2.ダブダブのセーターと黒いクーペ
2.ダブダブのセーターと黒いクーペ
閉店時間になると、マリは私服に着替えてきた。 ダブダブのセーターにジーンズ。 そして革のブーツ。 俊彦は思わず、大きく開いたセーターの胸元に目がいった。
「何見てるのかな?」マリはそう言うと、わざと両手をひざに回して前かがみになる姿勢を取った。 大きく開いた胸元から中のブラジャーが見えた。
俊彦は一つ咳払いをして、マリに背を向けた。
「さあ、帰ろうか」
二人が店を出ると、マスターが見送ってくれた。
「お休みなさい。 今日はどうもありがとうございました」
俊彦は振り向いてマスターに手を振った。
俊彦は車を止めている駐車場へ向かって歩いていた。 マリは俊彦の2、3歩後ろを離れて歩いている。
「どこまで送ればいいんだい」駐車場の入り口でマリに聞いた。
「こっち!」マリは急に俊彦の腕を掴んで歩きだした。
「お、おいっ、どこへ行くんだ?」
「いいから、ついてきて。 トシさん、お酒飲んでいるのに運転なんてさせられないわ」
そして、マリは俊彦をホテルへ引っ張り込んだ。 さすがに俊彦は驚いた。
「おい、ここはまずいだろう…」
マリは何も言わずに俊彦の腕を引っ張って歩いていく。 フロント係の女性に手を振ってあいさつをすると、そのままフロントを通り過ぎ、裏口から駐車場へ出た。
「私が送ってあげる」
そこには黒いクーペが停めてあった。 マリは助手席のドアを開けた。
「はい、乗って」
そう言い、俊彦を助手席に押し込むと、自分は反対側に回って運転席に乗り込んだ。
深夜2時を過ぎた道路には黒のクーペ以外、走っていなかった。 時折、タクシーが追い越して行く。
ボリュームを落としたカーラジオからは、深夜放送のディスクジョッキーがゲストとクリスマスのイベントについて話しているようだった。
「トシさんの家はどの辺りかしら?」マリは前を向いたまま俊彦に聞いた。
「南町3丁目」
「へ~、そうなんだ。 私もよ」今度は、ちらっと俊彦の方を見た。 俊彦は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに真顔に戻した。
近くまで行くと、マリは俊彦が指示する通りに車を走らせた。 そして、最近、建ったばかりの高層マンションの前で車を止めるように言われた。
「あら、偶然ね。 私もそこ」
マリはマンションの前のパーキングに車を止めると、俊彦と一緒にマンションへ入って行った。
「トシさんは何階?」そう言って、一緒にエレベータに乗った。 俊彦は18階のボタンを押した。
「ウソー! 私も18階なの。 信じられない」やたらはしゃいでいるマリとは対照的に俊彦は終始無言だった。
「ねえ、トシさん? ここには家族で住んでいるんですか?」
「いいや、俺は一人もんだ」
「ふーん、そうなんだ…」マリは少し考えているようなしぐさをして言葉を続けた。
「…じゃあ、トシさんの部屋に行ってもいい?」
「ダメ!」
「え~? どうして?」
エレベーターが18階に到着し、ドアが開いた。 俊彦がエレベーターから降りると、マリも一緒に降りてきた。 最上階のそこには部屋が一つだけしかなかった。 マリはウソがばれていたことを悟った。




