え直したの。 部屋まで送って行けば、入れてくれると思ったわ。 部屋にさえ入れてもらえたら、疲れて寝たフリでもすれば、追い出されはしないだろうと思ったの。 幸い明日は土曜日だし」
マリの話を聞いた俊彦は吸っていたタバコを灰皿に押し付けて火を消した。
「ダメ? 今の答えじゃダメ?」マリが聞いた。 俊彦は首を横に振った。
「じゃあ、もうひとつだけ答えてくれ」俊彦が言うと、マリはうなずいた。
「今日は帰る場所がないんだな? そして、金も持っていない?」
マリは黙ってうなずいた。
マリが目を覚ますと、ベッドに俊彦の姿はなかった。 携帯電話で時間を確認すると、8時35分だった。
昨夜は、俊彦の部屋に泊めてもらった。 俊彦が寝室の床にベッドのマットレスを置いてくれたので、マリはそこで寝た。 俊彦はマットレスを取った固いベッドに毛布を敷いて寝た。
マリが寝室からリビングに行くと、俊彦はキッチンで朝食を作っていた。 マリに気が付くと俊彦はフライ返しを持った手をあげて「おはよう」と言った。 俊彦は厚切りのベーコンを焼きながら、目玉焼きを作っていた。
マリはベランダの方へ歩いて行き、外の景色を眺めた。
「よく眠れたか?」朝食を運んできた俊彦がマリに聞いた。
「おかげさまで」マリは、そう答えると、昨夜と同じようにソファに腰掛けた。
恐る恐る俊彦の顔を見ると、俊彦は何事もなかったかのように、料理を指して微笑んだ。
「昨日はごめんなさい。 トシさんはよく眠れましたか?」
「ああ。 それより、早く食べな。 今日は色々聞きたいことがある。 それに、泊めてやった分、働いてもらうぞ」
かなり危険なにおいもしたが、俊彦は、この訳ありの女に興味を持った。 マリは、この先どうするべきか、決めあぐねていた。




